東急電鉄のリアル運転席がこれでもかと味わえてしまう
その番組は「GO!GO!東急線」。
デイリーポータルZの運営元であるケーブルテレビのイッツコムが放送している番組だ。
10分番組としてお茶の間に運転席からの風景を流しているわけだが、これがとにかく東急電鉄沿線民(イッツコムのフォローエリアは東急線の沿線なのですな)の心をつかんで離さず、なんとこのたび1時間番組が総集編として組まれることになった。
タイトルは「もっと走るよ GO!GO!東急線 ~総集編~」(放送時間等詳細はこちら……!)。10分と言わずもっと走っちゃう。
待ってました! とはこのことであろう。
おそらく大半を占めるであろう沿線外みなさまにおかれましても、近隣を走る鉄道の運転席からの映像が流れる番組がもしテレビ放送されていたらと、どうか想像してみてほしい。
どうです。興奮するでしょう。
まずひとつ、イッツコム加入している方は要チェックやで! というのをご連絡つつ、この記事では、東急圏外のみなさまにも……これは! という運転席の景色の魅力をお伝えしたく、試写でピックアップした見どころをお伝えしようと思う。
お近くを走る電車の景色と重ねて感じとっていただけたらと思います。
草、車両、地形の側面から景色を見る!
冒頭で暴露のとおり、私は鉄道ファンとは間違っても言えない。なんせ「電車でGO!」だってやったことがないくらいだから運転席で興奮する前提科目の履修がまだだ。
というわけで、今日は景色を紹介するにあたって一緒に観るメンバーを召喚した。
地形担当:三土たつお、西村まさゆき、林雄司
3名はともに地面のファン。地図を読み、散歩をしては足で地形を確かめている。
特に西村は県境や市境といった境界を、林は勾配を愛する。
三土は暗渠のファンだが、一方で街を形作る様々を観察することも趣味としており「景色」を情報としてとらえることに熱意を注ぐ。
強いことに三土メンバーは小学生の息子さんが立派に育った鉄道ファンということで、今回は車両等についての貴重なコメントを伝えてくれた(尊敬)。
草担当:加藤まさゆき
さらにデイリーポータルZ理科班から加藤を招集。
加藤といえば本職が理科教師とあり理科全般に通じるがなんといっても強みは草である。草愛を持って車窓を見守ってくれた。
ワイガヤ必須の布陣。収録当日はここにイッツコムから番組制作担当の落合も加わっての1時間であった。
では、いよいよ乗り込もう。しゅっぱつしんこう~~!(言いたかった!)
田園都市線は登山電車だ
林
田園都市線は多摩丘陵を無理やり切り開いて作ったので高低差がある路線ですね。あれは登山電車だと思ってます。断面図を作って景色をつきあわせて見ると最高でした。
古賀
全体的の高低差は運転席からの眺めだといっそうわかりやすいかもですね! 期待……!
中央林間駅を通過
三土
上を見ると、パンタグラフに電気を送る架線が1本、シンプルカテナリーというタイプと思われる……んですが、5秒後には架線が2本になってますね。より大きな電流を流せるが手間のかかるツインシンプルカテナリー。区間によって切り替えるのかな。
古賀
お、おお……物を知る人の車窓の解像度の高さいきなりすごいな……。
つきみ野駅を通過
三土
2本の架線が切り替わるところ、エアセクションですね。仕事を終えた架線が、次の区間は頼んだぞ、といって去っていくように見える。
古賀
三土さん、早くも情報面、情緒面でめちゃめちゃエンジョイできてて羨ましい。
南町田グランベリーパーク駅
落合
ここで番組担当の落合です。
今日はイッツコム社内からも田園都市線の線路沿いの見どころ情報を集めて持ってきました。
ええと「南町田グランベリーパークのショッピングモール・鶴間公園には、時々、サングラスをかけた豆柴が散歩している」だそうです。
古賀
急な情報の軟化! しかも社内から! いい会社だ。
三土
ホーム、まだグランベリーパークになる前で時代を感じますね。貴重な記録とも言える。
落合
2015年に撮影した動画なんです。路線を通じてホームドアが設置される前のホームの様子も写ってます。
すずかけ台駅を通過
林
すずかけ台の近くには高尾山という山がありますね。あの高尾山と同じ名前。
西村
丸いトンネルの向こうに四角いトンネルが見えておもしろいな。時代で形が違うんですかね。
三土
アップダウンの多い地形がダイナミックですね。地形図を確認すると、中央林間ではなだらかだった台地が、つくし野あたりから急に凹凸が多くなるのが分かります。
豪邸の訳と「金曜日の妻たちへ」の舞台
すずかげ台駅を通過
林
ここのあたりは高級住宅街ですよね。宅地を細かく分譲しちゃいけないんだそうです。
古賀
なるほど、だから豪邸が多いのか。
つくし野駅を通過
林
「金曜日の妻たちへ」の舞台がつくし野ですね。あのドラマを今見ると、造成したての町で、街路樹がまだ細いんです。
三土
鉄道好きの息子から、対向電車、8500系の伊豆のなつ号のラッピングではないかとの見解です。レアだそうです。
加藤
言ったら怒られるやつかもしれませんが……つくしって貧栄養環境でしか育たないから、植物クラスタがつくしの平原をまじめにイメージすると荒涼とした風景が思い浮かびます。
長津田から先の駅名は「つくし」「スズカケノキ」「グランベリー(クランベリーの造語?)」「つきみ」とイメージ型の駅名が続き、最後の中央林間で正気に返る感じがしますね。
加藤
つくばエクスプレスも「守谷」から「みどりの」「みらい平」「万博記念公園」「研究学園」と続き、終点の「つくば」で正気に返る。
終点は正気に返りがちかもしれない。
長津田駅を通過
落合
社内からの情報です。長津田駅のホームには、こどもの国線ホームへつながっている地下トンネルがあったそうです。2000年3月にこどもの国線通勤線化以降使用停止されたんだそう。
さらに長津田の車両基地を作る際には遺跡が出て、当時はJRの方から遺跡発掘現場がよく見えたそうです。
古賀
わんこ情報から一転硬派な情報が。
西村
ここ、架線の鉄塔がかっこいいですよ。
三土
左側の窓のない白い建物、変電所ですかね。
トンネルの上に建つマンション
田奈駅を通過
西村
トンネルの上に家があるのすごいですね。家から見たら、家の床下に電車が吸い込まれる感じだろうか?
