がんばれセブンティーンアイス
今や当たり前に見かけるセブンティーンアイスの自販機だが、改めて考えるとその功績は大きい。なんせ、大人が堂々とアイスを買い食いできる文化を作ってくれたのだから。
ありがとうセブンティーンアイス。
自販機は「人が集まる場所」にあるというから、今まさに外出自粛の影響をもろにくらっていることだろう。こういう時こそ日頃の感謝を込めて、わざわざ買いに行きたいと思う。
駅や商業施設などで見かけるセブンティーンアイス。出先で甘味を欲した時、あのでかい自販機をつい探してしまう。あれが初めて登場したのは、約35年も前になるらしい。今や全国に2万台が設置されているという。
駅や街角で毎日のように見かけているのに、そういえばセブンティーンアイスのことをよく知らない。どんな歩みを経て、ここまで勢力を伸ばしたのか? なぜボウリング場やスイミングスクールでやたら見かけるのか? あの剣みたいなかっこいい形に意味はあるのか?
そんな数々の疑問について、詳しく伺う機会を得ることができた。
インタビューまとめ:榎並紀行(やじろべえ)
セブンティーンアイスは江崎グリコが製造するワンハンドアイス。その名の通り17歳の学生をターゲットにしているというが、おじさん世代にも大人気だという。
「中年の会社員の方にもよくお買い求めいただいているようです。お客様への聞き取り調査では、ミスをして会社に戻らないといけない時に、怒られる前にエネルギーを補給しようとセブンティーンアイスを食べたなんてお話もありましたよ」
そんな微笑ましいエピソードを教えてくれるのは、江崎グリコの遠藤寿之さん。セブンティーンアイスのマーケティングを担当している。
対するデイリーポータルZサイドからは、セブンティーンアイスに特に興味津々なメンバー3名が選抜された。筆者のほか、編集部の古賀さん、ライター谷頭さんである。
さっそく三人がかりでグイグイ質問を浴びせていく。
榎並:
あの自販機、今では至る所で目にしますけど、いつから置かれるようになったんでしょうか?
遠藤さん:
その前に、じつは最初は自動販売機じゃなかったんですよ
榎並:
え?
古賀:
なんと!
遠藤さん:
1983年にセブンティーンアイスが誕生した当初は、酒屋さんや駄菓子屋さんなどのアイスケースで販売していました。店頭にセブンティーンアイス専用のケースを置かせてもらっていたんです。
谷頭:
「専用」のケースなんですね。
古賀:
他のアイスと一緒に売るんじゃなくて?
遠藤さん:
そう、だから他社さんのアイスがごちゃ混ぜに入っているケースの横に、セブンティーンアイス専用のケースがもう一台並んでいる状態です。
古賀:
でも、それだけ売れる目算があったってことなんですかね?
遠藤さん:
ところが、売れなかったんですよ。2年間その形で売っていたんですけど、なかなか花が咲かない。で、この商品どうする? という話にもなったようです。
古賀:
ありゃあ。
遠藤さん:
そこで、「売る場所」を変えることにしました。みんな(ライバル商品)がいないところで、なおかつ人がたくさん集まる場所に置こうと。最初に目をつけたのがボウリング場です。当時はボウリングブームだったので、若者が集まる新宿コマ劇場のミラノボウルにアイスの自動販売機を設置しました。ちなみにセブンティーンアイスの自動販売機が置かれたのは、これが日本で初めてでした。
谷頭:
ボウリング場っていうチョイスが意外ですよね。
榎並:
小学生くらいの子供ではなく、ある程度の大人を狙い撃ちにしたってことですかね?
遠藤さん:
はい。セブンティーンアイスはもともと17歳の学生でも楽しんでもらえるようにと開発された商品ですからね。つまり子供だけでなく、高校生や大人になっても楽しめるような“おしゃれで今時なアイス”というコンセプトがあったので、そういう方々が出かけていく場所で売ればいいんじゃないかと考えました。
古賀:
売れましたか?
遠藤さん:
バカ売れしました。
谷頭:
よかった。
古賀:
話を聞いていると、そのままなくなりそうな勢いだったから。
榎並:
以降もボウリング場を中心に拡大していったんですか?
