沼の良さを新鮮に語ってもらいました
宝塚歌劇団も機織りも小屋作りもスポーツ射撃も、私はほとんどかかわったことがない。
今回、4人の趣味人にお話をうかがうにあたって、失礼にならない程度の予習はしたもののむしろできるだけ何も知らずに話を聞いた。
彼らの口から沼の良さを新鮮に語ってもらいたかったのだ。
あれこれと詳しい読者の方はもしかしたら「この聞き手はそんなこともしらないのか!?」とやきもきする部分もあるかもしれないが、どうか飴でもなめて優しいまなざしを向けてもらえたらと思います。
転がり落ちるように観劇回数が増えた
不破あんずさん:宝塚歌劇団のファン
まず最初にご登場いただくのは、宝塚歌劇団のファンである不破あんずさん。
宝塚といえば強固な世界観が魅力であり、長い歴史によりそのファンダムが洗練されていることも有名だ。
ただ、そんなファンの人たちが日頃どのような活動をしているかは、そういえば知らなかった。
――まずは、はまったきっかけをお教えいただけないでしょうか。
不破さん
大学の頃、友人に連れて行ってもらったのがきっかけで、何回か連れて行ってもらっているうちに自発的にチケットを買うようになり、そこからは転がり落ちるように観劇回数が増えて行きました。
観劇ではなくて、ファン活動(非公式なんですけどね)に時間を割くようになったきっかけは、新しいタカラジェンヌのファンになって(贔屓ができて)、お手紙を書いて、初めてそのタカラジェンヌの出待ちに行ったときに、想像より待っている人数が少なくて、「行かなきゃ…!」と思ったタイミングだったと記憶しています。

――まず「観劇」があって、それから「ファン活動」があるわけですね。ご贔屓の存在で一気に熱量が増えるのはみなさんそうなんでしょうか
不破さん
全体を観る人で濃度が高い人ももちろんいますが、贔屓ができると加速する人が多いような気がします。観劇から応援に変わるからかな……。
――観劇から応援にかわる……確かに両者はスタンスが違いますね。
「贔屓」は1人です
――俳優さんはすごくたくさんいると思うのですが(花組、月組、雪組、星組、宙組の5組にそれぞれ70名ほど役者さんがいるそう)、全員にファンがついている……という感じなんでしょうか。
不破さん
入団したての下級生はファンが少ないこともあるとは思いますが、在団年数が長いとひとりひとりにファンがいると思います。
そしてファン活動は基本的には1人にしかしてはいけないことになっています。暗黙の了解で。
――えっ! かけもちなしなんですね!
不破さん
基本的に「贔屓」は1人です。
――贔屓の方が退団されちゃうと、そのファンの方はべつの方を応援するようになる……という感じでしょうか。
不破さん
そうですね。贔屓が退団して、そのまま宝塚をあまり観なくなる人もいれば、退団を見送ってまた宝塚で新しい贔屓を見つける人もいます。
お手紙を渡したり郵送するのが基本的なファン活動
――さっき「お手紙を書いて」、とのことでしたが、手紙を書くのは一般的なんですか。
不破さん
はい。基本的にお手紙です。便箋とか、ポストカードとか。お手紙を渡したり郵送するのが基本的なファン活動です。
下書きを書いてから清書をする人もいますよ。ほとんどの人が手書きでお手紙を書いています。

不破さん
絵を描いて渡す人もいます。ポストカードをマスキングテープやシールでデコったり、文面以外にも、時間をかけたりする人も多いです。
――わ~~すてき……!
不破さん
基本的には入り出待ちでお手紙は渡します。入り出に行けないときは郵送します。
プレゼントも手作りの食べ物以外は大丈夫ですね(今は食品はウィルス対策の関係で小包装じゃないといけないみたいです)。
アクセサリーとか洋服とかカバンとかをプレゼントして、贔屓が使ってくれたりすることもありますよ。
――使ってくれるの泣けますね……! グッズを買うみたいなこともありますか。
不破さん
はい。公式のグッズショップで、贔屓の公演スチール写真とか、カレンダーとか書籍なとを買って、配っている人も結構いますね。
――配る!?
不破さん
グッズの売り上げは貢献になるので……。みんな贔屓に貢献したいんですよー。

「紫色の袋は公式グッズショップ(キャトルレーヴ)の袋です」とのこと
――贔屓の方が目立っていくのが喜びに直結するんですね。
不破さん
そうですね。立ち位置がよくなったり、出番や台詞やソロが増えたり、役付きがよくなったりは大事ですね。
――劇場はやっぱりあちこち回ったりするんでしょうか。
不破さん
劇場は宝塚に宝塚大劇場と、東京に東京宝塚劇場と、専用劇場があります。

