特集 2019年7月2日

子供が道で拾ったダイヤを本物か鑑定してもらう

小学校低学年の息子がいる。水泳が好きで週末によくプールに連れていくのだが、ある日の帰り道、路上で急に立ち止まり、何かを拾い上げた。

「おとうさん、ダイヤひろった!」

子供の手のひらに、大きさ5ミリに満たないほどの、しかし例のあの形にカットされた、キラキラ光る石が乗っていた。

インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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そのダイヤっぽい石(ここでは便宜的にダイヤと呼ぼう)は、それ以来、子供の宝物入れに大事に保管されている。

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もらいものの中国茶の缶が子供の宝物入れ
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中には江ノ島水族館でもらったバッジ(水族館に1泊できるイベントがあって、それに参加したときにもらった)と、おもちゃの指輪、そして例のダイヤ。

思い返してみれば、僕も子供のころはよく道でいろんなものを拾って帰ってきて、ため込んだきたものだ。どんぐり、ナット、化石に見えなくもない石、転がって角の落ちたガラスの破片、ときには虫の死骸…。

それに比べるとうちの子供はあまりものを拾ってくることがなく、宝物箱の中身も厳選されている。2010年代生まれの世代によるものか、それとも都会育ちのせいなのか。ナチュラルボーン・シンプルな暮らしである。

そんな、物への執着の薄い子供の心を見事わしづかみにし、狭き門である宝物箱入りを果たしたのだ。この一粒のダイヤが。

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子供の手と比べてもやはり小さい。

サイズはとても小さい。3ミリくらいだろうか。

いや、小さいからこそ、という見方もある。これが1cmくらいある大粒だったら、さすがにそのサイズのダイヤが道に落ちているということはあり得まい。

しかしこのサイズである。何かの拍子に、アクセサリから外れてポロっと……ということもあるのではないか。

子供はこのダイヤをたいそう気に入っていて、休日はいつも缶ごとカバンに入れて、歩くたびにカラカラと音を立てながら過ごしていた。

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子供のダイヤと親心

子供のときめきはわかる。なにせ(少なくとも子供の知る上では)世界で最も高価な物質である。おこづかい何年分もに相当する価値が、自分の手の内にある。

とはいえ子供も、「ダイヤではない」という可能性に思い至らないほど単純なわけでもない。「おとうさん、これほんとにダイヤかな」「そうだといいねえ」というような会話は何度もした。「どうやったらわかるの?」「専門の人に見てもらわないと」。

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きれいにカットされているので、素人目にはよくわからない

正直、人生経験豊富な大人としては、懐疑的にならざるをえない。本当に道に宝石が落ちているなんてことがあるだろうか。ダイヤっぽくカットされたガラスではないのか。

ただ、親として、「どうせガラスでしょ」というような雑な態度で、子供の夢を踏みにじってはならないとも思うのだ。しっかり向き合ってやりたい。

問題は、なにに「しっかり向き合う」のか、である。ここでとりうる選択肢は2つ。

・「ダイヤを持っている」という誇らしい気持ち
・「ダイヤかどうか知りたい」という知的好奇心

前者に向き合うなら、「ダイヤだといいねえ」でずっとやり過ごすのも手だ。

いっぽうで後者と向き合うなら、曖昧にごまかすのではなくきっちりと調べて結論を得ることで、己の知的好奇心との付き合い方を教えてやるのが正解だと思うのだ。

どちらを捨て、どちらを取るべきか。こういう細かいところにいちいち悩む。それが親なのである。

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それから1年

……というのが、実はだいたい1年くらい前までの話。半年も時がたてば子供のダイヤに対する興奮も薄れ、休日も持ち歩かずに家に置いていくことも増えてきた。

そう、「ダイヤを持っているという誇らしい気持ち」が薄れてきたのだ。そうなると話は変わってくる。知的好奇心の火が消えないうちに、このダイヤの正体を調べてやるべきではないか。本人も、本当のことが知りたいという。

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有識者に見てもらうことになった
(左が有識者・井口さん。右が筆者。まだ去年のことなので冬服です)