遠藤さん:
ボウリング場所だけでなく、学生や大人が集まる様々な場所に拡大していきました。人が集まる場所って、時代によって変わるんですよ。例えば、レンタルビデオが全盛だった頃は、ビデオを借りるついでにアイスを買っていただこうと、店舗に自動販売機を設置していました。
榎並:
そういえば、20年前にバイトしていたビデオ屋にもあった気がします。
谷頭:
あと、スイミングスクールなんかにもなかったですか?
古賀:
あった! あったわ! スイミングスクール。
遠藤さん:
お客さんにお話を伺うと、子供の頃にスイミングの習い事を頑張ったご褒美としてセブンティーンアイスを買ってもらった思い出が残っていて、大人になってからも自然と食べるようになったっていうお話をよくお聞きしますね。
榎並:
そういうことを狙ってスイミングスクールに置いているんですか?
遠藤さん:
スイミングスクールに限らず、購買に至るまでのストーリーやシチュエーションはかなり考えて設置場所を選んでいますね。たとえばショピングセンターのなかに自動販売機を設置する場合、意外なところでも売れます。どこだと思いますか?
古賀:
休憩するベンチの前とか?
谷頭:
子供狙いで、おもちゃ売り場じゃないですか?
榎並:
フードコート。食後のデザートに食べたくなるから。
遠藤さん:
正解はトイレの近くです。もちろん、休憩するベンチやおもちゃ売り場の近く、ゲームセンター等もとてもよく売れます。
古賀:
まさかでしたね。
榎並:
なぜトイレ?
遠藤さん:
小さいお子さん連れのご家族であれば、1回は子どもをトイレに連れていくと思います。そこでアイスの自販機が目に入れば、お子さんはきっと欲しがるでしょう。親御さんとしても、そこでアイスを買ってあげれば、「あのオモチャ買って」とせがむこともなくなる。結果、子どもも大人もハッピーに過ごせるだろうと。そういうシチュエーションも想定したりしています。
谷頭:
そんな思惑があったとは。
榎並:
そういえば、子どもの頃それでまんまと大人しくなっていた気がしますね。
古賀:
自動販売機によって売られている商品って違いますよね?
榎並:
そうそう。僕がたまたま見た池袋駅の自販機では、シャーベット系が一つも売られていなかった。季節によって商品を入れ替えているんですか?
遠藤さん:
季節も考慮しますが、それよりも重要視しているのは「業態ごとの購買データ」と「設置場所の環境」ですね。例えば、自動販売機ごとに購買データをとっていますので、業態ごとに高回転商品のランキングをつけてエリアマネージャーに商品ラインナップを提案したりしています。また、同じ駅であっても構内には風が吹き抜ける寒い場所もあれば、暖かい場所もあります。ロケごとに環境が異なるので、暖かい場所には冬でもシャーベットのアイスが売られているはずですよ。
古賀:
へー。
谷頭:
すごい手間。
榎並:
1台1台そんなことやっているんですか?
遠藤さん:
2万台あるので、全てとなるとなかなか難しいですが、その場所その場所でお客様が求める商品を提供したいと考えています。エリアだけでなく施設の種類によっても売れ筋は異なりますので、業態ごとにオペレーションを行うこともありますよ。例えば……温浴施設だったら、どんなアイスが人気だと思いますか?
榎並:
またクイズだ。
谷頭:
風呂上りは喉が乾くからシャーベット系じゃないですか?
古賀:
シャーベットで間違いないですね。
遠藤さん:
と思いきや、じつはモナカ系なんですよ。温浴施設はご高齢のお客様が多いので、その年代の方々が好まれるモナカがよく売れます。喉の渇きは水でいいみたいですね。
遠藤さん:
また、駅のホームで食べる場合は、ゴミが出ないコーンタイプのものがよく売れます。あとは観光地など非日常の場所になると、いわゆる定番ものはあまりウケないんですよ。せっかくならいいアイスを食べたいという心理が働くのか、少し価格が高い(200円)のスペシャルセレクションが好まれます。ですから観光地などではお客様の“ハレの気持ち”を満たすことができる高額商品のラインナップをあえて揃えたりもします。
谷頭:
戦略的ですね。すごい!
