特集 2024年4月25日

カレーを作りすぎて分けに行く

無いはずの移動がある

近所だったらこのまま鍋を持ってトコトコ歩いていけばいい。しかしハナウタさんの家までは電車で一時間ほどかかる。

タオルや布の袋で何重にも包んだ

匂いがもれないように鍋を包んだ。すごく重い。5kgぐらいあると思う。

しかしカレーを作りすぎて分けに行くシーンで、鍋をどう持ったら楽かなとか、改札通るの大変とか、そんな描写はないはずだ。

あるはず無いが、辻褄を合わせるために便宜的に発生した時間。虚数みたいなものだ。きっと。

そんなことを考えたので、電車の中ではなるべく「存在しないもの」として振る舞った。ワープ中の気持ち。 

撮っていないはずの写真

だから、移動は大変だったが、同時にそんな時間は無いので全く大変ではなかった。 

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ついに作りすぎたカレーを分ける

ハナウタさんの家に着いた。

中に入れてもらい玄関で一度鍋を包んでいた袋を開け、鍋だけ持って外に出て、またドアを開けた。

「こんばんはー…」

トルー:あの、もうご飯食べちゃってたら全然大丈夫なんですけど、

ハナウタ:はい

トルー:カレーを作りすぎちゃってね

ハナウタ:知ってますって

トルー:良かったらどうですか?

ハナウタ:うん、食べる食べる

正直、ここで「ごめん、今お腹いっぱいでさあ」と言われるのもいいなと思っていた。その軽さこそが【カレーを作りすぎて分けに行く】なので。 

でももらってくれるのはやっぱり嬉しい

「ジャガイモがゴロッとしてる!」と驚いていた。そう、溶けるのを見越して大きめに切るんだけど、いつもそんなに溶けなくて結果ゴロッとしちゃうのだ。不本意の「ゴロッ」なのだ。忘れてた。

とにかくハナウタさんはカレーをもらってくれた。「もっととっていいですよ」と言いかけたが、あげすぎて困らせるのも良くないと思って黙っていた。

鍋を見るとカレーはほとんど減っていない。

ハナウタ:鍋ごと持ってくることなかったんじゃないですか?

トルー:カレー作りすぎて分けに来る人はわざわざ小さい容器に移し替えないんじゃないかと思って。そんな洗い物が増えるようなこと

ハナウタ:こだわったんだ

トルー:作りすぎたカレーを見せたいじゃないですか。「こんなにあるから!」って

設定と本音を行き来しつつ、東京での暮らしの様子を少し聞いて別れた。

長居はしないのだ。作りすぎたカレーを分けに来ただけだから。 

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人の家にあるうちのカレー

その日の夜、ハナウタさんからメッセージが来た。

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うちのカレーが人んちで盛り付けられている。すごく不思議な気持ちだ。柴漬とかちくわとピーマンの副菜とか、見慣れないものが一緒にある。サラダもこんなにちゃんと用意しない。

皿も机も人の家だ。人の家にあるうちのカレー。おいしく食べてもらえたようでとてもホッとした。

こうしてカレーを作りすぎて分けに行く、が成し遂げられた。イメージしていたよりずっと気にすることが多かったが、うちでいつも食べているものを人に食べてもらえるのはおもしろいしとても嬉しい。

人を招く時のよそ行きの感じともまた違う。普段と普段が純度の高いまま混じり合っていた。

今度ハナウタさんの家で何かを作りすぎて困ったら分けに来てください。


鍋を持って入ってくる僕の写真がどうしても怖くなってしまって何度も撮り直した。

本文にあるのは中でもマシな方、と二人で判断した写真だが、それも怖いと思う。

怖いので本文には使わなかった写真
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