実はデイリーポータルZには宝石鑑定師の資格を持ったライターがいる。この記事この記事が好評で、神社や御朱印にも詳しい、井口エリさんだ。

彼女に企画会議のあとに1時間ほど時間をもらって、石を見てもらうことにした。

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ルーペでじっくりのぞき込む

井口さんによると、ガラスかどうかの識別は比較的簡単なのだそうだ。

ガラスは柔らかいので欠けやすく、そして欠けた部分が貝殻のような形になるのが特徴。

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井口さんによるガラスの欠け方の図。たしかにこの形、割れた窓ガラスなどで見たことがある

この石の場合、傷も少ないことからガラスではないと思われる、とのこと。

素人はダイヤの模造品というとすぐ「ガラスでしょ」と思ってしまうが、そもそも、宝石の代用としてガラスが使われるケースはそんなに多くないらしい。

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ルーペ越しに見るとカットの感じがわかる

井口さんいわく、この石の特徴としては、

・サイズのわりに重さがある
・色が透明(黄みがかっていない)
・光をあてるとキラキラする

といった点が挙げられるとのこと。

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ボールペンの線の上に乗せて屈折のぐあいを見たりもしていた

それらの特徴をもとに、候補は2つに絞られた。

1つ目:キュービックジルコニア

ダイヤの代用品としてよく使われる合成石。ダイヤより重く、色が透明。ダイヤよりも、光を当てたときによりキラキラ輝く。

比較的値段の安いアクセサリによく使用される。CZダイヤ等といって売られることもあるが、ダイヤではない。

2つ目:ダイヤモンド

キュービックジルコニアよりも黄みがかっているが、品質の良いものは透明に近い場合も。

確率的にはキュービックジルコニアの方が優勢。恐らくはそっちではないかとのことだ。

しかしながら、今回は設備も道具も不十分なため、断定には至らず。あくまで可能性として2候補がある、という結論にとどまった。

(余談:記事タイトルにはわかりやすく「鑑定」とつけたものの、正確には「ダイヤかダイヤでないか」の識別は「鑑別」というのだという。ダイヤがあって、それがどういうランクのものであるか調べるのが「鑑定」。)

その日はあいまいさを残す結論だったが、後日、井口さんの知人のつてで、くわしい鑑別をお願いすることもできそうだという。最終結果が、出てしまう…!

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知る勇気

家に帰ってから子供に、井口さんの見解、そして今後のことを話した。

「本当に知りたかったら調べてもらえそうだけど、行く?」「行きたい!」

ダイヤでない可能性が高い、というのも伝えたわけで、子供にとっては落胆すべき事実だったはずなのだ。それでも即答で「行きたい!」と答えたということは、そのショックよりも、真相を知りたいという気持ちが勝ったのだろう。

彼が拾ってきたダイヤだ。その価値が決まる瞬間は、その目で見届けた方がいいに決まっている。

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ほんとうの正体

いろいろあってそこからまた数か月後が経ってしまった。つい先月のことだ。井口さんの紹介で、ついに石を鑑別してもらう日がやってきたのである。

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気が急いて駐輪場を走っていく子供(カバンからカラカラ音を立てながら)
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店頭にて

鑑別に協力してくれたのは、東京・神奈川・香港にお店をかまえる「ロデオドライブ」さん。前身であるカドヤ質店は1954年創業という、老舗の質屋さんである。

今回はJR関内駅からほど近い「質ロデオドライブ」におうかがいして、店長の金子さんにご対応いただいた。

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さっそくダイヤを見てもらう
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ルーペでじっくり観察する金子さん

金子さんはひとしきり拡大鏡で石を観察すると、「肉眼では見えないところがあるので、機械で調べてみましょう」といってお店の奥へ消えた。

即断ではなかった。まだダイヤの可能性はあるということか…!?

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たくさんの装置を持って戻ってきた

これらはすべてダイヤモンドをテストするための機械。似た石がいろいろあるので、何を見分けたいかで使う機械が変わるのだという。

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まず最初のテスト。

まずこの装置から使っていく。ダイヤであれば、メーターのランプが緑のところまでピピピッと点灯する。仮装大賞の得点みたいにして、ダイヤかどうかがわかるのである。

金子さんがピンセットで石をつまみ、装置を当ててスイッチを押す。

はたして、その結果は。

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緊張の面持ちで見つめる子供

反応なし…!

