気象予報士増田さんの天気解説10月・後編 2024年10月10日

急に涼しくなった日は、「高気圧の合戦」を天気図で楽しもう

(画像は気象庁ホームページより・一部加工)

急に涼しくなりました。

秋の高気圧が元気になってきた証拠かもしれません。
この季節、秋の高気圧と夏の高気圧のバトルが楽しめますよ!

(ここの文と構成・岡田有花)

前編はこちら

1977年滋賀生まれ。お天気キャスター。的中率、夢の9割をめざす気象予報士です。 好きな言葉は「予報当たりましたね」。株式会社ウェザーマップ所属。
ツイッターでも気象情報やってます。(動画インタビュー)

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9月はちゃんと「暑さ寒さも彼岸まで」だった

林:
9月の東京の天気を振り返りましょう。9月2日から3日にかけて最高気温が30度を切り、また30度超えに戻ったけれど、22日からの3連休でガクっと下がりましたね。

西村:
連休はずっと曇ってましたよね。

林:
3連休の最後の日にロイホに行って外出たら、お客さんが「寒っ!」って言ってた。

でも、20度ぐらいだったんですよね。気温だけ見ると寒いという感じじゃない。もうみんな、暑いのに慣れちゃって、おかしくなってるなと思って。

増田:
確かに僕も外で「寒い」と思ったんですけど、平年並みだったんです。9月の朝の本来の気温ですから、人間がいかに慣れから脱するのが大変かっていうことですよね。「暑熱馴化」といって暑さに慣れてしまっていると、平年の気温が「寒い」になっちゃうわけですよね。

この気温の落ち方で僕はもう、感動しました! 秋分の日が重なってる連休ですので、お彼岸なんですよ。「暑さ寒さも彼岸までって、本当だ。すごい!」と。

岡田:
でもまたすぐに30度を超えて、暑くなりましたよ。

増田:
確かに、30度級はありますが、35度級の日は現れなくなりました。 でも人間は贅沢ですから「30度が暑い」って言っている。

10月の2週目ごろにもう1段気温が下がるでしょう。それも今(この日は30度超え)に比べれば天国のはずなんですけど「いや、10月の半ばにしては暑い」と、文句を言ってしまうんでしょうね。

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秋雨前線は楽しい

林:
9月の連休が急に寒くなったのは、秋雨前線が南下してきたからですか?

増田:
まさにそうです。秋雨前線が雨を降らせながら下がることによって秋の空気がやってきて、1歩季節が前に進むということですね。

林:
今日10月2日の日本の気温分布は、すごい分かりやすかった。秋雨前線を境に、南北でこんなにきれいに分かれて。気持ちいいですね。

気象庁ホームページより 2024年10月2日12時のアメダス気温
気象庁ホームページより 

増田:
きれいですよね。

西村:
気温が高いところとちょっと低いところが、前線で見事に分かれているのが面白いですね。

林:
愛媛なんかも県内で分かれている。

増田:
いいです。最高ですね。

林:
たまらない。

岡田:
何がそんなに楽しいのか全然わかりません。

増田:
車でちょっと東西に行ったら、「あれ、さっきまで半袖でも暑かったのに、今は寒いわ」と。たった10分、20分を車や電車で移動するだけで前線を味わえる。これは感動じゃないですか?

岡田:
前線の下を通ったんだなという実感……。

林:
風向きも変わってるってことですかね。南風が北風に。

増田:
変わってると思いますね。

関東では秋の終わりぐらいに、南風が吹く日があるんですよね。天気が崩れる前後に。

南風が届くところは気温が上がるんですけど、その南風がなかなか内陸まで入らない。そうすると、 例えば多摩川を境に温度が全然違ったりする。東京23区の中でも 温度が全然違うので、ちょっと電車に乗って数駅行ったら、半袖から長袖になるとか、そういう瞬間が現れる日は興奮できると思いますよ。

岡田:
そうですか。

林:
福岡の気温は夜にカクンって下がってる。風向きも変わって。 

気象庁ホームページより アメダス・福岡の観測データ、2024年10月1日~2日​​​​

増田:
夏にあんなに暑かった福岡の太宰府が、10月2日のお昼は18度ですよ。

太宰府は今年、35度以上の「猛暑日と言われる日」が62日もあったんです。1年の6分の1が35度以上。国内920地点ぐらい観測所がある中で、35度以上の年間記録として断トツなんですね。

