特集 2020年11月4日

アフリカのことわざを動物の専門家に説明してもらう

アフリカには、「川は大勢で渡れ さすればワニには食べられまい」「同じ森に2匹のヒョウは住まない」など、動物にまつわるたくさんのことわざがある。

しかし、出てくる動物にあまりにもなじみがないため「この動物は本当にそんなことをするのか?」と首をかしげたくなることも多い。

アフリカのことわざに出てくる動物は、本当にことわざのような行動を取るのだろうか?そんな疑問を野生動物の有識者にぶつけてみた。

どうでもいいことを真剣に分析してみる記事をたくさん書いているエンタメライター。音楽や映画が特に好き!


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今回、質問に答えてくれたのはどうぶつ科学コミュニケーターの大渕希郷さん。

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アフリカはコンゴ民主共和国にて野生動物調査中の大渕さん(C)大渕希郷

大渕希郷さん:
どうぶつ科学コミュニケーター。過去には上野動物園で飼育展示スタッフ、宇宙飛行士・毛利衛館長の日本科学未来館で科学コミュニケーター、京都大学では野生動物研究センターの特定助教をされた方である。現在はフリーランスで活動され、『もしも?の図鑑 絶滅救出裁判ファイル』はじめ著書多数、NHK「ダーウィンが来た!」ほか出演も多数。最近は、絶滅危惧種の地球儀「こども環境地球儀ハトホル」も作られたそうだ。ウェブ連載「動物ふしぎ観察記」も好評。夢は今までにない科学的な動物園をつくること。

大渕希郷:
まいしろ:エンタメライター。特に好きな動物はアルパカ。

石川:デイリーポータルZ編集部。好きな動物はプレーリードッグ

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猿も木から落ちる/犬猿の仲 

まい:今回はいくつかアフリカの動物にまつわることわざについてお聞きしたいんですけど、最初からアフリカのことわざの話だとマニアックがすぎるなと思ったので、ウォーミングアップ用に日本のことわざを用意しました。

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大渕:「猿も木から落ちる」について言うと、本当に落ちるようなんですね。

まい:えっサルも木から?!

大渕:実際に論文も出ています。野生のサルを調べてみると、骨折のあとが残っていることが結構あるそうなんです。

まい:どれだけ上手な人でも失敗することはあるんですね...。同じくサルで「犬猿の仲」についてはどうでしょうか。

大渕:仲が悪いかどうかでいうと良くはないです。仲良しになることもありますが、山などで出会うと、イヌがサルを追いかけたりするようです。は
サルも野生動物ですから、誰か別の動物と仲良くしようということは多くはないないんでしょうね

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誰かと仲良くする感じじゃないサル

まい:サル側に問題があると?

大渕:もちろんケースバイケースだとは思いますが、屋久島だと、サルが時々シカに乗ったりしてるんですね。理由はまだわかりませんが、明らかにシカの方はサルを嫌がってるように見えるんです。

まい:サルが嫌われてるような感じがして切ないんですが...

大渕:まあ、この場合、猿の方がアプローチを掛けているわけですからね…シカはサルが落とす果実にしか興味がありません。

結論:サルは木から落ちるし、イヌともわりと犬猿の仲

川は大勢で渡れ さすればワニには食べられまい

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まい:ではアフリカ最初のことわざは「川は大勢で渡れ さすればワニには食べられまい」というものです。日本でいうところの「赤信号みんなで渡れば怖くない」ですね。

大渕:アフリカ大陸の方だと、ヌーとかが大移動をするんですね。その時に川を横切るんですけど、その川にワニがいますよね。それを元にしたことわざだと思います。
ただ、このことわざの元になったマダガスカル島にはワニはいても、ヌーのような大勢で川を渡る動物がいません。元々は東アフリカの方のことわざかもしれません。ね。

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マダガスカル島にはいないヌー。足がめちゃくちゃ細い。(Photo by Ranveig and Tintazul

石川:大勢で渡ると本当に食べられないんですか?

大渕:食べられますよ

まい:食べられるんですか?!

大渕:バンバン食われてますね。ただ、誰かが食われれば誰かが助かるので生き残る確率はあがりますね

石川:大勢で渡ってもワニってひるまないんですか?

