ホタテの殻開けはレジャー
今年の春先だったと思う。友人が宮城県からホタテを送ってくれた。友人は「今まで食べてたホタテはなんだったんだって思うから!」という。
貝じゃないのかホタテは、と思いながらも発泡スチロールを開けた瞬間、思わず声が出た。
すげえ!殻付きだ!
さばき方は送ってくれた友人がわざわざ家に来て教えてくれた。僕は殻付きのホタテをさばくのが初めてだったので、それだけで興奮した。
無理にこじ開けようとするとホタテは殻を堅く閉ざしてしまう。そうなるとへらが入らないので、しばらく興味のないふりをして油断させておき、再びホタテが周囲をうかがおうと殻を薄く開けたところに電光石火のスピードでへらを差し込むのだ。閉じる殻、割り込むへら。躊躇する気持ちを押さえ、殻の内側の曲面に沿わせながらへらを動かすと、ある段階でホタテがふと力をゆるめる。もうだめだ、これ以上頑張っても無駄だ、という意思表示である。
勝負あった。
殻をはがされたホタテは堂々としたその体を僕らに見せつけてくる。食えよ、でもその前に見ろよこれ。僕たちは試合に勝って勝負に負けたんだなと思った。
さばきたてのホタテは半分刺身に、半分バター焼きにしてみんなで食べた。本当に、今までのホタテはなんだったのかと思った(貝だ)。
あれは楽しかった。今年の前半のハイライトと言ってもいいかもしれない。
だけどあれから殻付きのホタテを見かけたことがないのだ。
殻開けだけを体験したい
あの感動をどうにかしてもう一回味わえないだろうか。宮城県に行けば新鮮なホタテが手に入るのだろうけれど、できればもっと手軽に味わいたいものだ。
そこで思いついたのがこの方法である。用意するものは次のとおり。
これだけあればあの感覚を味わうことができるのだ。いろいろ試した結果いきついた結論なのであながち間違ってはいないと思うが、これだけが正解ではないということも認識している。
必要ないかもしれないが道具をひとつずつ紹介する。
材料を見ただけでこの記事の行く末が見えてしまった人がいるだろう。そしてその予想はおそらく当たっていると思う。
しかしだ、先を読まずに帰ってしまうのはどうだろう。ケンタッキーフライドチキンは美味しいと知っているから食べないというのか、そんなことないだろう。わかっていても最後まで体験してみる好奇心が人生を豊かにするのだ。
わかったらすぐにキッチンへ行って皿を2枚持ってきてほしい。そしてテープでつなげてホタテにするのだ。
次に予想通り養生テープで貝柱を作るのだけれど、これは皿の深さや大きさによってまちまちなので今回の試みで唯一難しい点であった。
いろいろ試した結果、現時点での最適解を見つけたので隠さずに教える。もちろんこれよりもいい貝柱はあると思うので、あとはあなたの工夫に任せます。
ホタテの出来上がりである。
生きたホタテは少しずつ殻を開けて周囲をうかがうのだが、あなたがいま作ったホタテもしばらく置いておくとダンボールのバネが皿を押しのけようと頑張ってくれるため、すき間が空いてくるはずだ。
そこにへらを入れる!
この遊びの一番面白い瞬間がここである。へらの先で殻と貝柱を感じながら皿を開いていこう。
ある程度貝柱が外れると、ホタテは観念したように力を抜いて殻を開ける。勝利の瞬間である。
もちろんそこに貝柱はない。あるのは虚無である。
しかし興奮しただろう。祭りの後には虚しさがやってくるものなのでそういうものとして受け止めてほしい。これで練習して本物のホタテをうまく取り出そうとかそういう話ではない。ホタテを開けるという行為だけを純粋に煮詰めた、これはいわば新しいスタイルの仮想現実なのだから。
ばかばかしい記事まつり
この記事は2020/06/22~26に行われる「ばかばかしい記事まつり」に奉納された記事です。ライター総勢15名がばかばかしきをまっとうします。
- シュークリームにフルーツを挟む(玉置標本)
- ホースを型にゼリーを作る(米田梅子)
- マスクをもてなす(ほり)