榎並:
でも自販機に入る種類は限られているから、選ぶの大変そう。
遠藤さん:
大変です。それに、じつは自動販売機の種類も一つじゃないんです。従って、自販機の違いもふまえて最適な品揃えを模索していますね。私の力不足で、まだまだ手が回っていない部分もありますが。
谷頭:
自販機っていろんな種類があるのか。
古賀:
確かに、たまにすっごい細いのとかありますもんね。
遠藤さん:
中身のアイスだけじゃなく、自販機もじつは少しずつ進化しています。収容本数をアップさせつつ自販機本体をスリム化したり、LED照明で明るさを上げつつ電力をカットしたり、押しボタンの位置を変えて押しやすくしたり。じつは1月からまた新しいタイプがデビューします。2021年に発行される新500円硬貨に対応し、より環境に配慮した省エネ性能のものになっています。
榎並:
アイスだけじゃなくて自販機へのこだわりもすごい。
古賀:
自販機自体の認知度も高いですもんね。
遠藤さん:
せっかく作るのであれば愛されるような自販機にしたいですよね。プリクラとかって、中で撮るだけじゃなく筐体をバックに記念撮影したりするじゃないですか?(※遠藤さんは仕事柄、プリクラの観察も行うそうです)。セブンティーンアイスの自販機も、そういう存在になればいいなと思っています。
榎並:
そういえば、自動販売機のグッズも作っていますよね?
谷頭:
自動販売機のグッズ?
榎並:
こないだまで、自動販売機型のスマホモバイルバッテリーが当たるキャンペーン(※現在は終了)をやっていたんですけど、それがかわいくてかわいくて。
古賀:
そういえば、セブンティーンアイスって自販機に商品を補充しているの見たことなくて。やっぱり溶けにくい温度の低い夜に作業しているとかそういうことですか?
遠藤さん:
補充を見られること、ほとんどないと思います。作業は昼にやっているのですが、とにかく早いんですよ。シュバババババーっと入れていく。私もあの作業は無理です。
古賀:
す、すごい。プロすぎてその姿が見えないんだ。
谷頭:
ちなみに、一番人気のアイスって何ですか?
榎並:
僕はクッキー&クリームが好きです。
古賀:
あ、私も。
遠藤さん:
まさに、クッキー&クリームが一番人気ですね。
古賀:
やった!
榎並:
あいつ、どの自販機でもけっこう目立つポジションにいますもんね。
遠藤さん:
いい場所をキープしていますよね、ちなみに、20年秋からクッキーを30%増量したんです。上にクッキーが乗っていたほうが嬉しいかなと思い、天面にのせています。
古賀:
知らなかった。ありがたい。
榎並:
最近はこっそり量を減らして実質値上げみたいな傾向もあるけど、その逆ですね。
谷頭:
そういうプチ進化みたいなことって、他にもありますか?
遠藤さん:
ちょっとしたリニューアルも含めると、毎年なにかしら変えていますね。ぱっと見は変わっていないようですが、例えば抹茶は外側にかかっていたソースを中に練り込んだり、チョコレートも原材料を変えてみたりと、じつはいろいろやっているんです。
榎並:
そんなにいろいろやってくれたんですね。
古賀:
気づかなくてすみません。
谷頭:
既存商品の見直しだけでなく、新しい商品も生まれていますか?
遠藤さん:
そうですね。例えば、その時々で流行っているスイーツなどがあれば、試してみたりすることもあります。原宿でマネケンさんのワッフルが流行った時には、それをヒントにワッフルコーンのアイスを出しました。今でも時代にあわせた新商品を適宜、上市しています。
榎並:
ただ、晴れて商品化してもすぐに自販機デビューできるとは限らない。既存の人気商品の間に割って入らないといけないわけですよね。
古賀:
自販機のラインナップに加わるの、やっぱり相当な狭き門なんですか?