大渕:ひるみませんよ

まい:ワニ強い...

大渕:ワニって結構かしこい動物ですからね。爬虫類の中ではコミュ力が高くて、ほぼ唯一、群れで暮らして仲間と音声で会話できる生き物なんです。「この中で誰を食っちまおうか」みたいなのもちゃんと見てますし。

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画像は日本で養殖されている食用ワニ。まだ小さくてかわいい。。「ワニ養殖を見てきた」 より

まい:私がどうしてもアフリカの川を渡りたい時はどうすればいいんでしょうか?

大渕:泳ぎですか?絶対にやめた方がいいですよ。100%食われますよ

まい:わかりました、やめときます!

大渕:ワニのいる川ならそれなりの船が必要ですね。水面と近いボートなどもやめた方がいいと思います。

結論:大勢で川を渡ってもワニには食べられるのでやめた方がいい
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バッファローに追われて木に登るはめになったら景色を楽しみなさい

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まい:続いては「バッファローに追われて木に登るはめになったら景色を楽しみなさい」ということわざです。「ピンチのときこそ落ち着いて」とか「焦らずリラックスしなさい」といった意味ですね。

大渕:これは普通にバッファローは木に登れないから、怒らせて逃げるハメになったら、木に登ってウシがどこかに行くまで待つしかないということですね。

まい:シンプルな疑問なんですけど、バッファローに追われて木に登ったときに景色を楽しむ余裕ってあるんでしょうか?

大渕:バッファローって木の上の方には登ってこれないんですね。だから意外と大丈夫だとは思います。

まい:バッファローってなんで追いかけてくるんですか?

大渕:気性が荒いんですね。バッファローってウシの中でもスイギュウと呼ばれるもの…まあ、いかついウシですね。その総称で、その中でもこれはたぶんアフリカスイギュウのことだと思います。

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アフリカスイギュウ。怖い。追いかけられたくない。(Photo by PaulRae~commonswiki and Soerfm

大渕:ウシっておっとり「モ〜」って言ってるイメージがあると思うんですけど、あれはオーロックスという牛のうちおとなしいものを選んで家畜にしているからで、本来のウシは猛獣です

まい:私が思ってたウシのイメージと違いました...

大渕:わかりやすい例だと、荒れ狂う闘牛を思い出してもらったらよいかと。足も速いですし。

まい:ウシって足速いんですか?!

大渕:急なカーブは苦手ですけど、まっすぐ走れば特に速いですよ。走るのに特化した脚を持ってますから。

まい:自分の中のウシの知識がどんどんアップデートされていくのを感じます!!

結論:バッファローに追われて木に登るのは納得できる

同じ森に二匹のヒョウは住まない

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 まい:続いては私がもっともピンと来なかったことわざ第1位なんですけど、「同じ森に二匹のヒョウは住まない」ということわざです。「権力者は同じ場所に共存できない」という意味だそうです。

大渕:まずヒョウに関していうと、野生のネコ科では一番広い地域に住んでます。地域だけでなく、環境順応力も高く、サバンナにもいるし熱帯林にもいるし森にもいるし、インドなどでは近年街に出没してしまい問題になっています。

まい:想像の100倍ぐらい身近な生き物でおどろいてます

大渕:ネコ科でもっとも成功してる動物なんじゃないでしょうか?ヒョウならアフリカ全体で見れますね。

まい:本当に同じ森に2匹は住まないんですか?

大渕:森の大きさにもよりますけど、基本はそうですね。ヒョウどうしで獲物を奪い合ったり、ヒョウをヒョウが食ってしまうということもありますし。

まい:あまりにも厳しい世界すぎる...

大渕:ヒョウだけではなく、単独で暮らす大型の肉食動物は縄張り争いはありますね。

まい:今後のために聞いておきたいんですけど、私がアフリカに行ってヒョウに会った場合はどうしたらいいんでしょうか?

