特集 2018年8月10日

チキンカツカレーはフリーズドライにできる

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「フリーズドライ食品」は意識すると身の回りに結構ある。カップラーメンに入っているえびや肉、ネギなどの具材などがそうだし、スーパーではフリーズドライのスープも手に入れることができる。お湯をかければ食べられる手軽さで、きっと多くの人が日常的に口にしているんだと思う。

先日、そのフリーズドライについてすごい体験をしてしまった。
「チキンカツカレー」はフリーズドライにできるのだ。
生まれも育ちも横浜。大人げない大人を目指し、日夜くだらないことを考えています。ちぷたそ名義でも活動しています。(動画インタビュー

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アマノ フリーズドライステーション横浜店へ

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そんなフリーズドライ食品を専門に扱うアマノフーズのアンテナショップ、アマノ フリーズドライステーション横浜店へ来た。店内にはずらりとフリーズドライ商品が並んでいる。こちらでは、常時100種類以上、スーパーなどで見かける一般流通の商品以外にも、通販限定の商品も購入することができる。
商品の案内をしてくれるアサヒグループ食品株式会社 広報?CSRグループの土屋さん
商品の案内をしてくれるアサヒグループ食品株式会社 広報・CSRグループの土屋さん
スーパーなどでよく見かけるおみそ汁のパッケージをかたどった看板の隣にいるのは、今回案内してくれるのアサヒグループ食品株式会社 広報・CSRグループの土屋さんだ。

アマノフーズは2008年にアサヒグループ入りしており、現在はベビーフードの和光堂、「ミンティア」や「エビオス」のアサヒフードアンドヘルスケアの3社でアサヒグループ食品株式会社になっている。
横浜店ではお店で買ったフリーズドライ食品をその場で食べられる
横浜店ではお店で買ったフリーズドライ食品をその場で食べられる
アマノフーズのアンテナショップは横浜以外にも東京、そして福山(広島県)にも店舗があるのだが、今回訪れた横浜店はイートインスペースがあるのだ。お店で買ったおみそ汁やスープ、パスタなどをその場で楽しむことができる。
定番のおみそ汁も種類が豊富
定番のおみそ汁も種類が豊富
人気商品だけあって、みそ汁のラインアップもすごい。こだわりのナスのおみそ汁は、なすと焼なすで2種類ある!アマノフーズではなんと全部で12種類のなすを使ったおみそ汁があるらしい。(このお店には8種類置いてあった)
「焼なす」「なす」のおみそ汁
「焼なす」「なす」のおみそ汁
このなすのおみそ汁、両方体験したが、なすのおいしさには驚いた。
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このふたつ、だしの味も入っているなすの形状も違くて、「なす」の方は1口大の大きさのなすがごろごろ入っているのがうれしい。焼なすの方はちょっと香ばしさを感じるスープに、大きめのなすが食べ応えがある。アマノフーズではなすにめちゃくちゃこだわりを持っていて、このなす、人の手でひとつひとつカットして素揚げしているのだそうだ。

フリーズドライってどうやって作っているの?

こんな小さいパッケージにスープとか食べ物が入っている……と思うともはやフリーズドライは宇宙
こんな小さいパッケージにスープとか食べ物が入っている……と思うともはやフリーズドライは宇宙
そもそもこのフリーズドライってどうやって作っているのかよく知らなくないですか。土屋さんに聞いてみた。

土屋:フリーズドライ食品はどういう食品かという話ですが、食品をフリーズ、つまり凍らせて、ドライ・乾燥させています。

井口:本当に字のまんまなんですね!

土屋:食品の中に含まれている水分が、凍らせることにより固体になります。それを真空状態で乾燥(昇華)させます。すると水分があったところが空間になり、食品はスポンジ状になります。そこにお湯を入れることによって空間に水分が戻り、元のおいしい作りたての味が再現できるのです。
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井口:調理して出来上がった食品を、それぞれ小さく分けてフリーズドライをさせてることを考えるとかなり手間かかってますよね。

土屋: そうなんです。フリーズドライのみそ汁を作る際にも、約-30℃の凍結庫で8時間以上凍らせた後、フリーズドライ機(真空凍結乾燥機)に入れて約24時間かけて乾燥させます。商品の素材や大きさによって、それ以上かかる場合もあります。

井口:一個作るのにすごく時間がかかっている。今まで意識してなかったんですけどフリーズドライ、ものすごい技術ですね……。

フリーズドライ食品実食

横浜店の給湯スペース
横浜店の給湯スペース
そんなアマノフーズ自慢のフリーズドライ食品を、横浜店のイートインスペースで実際に食べさせてもらった。計量カップとかコップ類も用意されてるからラクラク調理できる。
にゅうめん(すまし柚子)と3種のチーズのクリームパスタは……
にゅうめん(すまし柚子)と3種のチーズのクリームパスタは……
お湯をかけたらこの通り!
お湯をかけたらこの通り!
にゅうめんは飲んだ後にもよさそうなあっさりした味わいで、量も小腹満たしにちょうどよさそう。パスタはインスタント食品とは思えない濃厚さ。でんぷん質の多い素材は戻りにくく、フリーズドライには向かないという特性を持っているため、実現するまでに色々苦労があったのだそう。例えば、100mlのごく少量のお湯をかけてショートパスタを戻るようにしたり、60秒でソースが絡んだパスタ料理を完成させたりとか…。開発から商品化までに実に2年もかかっているんだって。

