広告企画 2025年10月30日

お揃いの服を着れば仲良くなれるのか

心の豊かさを考える3回目である。

今回のテーマは「お揃いの服を着る」になった。
それに至るまでのようすは別にまとめてあるので読んでください

お揃いの服を着て仲良くなる。心の豊かさとしてはかなり直球だ。双子コーデという文化もあるし、豊かさが約束されている。
1回ぐらいはそんなストレートな試みがあってもいいだろう、だが、そんな目論見はすぐに崩れることになった。

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

前の記事:高いところに登ると楽しい

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「心を豊かにする」シリーズ

JTのコーポレートR&D組織 D-LABと「心の豊かさ」を感じる方法を考え・実践するシリーズ記事です。

第1回 どうやったら心が豊かになるのかをプレゼンしました
第2回 手で食べる
第3回 鑑定しないお宝鑑定大会
第4回 鑑定しないお宝鑑定大会 後編
第5回 「お揃いの服を着る」に決定するまで~「心の豊かさ」を実現する企画プレゼン
第6回 お揃いの服を着れば仲良くなれるのか
 
今回のメンバー・7人(上段がD-LAB、下段がデイリーポータルZ)
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UFO喚びそう

今日のお揃いコーディネートはダンガリーシャツ+白シャツ+デニム+緑のキャンバス地のスニーカーだ。事前に揃えた服装で駅前に集まって広場に向かう。 

どういう集団だろうか

初対面の人もいるが、待ち合わせ場所でお揃いの服を着ているだけで「デイリーポータルZの撮影ですよね…」と声を掛けることができた。

このとき「なんだか怪しいですね。うふふ」と笑っていたが、その予感はどんどん現実のものとなる。

「じゃあここに座って写真を撮りましょうか」

 双子コーデのさらに上を行く七つ子コーデだ。否が応でも一体感が高まるだろう。大人だから双子どころか7人だって揃えられてしまうのだ。

………

一体感はある。全員清潔感もある。だが、双子コーデの浮かれ感がない。むしろちょっと怖い。言葉を選ぶのが難しいが……UFO喚びそうだ。

ひとりひとり離れて自分たちを見てみる

「なんでだろう?靴までそろっているからかも。笑っていても怖い」

年齢も性別もバラバラの集団がお揃いの服を着て笑っている

とりあえず、会社のホームページにこの写真が載っていたらその会社は避けたほうがいいことだけは分かる。

「明るい職場です」

明るい職場かもしれないが魂が抜かれている感じがする。人数だろうか。7人もいるからいけないのか。

ひとりだとアメリカのカジュアルウェアの広告のようだが
6人いるとこの茂みから出てきたように見える

この集団を自分たちで見ての感想

・外側から意味付けられている集団(川上)
・ただし、警察官のような役割ではない(林)
・山伏の修行のような、統一した目的がありそう(武田)
・何らかの思想は共有してますね(とりもち)

不穏な写真を解説しようとしたらもっと不穏になったよ。まだ序盤、始まったばかりです。

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役割があると安心する

いったん茂みから離れて、ゲームセンターの入り口をうろうろする。

あ、これは自然かもしれない

この施設で働いているように見える。制服だ。やった、これは大丈夫そうだ。 

「こうやって集まれば、ガチャガチャを整備しているように見えるよ!」

このときはそう思って安心していたが、あとで見るとガチャガチャに人手を割きすぎの職場である。ガチャガチャの研修会だ。

ここまでの写真を後で見ての感想
・何も目的なしに服が同じなんてことはないから不安だった(武田)
・だからお揃いが似合うシーンを探してた(林)
・でもバイトですって言われても、年齢と性別がバラバラ(塩谷)

など不安を埋めるために必死だったことが分かる。ただ撮影中、公園のベンチにヘビがいたのだが、そのときの様子は自然だった。

ヘビを恐る恐る囲む集団

お揃いであることよりヘビがいてびっくりするという意味が上回っていたからかもしれない。 

小さいアオダイショウ、ありがとう
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手を振られる

公園内を移動するバスを待っていると予想外のことが起きた。 

子どもたちに手を振られたのだ

なぜ?我々はそんなに目立つのか?こんなに普通の服装なのに? 

自分たちの視点ではこれぐらいだが
確かに傍から見ると「なにかだ?」と思わせる力がある
カメラマンもそろっているし
靴がそろっている。しかも緑でそろっている

服装としてはオーソドックスなので隣にいても気にならない。だけど7人並んでいると「なにか」である。
しかしそのなにかが分からないのだ。名前がついてない。
「あの人たちは……なにかだよ」と気持ち悪い言い方になってしまう。

かわいい乗り物に乗るなにかの集団
あとで振り返っての参加者コメント
・ギャングみたいな格好でお揃いだったら、振ってもらえないだろう(武田)
・手を振られたけど、自分より全体を見られてる感じがした(とりもち)
・石川さんが撮影しているので「なにか」やってる感がある(武田)
・でもこのとき僕もバスに乗ってましたよ(石川)