大渕:逃げてください

まい:わかりました

大渕:ただし、逃げる時は背中を向けて逃げない方がいいですね。ネコ科の動物というのは、本能的に相手の背後から狙うんです。「牛のおしりに顔を描いたらヒョウ等に襲われる確率が下がった」という研究結果もあります。
なのでヒョウやライオンのいそうな所に行くときは、お尻…いや、背中に目を書いておくといいかもしれないですね。

結論:アフリカでヒョウに会ったら逃げるべき

アフリカのヤギは盗んだり借金ばかりしている

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まい:続いては再びヒョウで「ヒョウが歯痛を患っている時ヤギは借金の取り立てに行くことができる」というものです。シチュエーションが全然わからないですけど「自分より強いものがいないときに弱いものがいばること」を指すそうです。

大渕:後半は僕も正直まったくわからないですけど、前半部分はありえます。

まい:「ヒョウが歯痛を患う」のところですか?

大渕:野生の動物って「虫歯」がけっこう死因の上位にくるんですね。歯がやられてしまうと食事ができなくなるので、肉食でも草食でも大変です。

ただ、動物園だと加工されたエサを食べるので虫歯になりやすいんですが、野生だと虫歯にはなりにくいと思います。それでも老いには勝てませんから、相手にトドメを刺すための犬歯などがやられてしまうと厳しいですね。

まい:ヒョウが歯痛になっている時って、人間から見ても「こいつは歯が痛そうだ」ってわかるんですか?

大渕:歯痛になるとご飯がしばらく食べられないので、弱っていることはわかるはずです。しかし、それはそうとヤギの借金ってなんなんでしょうね。

まい:突然カネの話になりましたよね

大渕:いろいろ考えてみたんですけど、ヤギがヒョウに貸すものは何もないと思うんですよ。もしかすると、ヒョウが弱っている間に「これまでヒョウに食われたヤギの被害を取り立てる」という意味かもしれませんが...


まい:なるほど!ちなみにアフリカって、ヒョウと並んでヤギのことわざが多くて「盗みを働くヤギを他のヤギのそばに繋げばみんな盗むようになる」っていうのもありました。

大渕:ヤギの盗みってなんなんでしょうね。ヤギって集団行動する動物なので、一匹いらんことしたら他もまねはすると思いますけど。

石川:もしかしたら、うちのヤギの1匹が隣のうちのヤギのエサを盗み食いしはじめたら、みんな真似しますかね?

まい:ヤギへの想像がふくらみますね。あとは「ヤギをいくら洗ったとしてもヤギのにおいはそのまま」ということわざもあります。「人を自分の思うように変えることはできない」という意味です。

大渕:どんな動物もいくら洗っても匂いはそのままですよね。匂いが少ないヤギの方が高く売れるとかなんでしょうか?

まい:全体的にヤギがちょっと嫌われてる気がするんですよね

結論:アフリカのヤギは盗んだり借金ばかりしている
いったん広告です

ライオンのすみかに仔ヒツジを見たら仔ヒツジの方を恐れよ

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まい:次は「ライオンのすみかに仔ヒツジを見たら仔ヒツジの方を恐れよ」ということわざです。「弱そうに見えて、心のうちに策を持つ人の方が怖い」という意味ですね。

大渕:まず「ライオンのすみか」とはライオンの縄張りのことだと思います。で、仔ヒツジについていろいろ考えてみたんですけど、とりあえず野生のヒツジではないはずです。アフリカって野生種のヒツジがそもそもあまりいないんですね。

まい:そうなんですね!

大渕:バーバリーシープというのはいるんですけど、ライオンと住む環境がかぶってません。だから家畜の仔ヒツジがはぐれて、ライオンの近くをうろついているんだと思います。

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バーバリーシープ。しかしこいつのことではない。

まい:実際にライオンの縄張りをうろついている子羊がいたら、ライオンと仔ヒツジどちらが怖いんでしょうか?

大渕:ライオンですね

まい:そうですよね

大渕:仔ヒツジがこっちにアタックしてくることはないと思いますよ。でも、、感染症にかかって捨てられた仔ヒツジだと結構怖いかもしれません。
「仔ヒツジを拾った!」と喜んで持ち帰っても、他の羊に病気をうつされて大変なことになるかもしれませんから。
動物の生態系だけではなかなか読み解けないことが増えてきた。やはりアフリカのことわざを理解するためにはアフリカそのものに詳しくないといけないのかもしれない。