不破さん
それ以外にも全国ツアーとかほかの劇場を使うことがあるので、遠征していろんな劇場に行くこともあります。
私はあまり遠征しない方で、今まで行ったのは北は東北まで、南は福岡までですね。
――けっこう行ってると思うんですが……、それでも「遠征しない方」なんですね……!
不破さん
海外公演もあるので(最近は台湾公演)、結構みんな行ってましたね。
――そうか、海外が……!
宝塚には「ちょっとしたパーティー」がある
――宝塚には「お茶会」があるというのをきいたことがあるんですが……。
不破さん
お茶会はいわゆるファンミーティングで、公演期間中に1回だいたいあります。
タカラジェンヌが公演のお話をするのを聞いたり、クイズとかゲームをしたり、記念写真とか、握手があったりします。
――ヒー! めちゃめちゃ楽しそう……。
不破さん
だから、私たちもお茶会には気合の入った服装で行きます。ファン活動としては「お茶会用の服を買う」ってのも入ると思います。いわゆる「ちょっとしたパーティー」に合う服です。
――ちょっとしたパーティーって普通に生きてるとそんなにないなと思ってたんですが、ここにあったのか……!
不破さん
そうなんですよー。みんなないって言うけど、宝塚にはちょっとしたパーティー、あります。
――文化としてすごくキュートですね……!
年間8ヶ月、予定が入れにくい
――ファンをはじめて、これはなかなか時間かかるな! と思うこと、ありますか?
不破さん
公演が年に4回ぐらいあって、だいたい週1日休みで1ヶ月(東京公演を合わせると2ヶ月)とか、2~3週間(地方公演など)とかあるんです。
で、そのお稽古がだいたい1ヶ月ぐらい前から休みもありますが、毎日ぐらいあるんです。
入り出待ちに行ける機会が公演とお稽古合わせると8ヶ月とか10ヶ月とかあるんですよね。もちろん趣味だし強制ではないので、行かなくてもいいんですけど、行ける日は行ってしまいます。
宝塚歌劇はだいたい夏ぐらいには翌年の年間の公演スケジュールがざっくり出されるので、かなり早くから、予定を押さえることができるんです。
よく友人との会話でも「この月は公演があるから…」というフレーズが出てくるんですけど、予定を入れにくいなと思うのが年間8ヶ月ぐらいはあるというところが時間をかけているなと改めて思います。
――趣味だし強制ではないけど行ってしまうというの、ファン心理そのものですね……。好きなものに捧げるチャンスが多いのは素晴らしいことだなと思わされます!
不破さん
本当にそうですよねー。こんなにもそんな機会があるのはありがたいことだし、楽しい日々が過ごせています。
――お話聞いていて、なんだかすごく羨ましくなってきました。
不破さん
時間は取られますけど、楽しいですよー。
――もっと時間があったらどうしたいですか?
不破さん
時間もお金もあれば、贔屓の東京公演とか地方公演とかの遠征を増やしたいです。時間だけならもっともっと入り出待ちに行きたいです。休みの日にしか今は行けていないので。
それほどまとまった時間でないのであれば、もっとたくさんお手紙を書きたいですね。
結局ファン活動が楽しいんですよね。
――こころが清い……。
不破さん
えええ???
――支えたい! という気持ちを楽しんでいる清さがすごいなと……!
不破さん
そうですね。清いかどうかはわかりませんが、応援、貢献、楽しいですよ。
贔屓が本当に、お手紙とか、入り出で顔が見れることを喜んでくれるんです。それも大きいですね(ノロケのようですね)。
――相互なんですね、一方通行ではないかんじ(ノロケ! たしかに!)
不破さん
塩対応だとしても行きますけどね。
会えるのは、生の反応なので、楽しいですね。
――包容力……。

純粋な「好き」のあふれ
宝塚歌劇団のファンの方々の間では、平和を保つためのやや厳しめのルールがある話は聞いていた。統率が取れていて礼儀正しいイメージだ。
しかし一人の方にこうしてじっくり話を聴いたら純粋に好きがあふれていてものすごくほっこりしてしまった。
宝塚の俳優さんに会いにきれいな服でおしゃれしてって、そんで一緒にクイズとかゲームができたら誰だって嬉しくて泣くだろう。
存分に沼の心地よさを共有させてもらった。
不破さんありがとうございました!
続いての趣味は「機織り」。機を織るといえば鶴くらいしか知らなかったが、どういうことなんだろう。