林
そこ、気になりすぎて家賃調べてしまいました。揺れるからか少し安いみたいですね。
加藤
ちなみにトンネルの左上の花はサルスベリっぽいです!
古賀
え……?
青葉台を通過
林
青葉台、地元の人は「バダイ」と呼ぶらしいです。
古賀
オラつきたいときに前を取って略すパターンありますね。あ、ここ好きです。近づいてくる「ロコ」。
三土
あ、ここまでで初めて通過線が現れましたね。長津田を出た各駅停車が最初に抜かれるとしたら次の藤が丘駅ということかな。
藤が丘駅を通過
三土
鶴見川上流の谷でぐっと視界が広がりますね。上を通る東名高速。いい景色。
加藤
左側、イチョウ並木ですね。
撮影した季節を植物から特定!
市が尾駅を通過
加藤
市が尾駅は名門校である桐蔭学園があるので、教育関係者の中では名前だけは有名な駅です。
駅を出発してすぐの左、花の群れが見えますね、樹種までわからない。キョウチクトウ? ということは、撮影したのは9月くらいかな。
江田駅を通過
林
住所は荏田、駅は江田なんですよね。
西村
保線用の車両がアツいですね!
三土
ずっと上のほうにある門型の鉄塔は、東京電力の送電鉄塔だそうです。鉄道の上を通すという手もあるのか。
三土
ここ、鉄道好きの息子が対向電車が気になると言ってました。側面に赤いラインは8500系の赤帯編成とよばれるものではないかと。
たまプラーザ駅を通過
西村
運転席からみるとホームって曲がってるものだなと分かりますね。たまプラーザも曲がってる。
鷺沼駅を通過
西村
ポイントが多くて、銀河鉄道999のオープニングみたいになってるのは見どころですね。
三土
息子によると、左奥の大井町線用の8500系は数本しかなくて今はもうなくなっちゃったんだそうです。
林
鷺沼を出て宮前平に向かって下がっていく。左の車庫との高低差がどんどん開いていくのがおもしろい!
宮前平駅を通過
林
で、下った先に鉄橋がありますね。低地に川というわかりやすい地形です。いいなあ。
宮崎台駅を通過
古賀
あ、ここ気になってたんです。トンネルが車両にぴったりすぎじゃないですか。入りきるか不安になる。
高津駅を通過
加藤
このあたりから線路沿いに全く草が生えなくなるんですよね。
古賀
草ファンが拗ねた!
三土
息子によると、大井町線は各駅停車でも高津と二子新地に止まらないやつがあって、幕の色が緑のやつは通過、青は停車と見分けるらしいです。これは緑なので通過ですね。
切符のにおいをかいだらカレーのにおいがした思い出
二子玉川駅を通過
落合
社員からの情報です。「自動改札が導入された直後、下車する二子玉川駅で裏が黒い切符のにおいをかいだらカレーのにおいがした」とのことです。
古賀
うちの社員、ある意味めちゃくちゃ頼もしい。
用賀駅を通過
林
ここから渋谷まではもうずっと地下です。二子玉川の低地から用賀に向かってトンネルものぼり坂で、用賀から桜新町ものぼりですね。地下だけど地形通り!
桜新町駅を通過
西村
銀座線とかとは違ってトンネルがけっこうぐにゃぐにゃしてる。シールド工法だからかな?
三軒茶屋駅を通過
西村
地下、番号でカウントダウンしていきますね。100メートルごとなのか。
池尻大橋駅を通過
林
このカーブは山手通りをこあえて道玄坂に入ろうとているところかな。
古賀
電車乗っていていま地上だとどこを走ってるか考えたことなかったです……!
というわけで、みっちり1時間、田園都市線の運転席から各駅停車で景色を眺めてあれこれ盛り上がった。
みんなの興奮の方向がちょっとずつ違うのが面白い。社員のみんなからの情報の意外さも、なんなんだ! と思いながら最高に味わったのでした。
貴族の遊びってこれか
「貴族の遊び」という慣用句があるが、田園都市線の始発から終点までの運転席からのながめを1時間、おうちでゆっくり座って観るというのは、まさにこれがそうか「貴族の遊び」じゃないか。
普段は働く人しか見られない景色である。それを私たちは今日なんの責任もストレスもなく暖かい部屋で座って観ていた。リモートで集まった趣味の人たちが集まりおしゃべりも楽しい。圧倒的に貴族が遊んでいる。
放送が観られる方は、ぜひ。なんならお紅茶と一緒に皿が3段になってるみたいなやつでスコーンとかケーキとか食べながら観てください。
さて「もっと走るよ GO!GO!東急線 ~総集編~」はこの田園都市線の放送のあと、世田谷線・東横線を放送予定。われわれデイリーポータルZチームからも近日鑑賞記事第2弾をお送りします!(2021/02/24追記 世田谷線編、公開しました!)