特集 2019年5月15日

ご当地カクテル「横須賀ブラジャー」はFカップまである

公式グラスのロゴは白と赤、文字の浮かび上がり方も楽しめる

仙台の「レゲエパンチ」、さいたまの「さいボール」、函館の「函館ガラビー」。ご当地カクテルが全国で続々と誕生しつつある。

そんな折、自由が丘のバーで気になるメニューを見つけてしまった。「横須賀ブラジャー」。ブランデーをジンジャーエールで割るから「ブラジャー」。マスターいわく、横須賀のご当地カクテルだという。

ブランデーはふだん飲まないが、これが実に美味しかった。現地の盛り上がりが気になる。絶妙なネーミングの由来も聞きたい。取材班は急いで横須賀に向かった。
 

ライター。たき火。俳句。酒。『酔って記憶をなくします』『ますます酔って記憶をなくします』発売中。デイリー道場担当です。押忍!(動画インタビュー)

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自由が丘で出会った「横須賀ブラジャー」

それは自由が丘の「本牧パンチ」というバーでの出会いだった。

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ヨコスカブラジャー ¥700

横須賀が地元の小泉進次郎氏も絶賛したというから注文せざるを得ない。

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「お待たせしました〜」

美味しい。ブランデーのまろやかな口当たりをジンジャーエールがピリリと引き締める。「いま俺はブラジャーを飲んでいる」。そう思うと、アルコールの回りも速い気がした。

発祥の地は駅前の「若松マーケット」

というわけで、降り立ったのは横須賀中央駅。新宿駅から1時間ちょっとで着いた。

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1日平均乗降人員は約6万7000人

駅から徒歩1分の場所に目指す飲食街、「若松マーケット」の入り口がある。ここが「横須賀ブラジャー」発祥の地なのだ。

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ゲートには「横須賀ブラジャー」の文字
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新宿ゴールデン街にも似た昭和レトロな雰囲気がたまらない
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約160の飲食店が軒を連ねる

 

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5月24日、25日は「横須賀ブラジャーまつり」


昭和レトロな街に似合うブランデーでご当地カクテルを

我々は「横須賀氷業」という看板を掲げた建物の扉を開けた。

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いわゆる氷屋さん

中で待っていたのは同社社長で若松マーケット組合の会長でもある澤田勝彦さん。彼こそが「横須賀ブラジャー」の仕掛け人なのだ。

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マップを見ながら誕生の説明してくれた

「一時期は店舗数が減ってね。街おこしをするために県から紹介してもらった飲食コンサルタントを交えて相談した結果、ご当地カクテルを作ろうということになったんです」

最終的に白羽の矢が立ったのは、昭和レトロな飲み屋街に似合うブランデーと女性に好まれるジンジャーエール。こうして、「横須賀ブラジャー」が誕生した。2011年11月のことである。

発起人の澤田さんも店舗の空きスペースを居酒屋に改装して、「横須賀ブラジャー」を提供することにした。

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7種類のレシピを考案

そう、「横須賀ブラジャー」は店舗によって少しずつアレンジが異なるのだ。

「氷屋は冬は暇だから片手間で居酒屋を始めてみたんだよ。でも。予想以上に本業が忙しくなって今は開店休業状態(笑)。とはいえ、材料はあるから今もすぐに作れるけど、俺んちなんか色気がないからお店に行きましょう」

なお、澤田さんが扱う氷は自称「プロの氷」。単に水を凍らせるだけではなく、48時間かけて丁寧に作っている。

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その名も「氷屋純氷」

「まず、幅1mの筒の中に水道水を入れて大きいプールに沈める。水温はマイナス12℃だけど、塩水だから凍らない。そこで濾過してカルキと空気を飛ばすんです。真水だから味がない。つまり、お酒の味がそのまま生きるというわけ」

こうして作られた氷は若松マーケット内の飲食店はもちろん、鎌倉方面にも配達している。取材中も注文の電話がじゃんじゃん掛かってきた。ちょうど飲食店が営業を始める直前の時間帯だからだ。

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「今年の夏からはカレー味のかき氷も始めるよ」

確かに横須賀はカレーの街でもあるが、なかなか攻めている。


生生姜入りのジンジャーエールで作る「シルク」

澤田さんの案内で街に繰り出した。

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どんなブラジャーが待っているのだろうか

1軒目に入ったのは、お坊さんが営む自家製納豆酒場の「ロッケくん」。

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狭くて急な階段を上がる
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一人では入りづらい

