雨男や晴れ女は実在するのかもしれない
雨男や晴れ女。迷信だろうと思っていたが、松井さんの話を聞く分にはやはり実在するのかもしれない。
気が重くなるニュースばかりの昨今。ワイドショーで天気予報のコーナーになるとホッとする。日本の気象を一手に引き受ける八意思兼命も松井さんも大変だが、少しでも安寧な世の中になるよう、引き続きがんばってください。
【取材協力】
高円寺 氷川神社
7月16日に新海誠監督の新作アニメ映画、『天気の子』が公開される。その予告ムービーに写っているのが「気象神社」と書かれた絵馬。
気象神社は日本にひとつ、高円寺氷川神社の境内にある。前身は昭和19年に大日本帝国陸軍の陸軍気象部(高円寺北4丁目)構内に造営された社。当時の気象観測員が気象予報の的中を祈願したそうだ。
これが、昭和20年に氷川神社(高円寺南4丁目)の境内に遷座される。日本で唯一の珍しい神社だが、高円寺に住んでいても意外と知らない人が多い。『君の名は。』の須賀神社のような聖地になるのだろうか。
なお、毎年6月1日の気象記念日には「気象祭」が開催されるという。面白そうなので覗いてきました。
その前に、宮司さんから「晴天祈願に来られる企業さんを紹介しましょうか?」との嬉しいご提案。雨が降ると困る事情があるのだろうか。ぜひ、お願いします。
参拝に来たのかと思いきや、そのまま立ち去った。信心深いのだ。
気象神社は鳥居の先を左に進んだ一角にあった。御祭神は八意思兼命(やごころおもいかねのみこと)。
絵馬は表か裏かで明日の天気を占う下駄。「雨男/雨女を卒業できますように」という願い事が多かった。
満を持して宮司の松井美加子さん(53歳)が登場。文献に残っているだけでも、曽祖父の代から氷川神社の宮司を務める家系に生まれた。
こちらの松井さん、“超晴れ女”だという。
「ここ30年間、私の記憶の中では晴天祈願や気象祭などで雨が降ったことは一度もありません」
太陽が大好きで、夏は真っ黒に日焼けする。気象神社の宮司としては100点満点だ。余談だが、好きな食べ物は分厚くて固い赤身肉。400グラムのステーキを余裕で完食するらしい。
昭和62年の氷川神社社報も見せてくれた。
太陽をこよなく愛する松井さんだが、雨の立場にも理解を示す。
「農家を含めて雨を必要とする方もいらっしゃいますから。皆さんが眠っている間にバーッと降って、外で活動を始めたい時に晴れるのが理想ですね」
平成15年に新社殿が完成した時の写真もあった。祝詞を読み上げているのが先代の宮司、すなわち松井さんのお父さんだ。
ほどなくして、晴天祈願に訪れた小島電機工業の皆さんが到着。
建築資材の商社だというが、なぜ晴天祈願を?
「2011年の冬にイベントがあったんですが、大雪で大変な思いをしまして。社長がネットで検索したところ、この気象神社を見つけたんです。以来、年に2回のペースで晴天祈願に来ています」(常務執行役員・武井仁一さん)
同社ではエアコンも販売しており、夏に晴天が続くと商品がよく売れるというメリットもある。
なお、晴天祈願は個人でも受けられる。この日は40歳の男性が来ていた。事情を聞くと、「6月8日の土曜日に明治神宮で結婚式を挙げるんです。広い境内を和装で歩く『参進の儀』もあるので、雨だと困るなと思って」。
タイミングの悪いことに東京は6月7日に梅雨入り。翌日の天気予報は雨模様だった。しかし、結果は降雨なし。松井さんすごい。
実際に、この日も朝方にザーッと降ったがすぐに止んだのだ。
さて、気象祭当日。天候は晴れたり曇ったりで、やはり降雨なし。
チラシも貼ってあった。沖縄居酒屋が出店し、「ゲタ投げゲーム」も行われるようだ。
境内は早くも大盛況。毎年、500人近くが訪れるという。
店の人に聞くと、「町内会の御輿長を務めていたこともあって、ここは昔からお付き合いがあるんです」。
「オリオン生ビール!」という言葉をぐっと飲み込んで、沖縄そば(500円)とグァバジュース(200円)を注文した。
そろそろ、祭事が始まる。宮司の松井さんと禰宜の紺谷さんはスペシャル衣装で待機。
高円寺駅長のオシータさんがいる。
「6月末に異動があるかもしれません」と言っていた。それがなければ、高円寺駅長のまま、来年2月の定年を迎えるそうだ。
お天気キャスターの弓木春奈さんが自著を販売
さらに、境内をそぞろ歩く。4年前に住さんが取材した津村書店の出張ブースを発見。そこでは、お天気キャスターの弓木春奈さんが自著を販売していた。
1冊購入。この本には「田舎のばあさんと、マジの風は手ぶらじゃ来ない」など、全国の天気に関することわざが100以上紹介されているのだ。
気象のプロ、弓木さんに今年の夏は猛暑か冷夏かを聞いてみた。
「エルニーニョもどきが来そうなので、気温は低めで天候は不順。先週の異様な暑さが今年の夏のピークになる可能性もあります」
散策を続ける。
社務所にはグッズコーナーがあった。
迷った末におみくじを引くことにした。もちろん、普通のおみくじではない。てるてる坊主付きの「照照みくじ」である。
結果は赤の必勝坊主。大吉ならぬ「快晴」だった。
雨男や晴れ女。迷信だろうと思っていたが、松井さんの話を聞く分にはやはり実在するのかもしれない。
気が重くなるニュースばかりの昨今。ワイドショーで天気予報のコーナーになるとホッとする。日本の気象を一手に引き受ける八意思兼命も松井さんも大変だが、少しでも安寧な世の中になるよう、引き続きがんばってください。
【取材協力】
高円寺 氷川神社
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