特殊な願望
学生時代、台湾にまつわる研究をしていたライターの唐沢むぎこさんは、DPZでも多くの台湾関係記事を執筆している。
そんな唐沢さんに私の友人、三文字昌也さんを紹介したいとずっと思っていた。
彼とは最初、私の地元のお祭りで出会った。台湾夜市でよく見かけるというゲーム屋台を自作して、子供達に遊ばせていたのだ。
「変わった若者だな」くらいに思っていたが、実は彼、台湾の都市計画や夜市の研究で博士号を取得しているガチな研究者だった。唐沢さんと知り合った瞬間から絶対三文字さんに会わせたいと思っていたのだが、先日、遂に三人でご飯を食べることになった。
前日譚
昨年、唐沢さんの企画を私が、私の企画を唐沢さんが執筆するシャッフル企画をやった。
お互い脳に受けたダメージは相当なものだったが、その記憶も薄れてきて「また今年もやりたいですね」などと盛り上がった。唐沢さんに「なにかやりたい企画ありますか?」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。
あまりにも唐突、且つ特殊過ぎる願望。私は咄嗟に「良いですね!」と言ってしまったが、あとで冷静に考えてみてこう思った。
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記事にならないのでは?
唐沢さんがどんな欲望を抱えたって自由だし、彼女が大学で落語研究会に所属していたのも知っているので、なんとなく欲望の源泉も推察できる。だが問題は「それって記事になるのか?」ということだ。普通に考えれば「唐沢さんが談志のコスプレをする→終了」である。
ただ、唐沢さんは昨年「みかんの木になりたい」という意味不明な私の欲望をなんとか記事にしてくれたのだ。今更私だけ「そんなの書けません!」なんて言えない。
そこで浮かんだのが三文字さんだった。以前から唐沢さんにも三文字さんにも「会わせたい人がいる」とは伝えてあったので、二人の初邂逅に談志コスプレをくっつけちゃえばなんとかなるだろう、と考えたのだ。
食事会開催はすんなり決定したが、談志コスプレの件も事前に伝えて良いか唐沢さんに確認してみた。
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唐沢さんの丁寧な言葉遣いの裏に、絶対に譲れないこだわりが見える。よし、三文字さんには伝えないでおこう。ただ彼にドッキリを仕掛けたいわけではないので、色々考えた末に非常に回りくどいメールを送った。
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三文字さん、マリアナ海溝より懐が深い人で助かった。
問題…ない?
そうして今、私と三文字さんの前に唐沢談志がいる。
三文字さんには「最初は何も説明しないので我慢してください。30分経ってから企画概要を説明します」と伝えていた。
おい、なんの問題もなく食事会スタートしたぞ。
生真面目って何かね?
せっかくなので台湾料理屋を予約しておいたのだが、台湾に詳しい2人は手早く美味しそうなメニューを注文してくれた。
事前の心配をよそに、和やかに食事会は進む。ホッと胸をなでおろしたのも束の間、メニューを見る唐沢談志の目が怖いことに気付いた。
私は常々、唐沢さんの研究熱心で下準備を怠らない生真面目さを尊敬している。今回も家で相当談志の練習をしてきたのだろう。
しかしだからこそ(なんでその生真面目さをこんなことに…)という思いが拭い去れない。彼女は何故そこまでしてこの企画をやりたかったのかも、まだ見えない。昨年成田空港で感じた脳の痺れが蘇ってきた。