林:
もう熱帯の国ですね。生活の様式を変えないと。

増田:
10月1日夜の福岡は、はじめ熱帯夜だったわけですよね。夜中でも25度とかだったのが、2日朝には19度で寒いぐらい。天気図を見ると、ちょうど朝方に秋雨前線が福岡を通り過ぎているんですよね。

天気予報を見ておけば、朝「寒っ!!なんだこれ」と驚かず、寝る前に厚めの布団を置いて、寒くなればかけられるような状態で寝られるということです。天気予報見るべし! ですね。 

林:
台風が通り過ぎるのは天気予報で注目しますけど、前線が通り過ぎるのも面白いですね。

増田:
秋の空気の最前線!

西村:
前線が目で見えることはあります?

増田:
肉眼で見えることも、たまにありますね。秋の寒冷前線の雲が通過する時などに。

寒冷前線は寒くて冷たい空気の最前線なので、北風とかに変わって一気に気温が下がるんですけど、意外とほっそりした雨雲でさっと雨を降らせて終わりっていうこともあります。寒冷前線の先っぽで「あの雲が寒冷前線の雲だ」と分かるのは、たまにあります。 

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「台風一過」暑くなるのはなぜ

林:
きのう(10月1日)は、台風17号が関東のすぐ東側の海上を通り過ぎていたんですね。今日が暑いのは(東京都心で最高31.9度)、台風が過ぎたからなんですか?

増田:
そうですね。台風は南の熱帯から来るので、暑い空気を持ってきてしまう。

林:
台風17号は、関東エリアにほぼ影響なかったと思うんですが、なぜですかね?

西村:
最大985hPaなので、そこそこの勢力ですよね。

増田:
勢力としてはまあまああったんですけど、幅が小さい“コンパクト台風”だったんです。ひまわりの映像で見ても、多分渦巻いてる部分が結構ちっちゃいですよね。

台風の中心はそこそこ荒れていたはずです。海上は嵐ですね。

“1000hPaの輪っか”の中は嵐になりやすいと、昔は言われていました。天気図の等圧線は、1000hPaのところで太線になるんですが、この中は風が強くて危ない目安だと。今は、天気図だけで予報を判断することはないですが。

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天気図で「高気圧と高気圧の合戦」を楽しむ

西村:
台風17号が関東に上陸までしなかったのは、高気圧が邪魔していたんですか?

増田:
もし東の(夏の)高気圧が強かったら、台風が西に追いやられて、関東の陸に近づいたり、場合によっては上陸もあり得たんですけど、東の高気圧が夏場に比べると退いているので、台風も東へ東へ逸れてく。

もっと広い範囲で見ると、東の(夏の)高気圧が、(西の)大陸にある秋の高気圧に押されていている。秋に押されて、夏が東へ移っているので、台風も東にそれたということですね。

林:
高気圧同士のせめぎ合いがある。

増田:
高気圧ってでかいんですよ。季節のヌシなんです。

林:
高気圧と高気圧の間に前線がある。高気圧同士の合戦感がありますよね。

増田:
そう、本当に戦場の最前線です。

林:
日本で戦わないでほしいですけどね。

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「冬将軍」は古い言葉?

岡田:
そういえば、NHKの冬の天気予報で、「冬将軍」っていうキャラが西の大陸あたりに出てくることがありますけど、あれは高気圧なんですかね?

冬将軍のファンアート(画・岡田有花)

増田:
冬将軍はですね……今の天気図にあるのは秋の高気圧なんですけど、冬の高気圧は「シベリア高気圧」といって、ロシアのほうにできるんです。

「冬将軍」という名前にも歴史がありまして、ナポレオンまで遡ります。ナポレオンは常勝将軍で、勝って勝って勝ちまくっていたんですが、ロシアに攻め込んだ時に破れて退却せざるを得なくなった。退却させたのが、ロシアの寒さや雪だったんです。

それをイギリスの新聞記者が「General Frost」、つまり「冬(霜)将軍」と表現し、それが今でも続いているという説があります。ひとつの説ですけどね。

西村:
日本だと明治以降ですね。

増田:
はい。冬将軍は昭和のころの天気予報では言われていたんです。「この大シベリアにあります冬将軍が」みたいな感じで、気象庁のOBの方とかがNHKで味のある解説をされていて。