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ダイヤではなかった

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「残念ながら、ダイヤモンドではなかったということですね」「えへへ」

ダイヤではなかった宣告を受けて、思わず笑ってしまう子供。いかにも自分がしそうな反応だなと思って、親子の血を感じた瞬間である。

このあと金子さんは、ダイヤは硬度が高いので、カットの縁で見分けがつくこと。そしてキュービックジルコニアは柔らかいので、縁がすこし丸みを帯びる場合が多いということを説明してくれた。

明言はしなかったが、これはつまり、最初にルーペで見た段階で分かっていたということではなかろうか。子供のためにわざわざテスターを持ってきてドキドキを演出してくれたのだ。粋な計らいに感謝である。

さらなる鑑別へ

というわけで、この石がダイヤでないことは分かった。ただし、これがキュービックジルコニアであるというのはまだ推測の域を出ない。

そこで登場するのがこちらの機械だ。

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熱伝導率で石の種類を調べられる装置

この装置でもテストを行い、今回の石は、キュービックジルコニアでほぼ間違いなかろう、ということになった。これが最終結論である。

正直、結論はほぼ予想通りだった。ただ予想外だったのは子供の様子である。なんだかんだいって、いざダイヤでないとわかったら、落胆するだろうな、と思っていたのだ。

しかし、実際のところは……

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だんだん石を調べてもらうこと自体が楽しくなってきた

むしろ全然楽しそうなのだった。息子に貴重な経験をさせていただきありがとうございました…!

※今回は取材対応ということで宝石の鑑別をお願いしたが、通常持ち込まれた品についてはあくまで「質屋として、取り扱えるかどうか」の範囲の回答になるという。
正体不明の石をロデオドライブさんに持ち込めば鑑別してもらえるというわけではないので、ご了承ください。

宝石の価値

結局、キュービックジルコニアだった。

ダイヤとは比べ物にならないものの、井口さんによれば、数百円程度の価値があるという。大人にとっては大したことないが、おこづかいがワンコインの子供にとっては大きな価値だ。

ちなみにこれがダイヤだったらどうかというと、このサイズだとそれでも一万円はいかない程度ではないかとのことだった。それはそれで思ったより安い。

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帰り道、関内の公園にて

石がダイヤだったら、とりあえず子供と一緒に交番に届けてこの記事は終わりかな、と思っていた。が、あては外れてキュービックジルコニアということになった。さて、このあと、どうしようか。

「この石どうする?」

「うーん、これって結局、宝石なの?」

何が宝石で何が宝石でないか。急に哲学的な問いであるように思えてきた。この場合、合成石とはいえアクセサリに使われる素材でもある。宝石ということでいいだろう。

「宝石だよ」

「だったら交番にとどける」

関内から電車に乗って自宅の最寄り駅まで戻って、一番近い交番に行く。お巡りさんが忙しそうだったのでちょっと外で待って、空いたタイミングで「お忙しいところ恐縮ですが、子供が拾いものを届けたいと…」と恐縮しつつ声をかける。

ひととおりの説明をすると、女性のおまわりさんは「そうかー」と言って少し間があって、「これはボクが持ってていいよ」と子供に石を返した。

「持ってきてくれてありがとう。お父さんはお子さんをいっぱい褒めてあげてくださいね。」


そういうわけで、結局あのキュービックジルコニアはあいかわらず家の宝物入れに収まって、大切に保管されている。

石としての価値は期待より低かったものの、石の正体がわかる瞬間のドキドキ、知らない大人が自分のために親切に石を調べてくれたこと、その道中の二人旅のこと(横浜は家から遠くて、ちょっとした小旅行であった)、などなど、小さな石の中に、減った価値を埋めるだけの思い出が詰まったのではないかと思う。

……というのは僕の都合のいい解釈なのかもしれないけど。しかし少なくとも、子供にとって、なかなかできない貴重な体験ではあったと思うのだ。

取材協力:
質ロデオドライブ / 0120-157-832
〒231-0048 神奈川県横浜市中区蓬莱町3丁目104番地
RKセントラルビルB1F
営業時間:10:30~19:30 / 定休日: 年中無休(年末年始・臨時休業を除く)

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