遠藤さん:
まさにアイドルと一緒で、神7ならぬ神17に食い込むのは大変ですよ。ただ、たとえばチョコミントは今では売れ筋ランキングの上位常連商品ですが、これは長年の商品育成が花を開いた例なんです。
古賀:
確かにチョコミントっていつの間にか定着した感がありますね。
遠藤さん:
僕がセブンティーンアイスの担当になった4年前は、わりとアンチチョコミント派がいたんです。歯磨き粉の味がするって。でも、僕はチョコミントが大好きすぎるのでずっと推していました。去年は渋谷モディ1階に「チョコミントスクエア」というスペースを作り、チョコミントアイスだけを販売する自販機を期間限定で設置したりしましたよ。
谷頭:
あ〜覚えてます、チョコミントスクエア。
古賀:
ゴリ押しだ。
榎並:
ちょっとえこひいきしすぎでは? クッキー&クリームスクエアも作ってください。
遠藤さん:
いやいや、チョコミントみたいに好き嫌いが分かれるものって、ネタになりやすいんですよ。チョコミントスクエアも、好きな人とアンチの人が一緒に来て楽しめる空間になればいいなと思って。
谷頭:
実際、評判になりましたもんね。
遠藤さん:
チョコミント愛に溢れる私としては、とても嬉しかったですね。みなさんはチョコミント食べますか?
谷頭:
食べます。
古賀:
むしろ好きですね。
榎並:
この流れで言いづらいけど、僕はクッキー&クリームのほうが好きです。
古賀:
最後に聞きたいんですけど、スティックタイプのプラスチックの剣みたいな形って、独特ですよね。
榎並:
確かに。かっこいい以外に意味があるんですか?
遠藤さん:
あの形は発売当初にはすでに完成していました。変な形だなと思われるかもしれませんが、じつは様々な工夫が詰まっています。まず、棒の部分はなめやすいよう先端を丸くしつつ、子供の喉にも刺さらないよう短くなっています。3つ穴が空いているのは、アイスとスティックの接着強度を高めるため。炎天下でも溶けにくくする工夫ですね。あとは受け皿の形状にも特徴があります。
榎並:
これ、受け皿だったら山じゃなくて谷にしたほうがよくないですか?
谷頭:
うん、逆のほうが落ちないのでは?
遠藤さん:
普通はそう思いますよね。じつは谷にしてみたこともあったんですよ。でも、それだと谷底に溜まったアイスがなめられなくなり、液体として残ってしまうんです。これは缶入りのコーンポタージュのコーンを最後まで食べられない悔しさに似ています。
榎並:
ああ、確かにあれは悔しいですからね。
古賀:
でも、山だとアイスが滑り落ちちゃうのでは?
遠藤さん:
そこはギリギリまで持ち堪えられる角度にしたり、外側に小さな溝を作ることで落ちないようにしています。あと、3つの穴。これによって左右のアイスが繋がってアイスが落ちにくくしています。ここが一番のこだわりかもしれないです。だってアイスがべちょって落ちたら、子どもはトラウマになっちゃいますからね。
谷頭:
やさしい。
古賀:
あの形はやさしさのかたまりだったんだ。
榎並:
僕からも最後に質問なんですが、あの自販機、自宅の前に置いたりできますか?
古賀:
なぜ?
榎並:
好きな時に好きなだけセブンティーンアイスを食べるのが夢なんです。
遠藤さん:
普通の一般住宅の前となると基本的には難しいですが……。ただ、十分な需要があれば、もちろん検討いたしますよ。例えば先ほどご覧いただいた自販機は1台につき460本のアイスが入って、週に1度のペースで補充しています。ですから、毎週このくらいの数が安定的に売れる場所だという事であれば一度お声がけください(笑)
谷頭:
4人家族として、ひとり頭1日14本ちょっとか。
榎並:
いけないことはないですね。
古賀:
アイス好きの町内会とかで誘致すればいけるかも。
今や当たり前に見かけるセブンティーンアイスの自販機だが、改めて考えるとその功績は大きい。なんせ、大人が堂々とアイスを買い食いできる文化を作ってくれたのだから。
ありがとうセブンティーンアイス。
自販機は「人が集まる場所」にあるというから、今まさに外出自粛の影響をもろにくらっていることだろう。こういう時こそ日頃の感謝を込めて、わざわざ買いに行きたいと思う。
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