王が現れた
システムを担当している石川さんから「どうも王がいるみたいです」との知らせを受けた。
ダミーのテストデータかと思ったが、やっぱりいる。
その王にお礼の連絡をとったところ、年末挨拶は3月末に前倒してもよいかとの返信があった。もちろん良い。なぜなら王だから。
そうか、やるのか、ついになまはげを。
なまはげの衣装は埼玉の小道具レンタルの会社で借りられることが分かった。なまはげ前日に橋田さんに借りてきてもらい、三茶の貸し会議室で衣装合わせをした。王の手前、いきなりのなまはげで粗相があってはならない。
写真の上から黒インクが垂れているように見えるのは、そういう模様の部屋だったからだ。でも奇跡的にあっている。こんなに癖のある貸し会議室あるかい。
なまはげとしてどう挨拶をすればいいのだろう。王に向かって「悪い子はいねが」ではないことは確かだ。なまはげのアイデンティティと社会性の折衷案として、「おぜわになっでおりまず~ あ”り”がとうございます~」とデス声で言うことにした。
分からない。
会社をはじめて分かったのは経営は判断の仕事であるということだ。上司や系列のせいにできない。すべてを自分の責任で決めて進めていくプレッシャーを日々感じているが、これがいちばん分からない。
「なまはげ お礼」で検索しても答えらしきページは出てこない。逆に言えばこのページが正解になるのだ。見よ、これがなまはげでお礼するときのスタンダードだ。
「でも似合いますよ」と橋田さんに言われたが、喜んでいいのかも分からない。
人生でも5本の指に入る腑に落ちなさのまま帰って、夜はずっとなまはげの動画を見て寝た。
海のなまはげ
翌日、やってきたのは海に面した公園である。ここで王と待ち合わせている。
橋田さん、安藤さん、べつやくさんに手伝ってもらった。王なのでこちらとしてもスタッフを揃えた。
昨晩、動画を参考になまはげの動きも家で練習してきた。腰を落として足をジタバタするのがなまはげのようだ。
待ち合わせの場所にいるとの連絡をもらったので背後から近づく。
お面で移動すること、不審者であることの緊張感からデス声での「お世話になっております」がうまく言えてない。たぶん王には聞こえてなかっただろう。
普通に挨拶をしてしまった。なまはげがリュックを背負っているのは荷物を置く場所がなかったからだ。20年前、撮影中に置き引きにあった経験をまだひきずっている。
デイリーポータルZの報告をする
カメラマンの安藤さんが、では3人でこちらをむいてくださいと進行してくれるので3人でポーズを撮る。なまはげとしてお面の下でも同じ顔をしている。ホスピタリティの出どころがない。
このときまわりの子どもが集まってきた。スケッチブックを出したのでなにか面白いことをすると思ったのだろう。だが、書いてあるのは「人件費の削減」「サーバ費用はさらに削減可能の見込み」などだったので子どもは黙って去っていった。
大人になってから、海辺でなまはげが人件費について話してたことを思い出してほしい。たぶん夢だと思うだろう。
お面を被ってもその人らしさが出て素敵な写真になった。桶を持っても墓参りみたいになってない。
AIが描いたSEKAI NO OWARIのようだ。だいたい合ってるんだけど、ディテールで大きく間違えている。
話を聞いているなまはげは反省しているように見えるし、横から見ると薄べったい。こんなに薄いのか。
こうして無事、はげまし王への謁見ができた。これからも王のはげましを裏切らないようサイトと会社を運営していく次第である。
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