あの若者たちはバスか、その向こうにいる友だちに手を振っていただけかもしれない。そうしたらお揃いの集団が手を振り返してきたのだ。やべー集団である。

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狭い空間だとお揃いを忘れる

このバスのあとに観覧車にも乗った。なかではお揃いであることも忘れて景色を楽しんでいたが、あとで写真を見ると違和感はある。

公園の景色を満喫する集団
高いところからの景色を望む一行

こういう小部屋にギュッとしているよりも、並んでいるほうがお揃いであることが強調される。 

カメラを通じた第三者視点を意識するようになってきた

公園には我々のほかにも若者のグループが何組かいて、ひと組はお笑いコンビかと思うぐらいのテンポで話していた。彼らはお揃いの服ではないが一体感を醸し出している。
我々にないのはあの一体感、自分たちを「うちら」と呼ぶ関係性かもしれない。 

我々は大きなきのこに注目しながら歩くし、一人称が「我々」

一人称が我々なのは宇宙人のようだ。

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視点切り替えができるようになる

だが、お揃いの写真のおかしさが分かってくると、こんな写真を撮ったら面白いんじゃないかというアイディアが次々に出てくる。

ただ並んで劇団の公演チラシのようになってみたり
エレベーターのミラーに映る自分たちを撮ってみたり
歩いているだけなのに連続写真のようになってみたり

お揃いの楽しさを感じるためには「自分たちがいま楽しい」だけではなく、「第三者視点で見るとおもしろい」という視点を持つ必要がある。
双子コーデをしている若者もゲームの視点切り替えのようなことをしているに違いない。

休憩で入った店であえてバラバラに座る

店に入って、客が全員お揃いだったら躊躇する。しかも制服ではないお揃いだ。今日何度目かの名前のついてない違和感である。

写真がどことなく生成AIっぽい
第三者視点の切り替えについての感想
・階段やエレベーターで撮ったり、第三者視点で遊ぶのは楽しい(塩谷)
・第三者視点で撮るとき、キャラクターを演じている(武田)
・「生成AIっぽい」と感じたのは服装が同じであることの不安さかもしれない(武田)
・ 自分が店に入ってこの状態だったら辛い。ほんと辛い。(塩谷)

オフィスなら制服もあるし馴染むのではないか

お揃いの旅の最後はJTのオフィスである。会社だったらお揃いの服を着ていてもおかしくないだろう。そもそも制服がある会社もあるわけだし。

そうでもなかった
対面で座ってもちょっとおかしい

左右どちらかがお揃いだとチームのユニフォームのようだが、全員そろっていると、意思とは別に連れてこられた感じはある。「会議室」ではなく「控え室」だ。

今日の写真を見ながら、ずっと引っかかっていた違和感はなんだろうかと考える

同じ服の集団が同じ服の写真を見てディスカッションしているのはモブキャラっぽさが否めない。

「うちら」になってなかった

今日1日の写真を見て、双子コーデとどこが違ったのかを考えると、ひとつ大きな前提にたどりついた。

・制服ディズニーしてる人たちには「うちら」と呼び合う仲の良さがある(武田)
・「うちら」感なしにお揃いから始めると、お揃いである意味を探してしまう(塩谷)
・年齢性別問わず同じ服を着てるって、目的がないとなかなかポジティブな想像に行かない(川上)

つまりこういうことだ

仲良しの状態→お揃いにしちゃったりして!(生成AIによる画像)

 この仲良しの状態がないと、

とりあえず手でも挙げてみますか、みたいなことになる。仲の良さもいきいきした雰囲気もない

1日撮影をしていた石川さんからのコメントも、核がないお揃いの力を感じさせるものだった。

・同じ衣装を着ることによってひとりひとりの個性が薄く感じた
・この格好じゃなくて、この人たちと一緒に行動するのは嫌
・カメラマンが同じ服装じゃないと、無理矢理撮らされている感じがすると思う

テーマのないお揃いは不安だが、ひとりだけ別の服を着るよりも、むしろ揃っていたほうが安心するのかもしれない。人間らしい。

嫌だなと思いながら撮っていた

でも最後にうちらになった

しかし最後の振り返りのあとは、1日ぼんやりと感じていた不安の正体が見えて晴れやかな気分になった。

そう気づいてから撮った写真には「うちら」感があった

お揃いの深淵を考えたことで仲間意識が出た。
ここから「じゃあお揃いの服を着ちゃったりして!!」と言ってはじまる企画だったのだ。
マンガの最終回によくある「おれたちの旅はこれからだ」状態である。


心の豊かさが浮かび上がる

服を揃えることで「つながり」を体現し、心の豊かさが実現できると思ったが、そうならなかった。
双子コーデの背景には、「お揃い」「うちらと呼び合う関係性」「自発的に揃える」などの要素があるが、「お揃い」を取り出しても双子コーデのつながりが現れなかった。この箱ではなかったようだ。
残りの要素に大事なものが入っていることが分かった。これで「また心の豊かさ」に近づいた!

青い光の下で撮るとNASAの地上訓練中のクルーっぽくなった

取材協力:
葛西臨海公園「ダイヤと花の大観覧車」
オーセンティック

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