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土曜ワイド工場
 
ワニ養殖を見てきた
プールに入るなりモップを持ち、無敵となった小池さん


「棒がね、無敵なんですよ。ワニはほんとに臆病な動物なんで、こんな棒1本持ってたら無敵ですね。」と言いながら小池さんはモップを持って地上にいたワニにおもむろに近づく。

ビクンと反応したワニが、ダシャーダシャーと口を開けて威嚇する。間近で見ると敏捷性もある。遠めからでも鋭利だと分かる歯には肉食獣の怖さがある。

ほれっ、とか、こらっ、とか小池さんはぶつぶつ言いながらワニの口を棒で叩くと、ワニは水の方へまたダシャーダシャーと逃げていった。

あれ?ここどこだっけ?今何してるんだっけ?と色んなことが分からなくなったので小池さんの事務所に戻ることにした。

(text by 大北栄人



ここまでを振り返ると

そうだ、「高齢者でも扱いやすいワニ養殖」と、じいちゃんばあちゃんがワニを持っている写真をホームページで見つけ、これはえらいことになってるぞ、と静岡県は湖西市にある小池ワニ総本舗にやってきたのだった。

「とりあえずどんなもんか見てもらいましょうか。」と着くなり養殖場へと案内していただいた。そして40匹のワニがいた。無敵の棒が出てきた。隣に無敵となってワニと戦う人がいた。急激なおもしろに頭がついていかず、わからなくなったところ、じゃあ一度事務所へ、と落ち着いて話を伺うことにしたのだ。


奥のハウスに40匹のワニがいる。
裸にネクタイは人間だったら大変だ。

小池ワニ総本舗の小池さん。
小池父母とワニ。

2年経った。
ちょっと老けたなあ、と小池さんは親を見ていた。

タイから入荷してきたときのワニってこんな状態なんだそう。

「これで日本を変えるぞ!」と思ったそう。感動屋さんだ。


300匹超のワニがいるぞ

案内していただいたのは小池ワニ総本舗の代表・小池さん。ワニの養殖事業と輸入ワニ肉の販売を行っている。

ワニ養殖を始めて丸4年が経ったそうだ。初年はワニ1匹、その後タイでワニを買い付け、現在はさっきの養殖場に40匹、もう一つ大きめの養殖場に280匹くらいいるらしい。

しかしまだ産卵から始まる完全養殖は始まっていないそうだし、ワニの屠殺、出荷もまだだそう。来年辺りには、とまだワニ養殖は完成途中とのこと。

ワニを抱かないかい?

「まずどういう記事にするか教えてもらえますか?」と先制パンチを食らう。聞けばこの養殖園はテレビや新聞の取材も何度も受けていて、先日も10月に全国放送するテレビの取材を受けてきたという。そういえばボケッと取材してるのが常で、何書くとか決めてないよなあ。

はあ、ワニ養殖の一日の作業とか日常っぽいことがいいです…とごにょごにょ答えてたら見かねた小池さんが「ワニ抱っことかします?」と聞いてくる。

ワニを抱っこ!何て楽しそうな響きなんだろう!しかし…それは何かおもしろに走りすぎなんじゃないだろうか…と葛藤していると「凶暴な者を征服したという感動があるんですよ。」と分かりにくい理由で誘ってくる。

すいません、日常の業務だけでいいっす…とお断りすると「あー、エサやりと食べ残し掃除くらいしかないんですよ、それも毎日でもなくて思いついたときにやるだけで。」と小池さんが言う。

ワニの養殖は楽ちんすぎて

そういえば肝心のじいちゃんばあちゃんがいないな、と思い聞いてみると「じいさんは畑に出てて、ばあさんは家にいますけど呼びますか?」と言う。高齢者でも働けるほど楽な作業だったのだが、楽すぎて小池さん一人で事足りてるのだという。家にいる高齢者を呼び出すのはさすがに気が引けた。

ワニは変温動物で、カロリーを燃やして体温上げてるわけじゃないからあんまりエサも食べないのだという。そして体内で抗生物質を作るらしくてめちゃくちゃ丈夫。どろどろの汚い水でも平気で生きるし、寿命も100年くらいあるらしい。無敵だぞ、ワニ。でもさっきは棒が無敵だったぞ。

思い起こせば8年前

ワニが好きで始めたんですか?と聞くと「そもそもの始まりはニワトリなんですよ。近くの鶏舎で毎日相当な数のニワトリが廃棄処分になっていて。それも業者にお金を払って処分してるらしくて。」で、これ何とかならんかなー、と考えたところ、ワニだ!となったらしい。すごい発想だ。ワニだよね!となかなか合わせにくいもの。

で、この小池さんのさらにすごいところは行動力があり過ぎるということじゃないだろうか。ワニだ!と思いついたとしてそこから突っ走ることは難しいだろう。だって「ワニ食うぞ!」だ。「え!?あんたワニ食うの!?」だぞ。

バファリンは優しさでできているというが

ましてや開けていない道である。「怒りのエネルギーでここまで来たんですよ。」と語る小池さんだが、日本で誰もやってないことをやるっていうのはそりゃもう半端じゃない苦労があったようだ。ここから小池さんの苦労話が続くが、白鳥の水面下でのバタ足は残念ながらできるだけ割愛だ。残念。

・役所との、法律との戦い
・約束していた日本の業者の裏切り
・独力でタイの業者との交渉、またも裏切り

お役所の方が小池ワニにみえたときにはワニが交尾したという。小池さんも初めて見るものだったので「あなたがたはラッキーですよ!」と興奮していたら向こうはドンと引いてたそうな。

ちなみに今回の取材中にワニのおちんちんの写真が撮れた、と小池さんは興奮していた。とりあえずこちらもドンと引いてみた。


ちなみにワニの交尾はこんな感じなんだそう。

右がテールのハム。左が尾びれ肉のハム。

こちらはワニのタン(舌)のハム。100g3000円ですよ。

ワニのハムうまい

まあ食べてみてくださいよ、とテール肉、尾びれ(しっぽの山型のゴツゴツしたところ)の肉、タン(舌)のハムを食べさせていただいた。日本のハムマイスターの人に調理してもらったのだという。

テール肉を口に入れてみると、う、うまい。羞恥心を捨てて、まいうー、と言ってみてもいいかもしれない。質量が60%になるというハム加工だからかもしれないが、噛むほどにぎゅーっとうまい汁が出てくる。お歳暮のハムよりうまいぞ。

尾びれのほうは食感が売りだという。たしかにコリコリしてうまい。扱いとしては軟骨っぽいか。それよりはもっと柔らかくニチニチしている。

最後のタンだがこれが絶品。ほとんど脂肪なんだが、この脂にあっさりした甘みがある。頭が良くなるDHAも豊富なんだそう。有名な料理研究家の方にワニのフルコースを作ってもらったところ、やはりタンを絶賛されたらしい。その写真も見せてもらったが、その方はタンでデザート作っていた。

ワニの、タンで、デザート。意外性と意外性の掛け算3回で、なるほどねー、としか言えなかった。意外すぎると普通になる、というのを初めて学んだ。

そして値段はというと、テール1,000円/100g、尾びれ2,000円/100g、タン3,000円/100g。どうだ高いだろう。しかも値段設定がちょうざっくりしてるだろう。グラム3000円の肉なんて食べたことないけれども、この日グラム3000円のワニのタンを食べた。気を抜くとよく分からなくなってくるのがこの小池ワニの魅力だ。


 

 
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