でも90年代に気象予報士制度ができて、いろんな気象キャスターが出てきた時「冬将軍って古くさいんじゃないか」と、みんな使わなくなったんですよね。2000年代初頭ぐらいまでは。

でも、あるときから某公共放送の天気図に、「冬将軍」のイラストが出てきた。他の気象予報士はみんな「古いことやってるなぁ」という風に見ていたんですが……。

でも「公共放送がこんなに可愛らしいキャラを!?」というミスマッチにインパクトがあったのか、ネットで話題になって、だんだん、民間の気象予報士も使うようになっていって。

特に、昔の事情を知らない若い人には「冬将軍」が天気予報の当たり前だと思って使うわけですよね。 

「猛暑日」と同じで、私も使わないようにしていたんですけれど、「冬将軍」も市民権を得ちゃったか……っていうことで、私も偉そうに言ってますけど、手のひらを返す時は返すんです。すいません。

気象予報士も、本当の空気だけじゃなくて世の中の空気も読みながらですね。ファッションと一緒ですよね。30年周期とかで昔のものがリバイバルするファッションみたいに、まさかまさか冬将軍がこんなリバイバルされるとは思わなかったですからね。

林:
冬将軍って、英語の翻訳なのが意外ですよね。日本の言葉っぽかった。

増田:
そうです。だから1点だけ言いたいのは、冬将軍はロシアにいた冬の将軍様ですよ。某公共放送のイラストは、なんで日本の武士なんだ? 兜なんだ? と。

岡田:
ロシアっぽい、新しい冬将軍のイラストを作るべきでは? 「これが本当の冬将軍です」と。

増田:
と言いたいところですけれども、あちらの戦争が終わってくれないとなかなか……。ここも世の中の空気を読んでいかないとっていうとこでございます。

10月だけど、「半袖兄さん」大活躍

林:
10月の東京の気温について。30度は超えましたね。

増田:
今日(10月2日)、超えちゃいましたもんね。10月の1週目の週末はまだ超える可能性はあります。

林:
雨予報の日が多いですね。

増田:
まだ秋雨のシーズンが続きそうです。昔は、秋雨のシーズンは10月の上旬まででした。1964年の東京オリンピックで10月10日に開会式が設定されていたのは、雨が上旬に終わって晴れるだろうと思われていたから。実際に開会式は晴れでした。

当時は10月でも寒い時は寒い日があったみたいですよ。当時の記録を見ると、最高気温が20度に届いてない日も結構ありますね。一番高い気温が23.3度です。

夏の空気と秋の空気のせめぎ合いで秋雨前線ができ、秋雨のシーズンになるんですが、最近はシーズンが後ろにずれるようになりました。

林:
64年の東京オリンピックの時代からは、半月ぐらいずれてる。

増田:
涼しくなるのも遅くなり、夏の空気の退却が遅れているので、秋雨のせめぎ合いのシーズンも後ろにずれちゃって。10月半ばまでは続いてしまう。

ですから、来週(10月6日週)の初めぐらいまではまだ暑い日があって、1つ間違えれば30度いく可能性がありますね。その後、10月10日前後の雨からは、もう一段気温は下がると思います。

林:
22度まで下がる予報の日もあって。半袖のせめぎ合いでもありますね。

西村:
半袖兄さん……。

増田:
みんな、半袖兄さんから逃れられなくなってきましたね(喜)。23度以上だったら、日中に半袖でもいい。いつもの年に比べて涼しくなるのは遅いんだろうなと思います。

まとめると、秋雨のシーズンがいつもより遅くずれ込み、10月の半ばまで続きそうだというのと、 気温は段階的には下がっていくけれども、それでも平年よりは高めだよねというところですね。

林:
台風はまだ来ますかね?

