「当社」はOK、「弊社」はNG
石川:自分のところの神社のこと、「当社」っていうんですか?
窪田:言いますね。「弊社」だと神様に対して失礼みたいなところがあって。
石川:神様がいるから、へりくだるのもよくないんだ。
窪田:「官国幣社(※)」という用語があるので、それとの混同を避ける意味もあります。
※昔あった、国家が直接管理する神社
石川:「御社」はあるんですか?
窪田:御社は言ったことないですね。なになに神社って名前で言います。
石川:そっか。出勤するのは「出社」?
窪田:そうです。神社のほうが会社より古いですからね。こっちが本来ですよ。
石川:あはは、確かに。会社があとからかぶせてきてるんだ。
朝はめちゃめちゃ掃除をする
石川:余談から入っちゃいましたが、改めて窪田さんのお仕事を教えてください。
窪田:宮崎県の高千穂町にある高千穂神社というお宮で神職として日々仕事をしています。
石川:神職というのは神社で働いている人?
窪田:その中でも神職の資格を持っていたり、神様の前で祭典ごとなどのご奉仕をする人間ですね。
石川:職種なのか。神主とは違うんですか?
窪田:同じですが神主は俗称で、我々が自称するときは神職って言います。
石川:神社にはほかの職種もあるんですか?
窪田:はい。巫女だったり、事務員だったり、掃除の方だったり。
石川:そのなかで神職っていうのは、一日の仕事は何をしているんですか。
窪田:完全にお宮によりますが、自分の場合は……だいたい8時から17時まで、休憩1時間の実働8時間で働いています。朝8時に出て、そっから1~2時間はずっと竹ぼうきを持って境内の清掃をひたすら。
石川:めちゃめちゃ掃除しますね。
窪田:めちゃめちゃ掃除しますよ。鎮守の森っていって、神社にはたいてい森があるので、落ち葉をずっとずっと掃いて境内を綺麗にするという。
石川:ほうきが必須ですか?公園だったらブロワーでブワーッといくじゃないですか。
窪田:ブロワーもありますけど、朝早起きして来てくださった方にブロワーがブワーブワーいってる中で参拝させてしまうのは心苦しいので、箒で掃きたいと思っています。
石川:たしかに!
窪田:神道では綺麗、清浄なことを重んじるというのと、参拝者さんのことを考えても綺麗なほうがいいでしょうから。汚いよりは。
石川:清浄が大事なんですね。掃除のあとは?
窪田:だいたいお札所(※お守りを頒布しているところ)にいて、お守りをお求めの人がいたら頒布しますし、御朱印を頼まれたら墨で手書きするという業務になりますね。日に100冊とか200冊とかみんなで書かなきゃいけないので。
石川:けっこう書きますね!!めちゃめちゃうまくなっていくんじゃないですか。
窪田:やればどんどんうまくなっていきますよ。ほかには普通にメール対応したり。一番大事なのが厄祓いとか七五三とかのご祈願ごとですね。石川さん受けられたことありますか?
石川:厄祓いはあります。
窪田:そういった神事もやって、だいたいそんなことをしてたら8時間経っています。
石川:ご祈祷を窪田さんもやるんですね。あれが一般人のイメージする神職っていう感じがします。
窪田:あとは地鎮祭だったり、上棟祭だったり、頼まれれば現地まで行ってご奉仕します。
石川:修行や勉強会みたいなものはあるんですか?
窪田:神社庁が主催している研修会みたいなのがあります。基本的な座学もありますし、面白いところでいうと禊。ふんどしを履いて海の中に入って行をしたり。
石川:そういうのあるんですね!
窪田:あります。あれも作法があるのでそのへんを学びつつですね。あと、雅楽。龍笛(りゅうてき)とか篳篥(ひちりき)とかの練習会みたいな形の研修会も。
石川:窪田さん、雅楽できるんですか?
窪田:龍笛を少しだけ。基本的な曲だけなら吹けるかなっていうぐらい。
石川:龍笛って横笛ですよね。吹く仕事があるんですか?
窪田:日々の祭典ごとのときとかに、特定の場面で曲を流しましょうねと規程で決まっているんです。たいていラジカセを使うけど、職員に余裕があるときは笛を持ち出して生演奏でやったりとか。
石川:吹くことあるんだ。雅楽って今でも現役なんですね。音楽を流すのはどういう意味があるんですか。映画のBGMみたいに場を盛り上げるみたいな話?
窪田:だいたい献饌(けんせん)といって神様にご飯をお供えするときに演奏するので、単純に神様に喜んでもらえるようにという意味合いが大きいんじゃないかな。巫女の舞とかもたまに奉納するんですけど、あれも参拝者のためというよりはどちらかというと神様のためですし、その延長みたいな感じですね。
石川:奉納ってよく言うけど、舞のときもあるし、食べ物のときもあるし、不思議な概念ですね。
窪田:それで言うと、バク転を奉納しに来る方がいらっしゃって。
石川:えー!
窪田:宮崎でバクテンマンとして活動している方がいらっしゃって。その方がよく神社でバク転を奉納したあとに神社にある建物内で子どもたちにバク転教室をするっていう。バク転も奉納できますよ。
石川:じゃあ、僕がすごい手品がうまかったとして、奉納したいんですっていえばそれは奉納ができる?
窪田:神社の考え次第ですけど、できるパターンもあると思います。バク転がありなくらいなので。
石川:そこの方針によりということですね。
窪田:自分ができる技で神様に喜んでもらうのは良いことなんじゃないかと思います。
お供え物、尊さランキング
石川:お昼は何を食べてるんですか。
窪田:お昼休憩も短いので、普通に冷凍ご飯を持っていってレンジでチンして白ご飯をモソモソ食べたり、プロテインを飲んだり。
石川:普通にお弁当を。
窪田:厳格な方は、白衣袴(神職の格好)を着ている時はなるべくお手洗いに行かないほうがいいから、お茶も飲まないしご飯を食べないっていう人もいます。神様の前でご奉仕をするにあたって牛や豚を口にするとよくないとか、ネギとかにんにくみたいな臭いの強いものもなるべく控えるとか、規程であるわけじゃないんですけど個人の心がけでありますね。
石川:それは神社が清浄を重んじるから?
窪田:そういうことだと思います。
石川:牛とか豚とかっていうのは?
窪田:古来から避けられてきて、今でもお祭りの前日なんかは、食べないようにっていうような話もあります。逆に言うと鶏肉や鴨の肉は神様のお供え物に定められているものなので良いです。
石川:お供え物に決まりがあるんですね。
窪田:完全に順列が決まっていて。だいたいお米が尊いです。米、酒、餅。精米しているかどうかでも順位が違って、和稲(にぎしね)といって精米されているのが一番上位。で、精米されていない荒稲(あらしね)、酒、餅、海の魚、川の魚、野の鳥、川の鳥、海菜、野菜、果物、塩、水……とか、そういう品目が決められています。並べ方もこの順列通りに並べるので。たいてい真ん中に米か酒が来ますよ。参拝の折に見てみると面白いかもしれないですね。
石川:酒っていうのは日本酒以外でもいいんですか。ワインとか。
窪田:これは日本酒ですね。宮崎・鹿児島は特に焼酎がさかんなので、ご奉納される分にはありがたくご奉納されるんですけど、実際器に盛って神様に正式な形でお供えするのは日本酒です。
石川:神様が好むということ?
窪田:そうでしょうね。あるいはお米自体が神様から与えられたものという信仰なので。そのおかげで我々生きていられますよという意味もあるんじゃないですかね。
石川:感謝の表明みたいな。
窪田:そうじゃないかなと思います。