結論:ライオンのすみかに仔ヒツジがいてもライオンの方がやっぱり怖い

死んだゾウは常にその痕跡を残す 

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まい:ではようやく「アフリカといえば!」という動物の登場で「死んだゾウは常にその痕跡を残す」ということわざです。「死は人生の総仕上げであり、死を持ってその人の評価が決まる」という意味だそうです。

大渕:これはまず、ゾウって体が大きいじゃないですか。だからすぐに死体が見つかるということなのかなと。「痕跡を残す」という意味ではそりゃ残ると思います。

まい:シンプルに大きいですもんね

大渕:あとはもうひとつは、ゾウって共感能力がけっこう高い動物のようなんです。死んだゾウの周りで他のゾウがその死を悼むように触ったり、骨を足でそっと触ったりする姿も観察されているんです。

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シンプルに大きいゾウ。大きいだけではなく優しい。

まい:ゾウ、優しいんですね!

大渕:ちなみにヒョウは、自分の子供が死んだときでも最終的に食べたりします

まい:ヒョウの世界ってめちゃくちゃ治安悪いですよね

大渕:考えようによっては究極の葬儀かもしれませんね....。

結論:ゾウは優しいがヒョウは過酷な世界を生きている

2つの道はハイエナを困らせる 

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まい:では最後に「2つの道はハイエナを困らせる」ということわざです。「二兎追う者は一兎も得ず」に近い意味です。

大渕:これは一番難しい。「道」って何のことでしょう。

まい:そもそもハイエナに「道」という概念はあるんでしょうか?

大渕:ハイエナってサバンナにいるので、お気に入りのルートはあるかもしれませんが道らしき道はないんですよ。なのでもしかしてなんですけど、バックトラックのことかもしれません

まい:バックトラック??

大渕:例えばウサギがキツネに追われているとき、自分がつけた足跡通りに戻って、別の方向に逃げたりするんですね。それでハイエナが迷ってしまうのかもしれません。

まい:ハイエナって死体ばかり食べてるイメージがあったのですが...

大渕:けっこう狩りをする動物ですよ。ハイエナって4種類いるんですけど、一番知られているのはブチハイエナだと思います。ドラマやアニメでよく悪者にされる可哀想なハイエナですね。

まい:あの顔がめちゃくちゃ悪そうなハイエナですよね

大渕:僕、ブチハイエナ好きなんですよ

まい:急なカミングアウト...!なんかすみません!

大渕:名前が「おおぶち」なので、子供の頃からハイエナがテレビに出るたびに次の日イジられてたんです。でもおかげで僕はハイエナが好きになりました。

まい:ブチハイエナのイメージのせいで大渕先生の身にそんなことが...!

大渕:全然イメージと(本物のブチハイエナは)違うのに。

ことわざの状況は最後までわからないままだったが、大渕先生のブチハイエナへの強めの愛情を知ることができたのは良かった。

結論:大渕先生はブチハイエナのことが好き

日本とはスケールが違う動物がどんどん出てくるアフリカのことわざ。表現方法は違っても、意味を知ると日本人でもグッと来るものが多いので、ぜひこれを機に普段から会話で使ってみて欲しい。


終わりに

今回の話を聞くうちに、どうしても本物の動物が見たくなって上野動物園に行ってみた。

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動物園に入場してから気付いたのだが、今回紹介したことわざに出てくる動物は上野動物園でほとんど見ることができなかった。他の動物園も調べてみたが、ヒョウやハイエナあたりが難関らしく、日本では見れるところが少なかった。

アフリカではことわざに出てくるレベルでなじみのある動物が、日本では動物園でもなかなか見られないという現実。いつか、ヒョウに襲われないように気をつけながらぜひアフリカの大自然を見てみたい。

大渕さんより告知

■大渕希郷さんウェブサイト

どうぶつ科学コミュニケーター 大渕希郷のホームページ

■オンラインイベント:ぶっちーの生きもの教室zoom講座

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動物園、科学館、大学、博物館で働き、いろんな姿かたち、能力を持ったいろんな生き物に関わってきたぶっちー。そんなぶっちーと一緒に、ふしぎな生き物たちのふしぎにせまります。

日時:1回目12月20日(日)14:00-15:00 2回目2月28日(日)14:00-15:00
対象:小学生以上
場所:zoom(オンライン)
参加費:500円

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