この店を営むのは江波戸永高さん。横須賀の地場野菜を使った和洋中、そしてイタリアンを提供する。ちなみに、テーラワーダとは仏教とヒンズー教の中間ぐらいの教えらしい。

店内にはマイルス・デイビスが流れている。何はともあれ、「横須賀ブラジャー」をお願いします。「何カップにする?」。え、カップ数があるんですか。「おすすめを」と言うと「じゃあ、Cカップね」。

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「ちょっと待って」

ブランデー「V.S.O.P」に辛口の炭酸水「ウィルキンソン」と何やら小瓶の液体を同時に注いでいる。

澤田さんいわく、小瓶の正体は生生姜入りのジンジャーエール。これで作った「横須賀ブラジャー」は「シルク」と呼ばれ、ここ若松マーケット限定のカクテルになるそうだ。

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「横須賀ブラジャー Cカップ」(800円)

ああ、ブランデーの上品な甘さに生生姜のパンチがいい具合に絡む。「横須賀ブラジャー」、やはり美味しいです。

しかし、ここからがすごい。

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体によさそうなメニューがずらりと並ぶ

「料理は全部自家製。野菜は横須賀の地場ものね。ちょっと上の方に行くと畑がいっぱいあって直売所で買うと激安なんだから」

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出てきた200円の「お通し」がこちら

スナップエンドウ、インゲン、二十日大根、キャベツ、人参、ニンニクの芽。卵は岩沢ポートリーという養鶏場の健康卵を使用。そして、豆乳とココナッツミルクのカッテージチーズが絶品だった。

もはやお通しのレベルを超えているが、江波戸さんは「うちはお寺だから。原価率7割5分」と言って笑う。

ここで、澤田さんがカウンターに置いてある冊子を手に取った。

「マスターが現代語訳した『般若心経』ね。面白いんだけど、理解しにくい部分もいっぱいある」

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「『空とは創造、色とは想像』。意味わかる?」

解説を読むと、「意識している状態が『空(無)』で、すなわち創造すること。意識していない状態が『色(有)』で、すなわち想像すること」。

うん、難しいがブラジャーも地場野菜も美味しいということだけは真である。


ノリでAカップ、Bカップ、Cカップを始めた

続いてお邪魔したのは、真下の「白根家」。

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「横須賀ブラジャー」の提灯も見える

澤田さんが言う。

「ここの大将は釣り船を持っていて、朝早くに釣った新鮮な魚をさばくんだよ。元々は日本蕎麦屋さんの板前さんだから天ぷらも絶品」

店内ではブラジャーまつりが開催中だった。

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炭酸水の注ぎ方も手慣れたもの
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取材だというとサービス精神を発揮してくれる常連客

大将の斉藤重夫さんにおすすめのブラジャーを聞くと、「せっかくだからFカップを飲んでいってくださいよ」。

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白根家流のラインナップ

実は「ロッケくん」も導入した「カップ」システムは斉藤さんが考案したもの。カップ数が増えるほどブランデーが高級になる。

「ノリでAカップ、Bカップ、Cカップを始めたら、常連さんが『Dがいい』『Eはないのか』とうるさくて(笑)。面倒だからFカップを作ってこれで打ち止め」

Fカップ(1000円)は高級ブランデーの「レミーマルタン」を使用している。さらに、常連さんが今朝釣ったという新鮮なアジの刺身(700円)を注文した。

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本気の釣り人が集う店なのだ
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こちらをいただきます

「これは八景島沖。東京湾のアジは『金アジ』といってブランドになっているものもあるんです。相模湾は餌が少ないから身が細い。今ちょうど産卵前の時期で捌くと包丁に脂が乗るのがわかりますよ」

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Fカップの露払いは東京湾のアジ

ブランデーの量は多めで、炭酸水は客が自分で注ぐシステムだ。

「レミーマルタンはそれだけで美味しいから、ちびちび飲んでもいい。中のブランデーだけほしいときは『Fカップ、ノーブラで』と言ってちょうだい」

字面だけ追うとすごい世界である。

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「骨せんべい」はサービス

「命をいただくわけだから骨も捨てません」と斉藤さん。

ここでテーブルのお客さんから「牛のたたきが美味しいから食べてみて」とおすそ分け。

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美味しいものはシェアしようという精神

皆さん、フレンドリーで人情味のある街だ。あとで返盃としてアジの刺身を持って行った。

ブラジャーの中身として洋酒に合う「おっぱいチョコ」

3軒目は「魚藍亭」。

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「『よこすか海軍カレー』発祥の店なんだよ」
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澤田さんは抹茶サワーを注文

