必要なものは二つ
カレーを作りすぎて分けに行く。
完全に自分の家用に作っていたものをふらっと他の家庭に持ち込むのだ。家庭と家庭がうっすら混じるおもしろい経験だと思う。
必要なのは、この二つである。
- 作りすぎたカレー
- それを食べてくれる人
順番に考えていこう。
誰に分けに行くか
普通、カレーを作りすぎてから考えることだが、僕の場合真っ先にここを決めなくてはならない。
恥ずかしながら近所づきあいが希薄な暮らしをしており、このやりとりができる相手が思い当たらない。
さほど遠くない距離に頼めそうな友人はいるが、家族と暮らしていて分けに行きづらい。ご家族は、間接的な友人が作りすぎたカレーを強制的に食べることになる。それがきっかけで家族内がギクシャクでもしたらどうしよう。
そうなるくらいだったら作りすぎたカレーぐらい自分一人で食べる。絶対にその方がいい。
一人暮らしの友人も難しい。一日に数回しかない貴重な食事。そのうちの一回を僕の作りすぎたカレーで無駄に埋めたくはないだろう。行列のできるラーメンとかさ、金賞の唐揚げ屋さんの弁当とか食べたいだろう。
分けに行かない理由がいくらでも出てくる。そう、僕は作りすぎたカレーを分けに行くマインドの人間ではないのだ。
そんなことを考えている時期、北向ハナウタさんに会う機会があった。
ハナウタさんは仕事の都合で広島から単身赴任で東京にきていると言う。一人暮らしだ。
そして、僕の印象ではそこまで食事にこだわりがあるタイプでもない。
つまり奇行に理解がある。
条件が完璧にそろっている。こんなチャンスは二度と無いと思い、恐る恐る聞いてみた。
トルー(筆者):あのね、ダメだったらもう全然、断って欲しいんですけど、
ハナウタ:はい?
トルー:カレーをね、今度作りすぎるんですけど、その、作りすぎたカレーをね、分けに行ってもいいですか?
ハナウタ:あ、いっすよー
決まった。「いっすよー」で決まった。なぜ作りすぎる予定があるのかも聞かれなかった。
カレーを作りすぎる、とは
さて、僕はカレーを作りすぎた経験が無い。
うっかり作りすぎることがあるならば、ここだと思った。
いつも半量のルウで作るので水も半分ぐらい。しかしうっかりルウ1箱分の水を入れてしまったら後戻りできずに作りすぎることになる。
毎回この工程でヒヤヒヤしていた。今日、この川を渡ろう。
子どもが「タマネギがシャキシャキするのが嫌だ」と言うので、タマネギだけ長く炒めている。これがうちのいつものカレーである。
僕は、子どもと食べるようになるまで長らくルウは中辛だった。甘口の最初の頃は辛みスパイスをかけて食べていたが、そのうち好きになりそのまま食べるようになった。
こういうの、ハナウタさんはどう思うんだろう。少し心配だが今僕にできるのは、いつものカレーを作りすぎることだけだ。
いつもの倍近くの水。爽快だった。
大量の調理って楽しい。そういえば屋台の焼きそばとか、町内会でみんなに配る豚汁とか、作っている様子を見るだけでワクワクする。何かが始まるぞ、という感じがするのだ。
今回は「カレーを作りすぎて分けに行く」が始まる。おい、始まるぞ。
無事、カレーを作りすぎた。大変だ、分けに行こう!