増田:
来るかもしれないですね。あと5個ぐらいは発生するかもしれないです。

9月の最低気温は「17.7度」でした

林:
9月のクイズは「9月の最低気温は何度でしょう」でしたが。正解は17.7度。

9月の問題:東京の最低気温は?(小数点以下1桁までお答えください)
正解:17.7度。

HASさんが0.1度違いでほぼ当てました。「9月の平年値の最低値」と、ちゃんと理屈で攻めていて、当たっていますね。

近かった皆さま
🥇HASさん
予想:17.6℃ (正解と0.1度違い)
9月後半の最低気温は例年並みになりそうとのことなので、そのまま9月の平年値の最低値になると予想します。
今日(9/12)も最高気温が34度を超えてきてるので、早く落ち着いて、の希望も込めて。
🥈オザワ・イチンノロブさん
予想:18.2℃(正解と0.5度違い)
去年と同じぐらいでしょう。いま海外に来ているので日本のことワカリマセーン
🥈マンゴープリンさん
予想:18.2℃(正解と0.5度違い)
昨年とほぼ同じと予想したものの気持ち低めにしました

増田:
お見事。素晴らしいです。東京の9月の平年の気温で、1番低いのは9月30日。それが17.6度なんですね。

問題が公表された日(9月7日)は34度もあったのに、17.6度を予想された。想像つかないですよ、普通は。

林さんが18.8度、西村さんが15.5度。16.6度を予想した人もいましたね。みんな、同じ数字を並べていて。

林:
宝くじが外れた時の言い訳みたいだ。数字は正解に近いんだけど、実際は大きく外れている。

増田:
そうですよね。僕も昔、年末ジャンボで「100組 111111」という宝くじをたまたま買って、「うわすげえ!」と思って大興奮したんですけど、これ絶対当たらないです。

岡田:
買った時がピーク。

クイズ:10月の最低気温は? “冬コー父ちゃん”の出番はあるか

林:
10月の問題も最低気温にしましょうか。東京で何度まで下がるか。
10度を切ったりはしないですよね?

10月の問題:2024年10月の東京の最低気温(小数点以下一桁までお答えください)
回答はこちらから(締め切り:2024年10月14日23:59)

増田:
切る年もありましたけどね。10月のこれまでで1番低い気温は、東京都心でマイナス0.5度。1870年、明治時代です。

林:
すごい。氷河期みたい。

岡田:
明治のころから毎日記録に残してくれているなんて、すごいですよね。

増田:
当時は、気温の変化に文句を言わず、趣を感じていたんじゃないでしょうか。エアコンがない、エアーをコントロールしてない時代の人たちは。

エアコントロールしてる我々は、気温の変化に文句しか言わないみたいになっちゃってるような。大いに反省するべきかも。

さて、2023年10月の東京の1番低い気温は11.4度です。2022年は9.2度。19年は12.1度でした。 さあ、2024年10月は、10度を下回るか下回れないか。

西村:
下回ってほしいという願望で、9.8度ぐらいまでいってほしいな。

増田:
コートがいるレベルになりますよ。10度を下回ると冬コートを着る1つ目安といわれています。

「半袖兄さん」に次いで流行語大賞にノミネートされる候補として「冬コートーちゃん」というのがあってですね。とう(10)ちゃん。

赤坂の朝の天気予報で実際に言ったことはあります。怖くて反響はエゴサしてないですけど。

西村:
来週雨がいっぱい降るって言ってるんで、ちょっと涼しくなって……。

増田:
願望ですね。

西村:
8.5度。2022年と同じぐらい。

林:
そこまで下がらないんじゃないですか。おれは10.1度で。「下がらなかったね、ギリギリ10度切らなかったね」っていう。

岡田:
9月を当てた人、平年の最低気温プラス0.1度でしたよね。10月は……。

増田:
東京の10月の平年の最低気温は、10月31日で11.7度です。

岡田:
じゃあ11.8度で。

最近、夏の後にすぐ冬が来る感じがして。秋を感じたいんです。10月2日で30度なのに、月内に冬の気温になるなんて許容できないから、10度は切ってほしくない。

増田:
10月の半袖率もだんだん上がってきましたよね。秋服、売れないでしょうね。

林:
カシャカシャしたスプリングコートを着るのは1週間、せいぜい2週間ぐらいですね。

西村:
何を着たらいいか本当わからないですよ。

増田:
半袖兄さんと冬コートーちゃんを覚えておけば、何を着ればいいかわかりますから!(満面の笑顔) 

半袖兄さんと冬コートーちゃん
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