あるらしい、サプライズパーティー
あるのだという。世の中には。サプライズパーティーというのものが。
例えばお誕生日の人に対して、誕生日会だということを伝えずに、ただの飲み会や食事会のふりをして誘う。本人がやってきたところで「実は誕生日パーティーでした!」と伝える、そういう趣旨のイベントだ。
いや、わざわざ説明しなくてもみんな知ってるだろう。でも、僕にとって、説明せずにはいられない距離感なのである。
急に面識のない人の話を振られた時、「田中っているじゃん?」「え、3組の田中?」とかって、確認のためにちょっと説明を加えてしまうことがある。あれに似ている。「あのバスケ部の?背が高い?」みたいな。
「サプライズパーティーあるじゃん?」「あのびっくりさすやつ?」
「サプライズパーティー」になじみがなさ過ぎて、存在があやふやすぎて、辞書的な定義で補強せずにはいられないのだ。
そんな僕にも、サプライズパーティーがやってきた!
どうやって実現したのか?
手順は簡単である。
1.ケーキなどパーティー用品1式を用意する
2.友人知人を集める
3.パーティー用品を配り、段取りを説明する
4.一度退席して、戻ってくる
要するに、全部自分で仕込むのだ。さあ、パーティーの始まりだ!
1.ケーキなどパーティー用品1式を用意する
まずはバースデープレゼントを買いに行く。
普段買わないような店で購入。なぜなら他の人が買ったという設定だから
ネットで「30代 男性 プレゼント」で検索して、「30代男性に贈るおすすめのプレゼントまとめ」的なページの、最初に出てきたものを選んだ。
ここで重要なのは、うっかり自分のほしいものを買ってしまわないことである。
サプライズなのだから、みんなは僕に何がほしいか聞けていないはずなのだ。
あくまで「推測で喜びそうなものを選んだ」という感じのチョイスを大切にしなければならない。
そういうディテールが、想像のサプライズパーティーに魂を与えてくれるのだ。
続いてパーティーグッズを購入。
とんがり帽子とクラッカーがあればだいたいOK。
あとは会場によってはケーキに使う紙皿やフォークも買っておこう。
忘れがちなのが、ケーキを切るナイフと、ろうそくを着けるライター。円滑なサプライズの遂行のため、購入漏れのないように気を付けたい。
最後に、ケーキだ。
ケーキ自体は適当なホールケーキでいいのだが、大事なのはこれ。
プレート
ケーキ屋さんで「ハッピーバースデー石川さん、でお願いします」と自分の名前を告げる。
気恥ずかしいものだが、相手はこちらの名前を知らないのだから、堂々と注文して大丈夫だ。
「こちらでよろしいでしょうか?」と見せられてまた気恥ずかしい
これだけそろえば大体OK!
2.友人知人を集める
この日は別企画の撮影で当サイトのライターが集まっていたので、そこで僕のサプライズパーティーをやることにした。
撮影終了後、みんながくつろぎ始めたタイミングがチャンス。
「これから僕のサプライズパーティーをやるので」という切り出しにはみんなあっけにとられるだろうが、よく説明すれば分かってくれる。
重要なのは段取りを細かく打ち合わせておくことだ。
実際に物をひとつずつ見せながら説明する
まず僕がトイレに行くので、戻ってきたら「お誕生日おめでとう!」で迎えてください。それまでにケーキにはろうそくを立てて火をつけておいてくださいね。それから…。
なにぶん全部用意したのは自分である。ちゃんと説明しておかないと、みんながプレゼントの存在に気づかず渡されなかったり、最悪、自分のカバンの中に入れっぱなしであることにサプライズ中に気づいた!なんてこともありうる。
ここできっちり段取りと、物品のありかを説明しておくこと。
そしていよいよ、サプライズ、スタートである。
4.一度退席して、戻ってくる→パーティー
トイレに行く
打ち合わせ通り僕がトイレで3分間待っている間に、手際よく準備が行われていく
『おたんじょうびおめでとう!!!!』
サプライズパーティーだ!!
自分で仕込んだサプライズパーティーはどうなのか
なにせ「これからサプライズパーティーが始まるぞ!」と分かっているのだ。
トイレのドアを開ける前はずいぶん緊張した。
しかし開けてしまえばもう怒涛である。
あれよあれよという間にクラッカーが鳴らされ、ハッピーバースデーの歌の合唱が始まり、ろうそくを消すよう促される。
入念な打ち合わせの甲斐あって、祝う側のメンバーもあまりに手際がよい。その目まぐるしさはジェットコースターに乗ったような気持ちであり、これはもはや本当のサプライズパーティーと大差ないのはないか。
クラッカーが鳴らされ
帽子をかぶせられて
合唱の後、火を消す!
ここでサプライズ(自分で買った)プレゼントです
これからの季節に重宝しそうなくるぶしソックス!
この間、3分ほどの出来事だろうか。本当は誕生日でも何でもないのに(7月生まれである)、もう、もみくちゃに祝われることができた。完全に満足である。
立ち止まるな
しかし、この後、すぐに魔法は解ける。
誕生日ケーキを切り始める同僚
怒涛のようなお祝いラッシュから、ここで初めて、待ちの時間ができた。そうすると、急に迷いが生じるのだ。
「もっと驚いている感じのリアクションをするべきだろうか」
「いや、本当にサプライズじゃないのはみんな知ってるんだから、そんな小芝居をしても白々しいだけじゃないか」
なんていうか、祝ってくれる側に気を遣い始めてしまうのだ。
やらせサプライズパーティー、無邪気に自分が主役でいられるのは、最初の3分だけなのである。
どことなくシステマチック
やらせサプライズパーティーのいいところは、最後に参加者へのお礼がついてくるところだ。
このあとみんなで食べるケーキは、僕が買ってきたものなのだ。協力してくれたみんなへのお礼が、一連の流れの中で済ませられる。
祝福の手際の良さといい、どことなくシステマチックなイベントであった。