よく考えたら、彼は今日一度も「横須賀ブラジャー」を注文していないが、「もう一生分飲んだから」ということらしい。

店主の栗田秀樹さんが言う。

「うちは昔、どぶ板通りの裏ぐらいで活魚料理の店をやっていたんです。あれは21年ぐらい前かな、横須賀の産業振興のために名物を作ろうという話になった時に、お店にいらした自衛隊のお偉いさんが『明治41年に日本海軍が使っていたレシピを持ってきましょうか』と言ってくださって」

そこには、日本におけるカレーライス(当時の呼称は「カレイライス」)の起源が書いてあった。

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海軍割烹術参考書を基に当時の「カレイライス」を再現
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現物が壁に飾ってあった

「ところが、分量は書かれていないから叔母が『こんな感じだろう』と推測して作りました。牛肉で出汁を取って、玉ねぎ、人参、じゃがいもを煮込む。元々はイギリス海軍の『カレーシチュー』というスープ状の料理を日本海軍がアレンジしたものみたいです」

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「横須賀ブラジャー」(700円)と「元祖よこすか海軍カレー」(1000円)

魚藍亭の「横須賀ブラジャー」はこれ1種類のみ。栗田さんの叔父さんが好きだったというレミーマルタンのV.S.O.Pをウィルキンソンのジンジャーエールで割る。さらに、ブラジャーの中身として洋酒に合う「おっぱいチョコ」も添えられる。

海軍カレーは牛乳とサラダがセットだ。明治41年当時は、脚気を患っている軍人が多かったため、ビタミンなどの栄養をバランスよく摂るために考案された。すると、数年後には脚気患者が激減したらしい。

店限定、人肌の「ホットブラ」にホッとする

最後に訪れたのは母娘3代で営んできたバー、「サタン」。

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創業56年の老舗店である
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ママの緒方広子さんと娘の恵美さん

澤田さんが言う。

「この二人は『横須賀ブラジャー』公認キャラクターのモデル。デザイナーと一緒に実際に店を回って考えようってなったんだけど、マーケットの入り口に一番近いここに入って母と娘を見た瞬間、『あ、これでいいです』となった(笑)」

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母娘を融合して生まれたキャラクター

広子ママいわく、「ちょうど花火大会の日で、恵美は髪をアップにしていたんだよね」。

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「横須賀ブラジャー」で乾杯

右のレギュラー(700円)はブランデー1、ジンジャーエール1、炭酸1の割合。左のシルク(800円)はブラジャー1におなじみの生生姜入りの炭酸水を足す。この店では1杯目は10人中9人がブラジャーを注文するそうだ。

澤田さんが恵美さんに「携帯をマナーモードにしたのに音が鳴るのはどういうこと?」と聞く。ママが「マナーモードになってないのよ。私も同じことしたから」と返す。

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客の誕生日を記したカレンダーに歴史を感じる

ママは佐世保生まれ。小学校5年生の時に横須賀に移ってきた。

「『男を追っかけて来たの?』って言うお客さんもいるけど、小5が男を追って引っ越さないよね」

ここでカウンターのお客さんを見ると、何やら温かそうなものを飲んでいる。

「あ、この店にしかない『ホットブラ』です。飲みやすくて美味しいですよ。来たら必ず注文します」

締めの1杯としては最高だ。いただきましょう。

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炭酸水の代わりにお湯を足す恵美さん
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公認キャラのお二人が「はい、どうぞ」

レギュラーのホット(700円)は胃に優しく染み渡る。人肌ぐらいの熱さがちょうどいい。この素晴らしいブラジャーを考案したママに「本当に美味しいです」と言うと、「あら、ホッとした〜」とお約束の返し。

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「ブラジャードロップ」なる商品も

ママによれば、店には全国から「横須賀ブラジャー」の視察に訪れるそうだ。

「北千住や大宮、あと名古屋からもいらっしゃいましたね。『うちでも提供していいですか?』って聞かれるので、『横須賀ブラジャー』という名前を出してくれればいいですよ」と答えています」


「横須賀ブラジャー」は街そのものだった

「横須賀ブラジャー」というキャッチーなネーミングのご当地カクテル。しかし、今回現地を訪れてみて、その人気の陰には若松マーケットの人々の日々の営業努力があることがわかった。「横須賀ブラジャー」は単なるドリンクメニューではなく、街そのものなのだ。

現在、マーケット内の空き物件は階段が急すぎて上がれないなどの事情を抱えた2軒のみ。ブラジャーによる街おこしは大成功だといえる。

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また行きます

【取材協力】
若松マーケット事務局
https://wakamatsu-market.jp

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