フリーズドライ食品、普通にスーパーで手に入るけど、聞けば聞くほどすごい手間のかかっている食品なんだなあ。
しじみのおみそ汁
しじみのおみそ汁
しじみのおみそ汁はお湯を入れたら殻ごと出てきたぞ……。どうなってんだフリーズドライ、すごすぎる。
いろんなスープを試食した。これは「トムヤンクン」をいただいている時の写真
いろんなスープを試食した。これは「トムヤンクン」をいただいている時の写真
味もおいしくて、みんなこういう顔になる。ちなみに林さんはアマノフーズのおみそ汁を自宅にストックしているそうだ。
ナスの揚げ浸しのおろしソースかけ
ナスの揚げ浸しのおろしソースかけ
あとすごかったのがこれ。フリーズドライを使ったアレンジレシピだ。このなすの揚げ浸しのなすは実はフリーズドライ。通販専用商品で「まるごと素材」シリーズから発売されている「フリーズドライのなす」だ。試食しながら、全員で「店でこのメニューがお通しで出たら当たりの店」と連呼していた。ちなみに揚げ浸しにかかっているのは「フリーズドライの大根おろし」(8月20日より通信販売から発売予定)をめんつゆで溶いたもの。
そんなアマノフーズがこだわっているなすは単体でも売っている。うっかり取材後、私も橋田さんも林さんも買っていた。
そんなアマノフーズがこだわっているなすは「フリーズドライのなす」としても売っている。うっかり取材後、私も橋田さんも林さんも買っていた。
小さめどんぶり 中華丼
小さめどんぶり 中華丼
お湯をかけて30秒でできる中華丼の具(ごはんは別)は想像以上に大きいエビが出てきた。一体どこに隠れてたんだ。
技術に感動しながら夢中で食べてしまう
技術に感動しながら夢中で食べてしまう
フリーズドライすごい……。今までスープ類ばかりでそれ以外に手を出してこなかったことを悔やむレベルだ。どれも想像以上においしくて驚いた。

チキンカツカレーがすごい

フリーズドライの匠 チキンカツカレー(通販専用商品・数量限定)
フリーズドライの匠 チキンカツカレー(通販専用商品・数量限定)
そして表題のチキンカツカレー……チキンカツカレーをフリーズドライにしようって発想がまず面白い。
お湯をかける前
お湯をかける前
袋から出した状態。他よりは大きく、カツが入ってるだけあって重さもある。でもチキンカツカレーの重さを考えると軽い。本当にこれがチキンカツカレーに……?
お湯をかける前
お湯をかける前
個体の状態を並べるとそれぞれが何の食べ物だかわからない、味気ない感じだ。
おいしいチキンカレーセットに
おいしいチキンカレーセットに
お湯を入れて60秒かき混ぜるとチキンカツカレーになる。ごはんは別で用意して、あとでかけて食べる。すごい、コールスロー(こちらも通販専用商品・数量限定)もあるし、一緒に作ったのもカレーだったけど、これをスープに変えたら完全に「チキンカツカレーセット」だ。フリーズドライで一食まかなえてしまう。
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フリーズドライのチキンカツカレーがチキンカツカレーに戻るまでを動画で見ていただこう。最初は「本当にとろみが出るの?カツに戻るの?」と不安になったがあれよあれよという間にカレーになってしまった。
チキンカツ部分
チキンカツ部分
味は……うまい! とろみのあるカレーとサクッとしたチキンカツ。これがお湯をかけるだけで食べられちゃうのちょっとすごい。お湯をかけてもカツのサクッと感は感じられる。それでいてチキンの肉感もある。
おいしかった
おいしかった
その他いろいろ試させてもらい、フリーズドライを使ったアレンジレシピなども楽しませてもらった。ごちそうさまでした。次のページからはフリーズドライできる食品と出来ない食品など聞いていきます。
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おみそ汁のフリーズドライは奥さまの一声から

井口:実は以前、お店で「フリーズドライの一人鍋」(現在は販売していない)も見たことがあります。チキンカツカレーといい、改めてアマノフーズではいろんな食品をフリーズドライにされているところに驚いたのですが、そもそもフリーズドライをはじめたきっかけってなんでしょうか。

土屋:弊社のフリーズドライは、創業者である天野辰雄が機械を導入したのがはじまりですね。最初はカップラーメンの具材のエビをフリーズドライにしました。

井口:カップラーメンのエビから!
土屋:もともとBtoB向けにフリーズドライ商品の製造をさせていただいておりましたが、ある夏の暑い日に社長の奥様が「暑い時に台所でおみそ汁を作るのが大変だから、フリーズドライでできないかしら?」と発したひと言からフリーズドライのおみそ汁の開発がはじまりました。それでできあがったのですが、最初はお取引先お客様にプレゼントしていたんです。それでおいしいと評判になり、ついに1983年に商品化して通信販売をはじめました。ちなみに最初のおみそ汁は「あんじょう」という名前で具材はほうれん草でした。

井口:最初はなすではなかったんですね。あと、店内いろんなところにいるおじさんのキャラクターはアマノフーズのマスコットキャラクターでしょうか?
意識するといろんなところにいる「おじさん」
意識するといろんなところにいる「おじさん」
土屋:そちらは、弊社の名物社員の島村です。

井口:社員さんだった!!
ギフトボックスにもなっている。ちなみにおみそ汁が6つ入る
ギフトボックスにもなっている。ちなみにおみそ汁が6つ入る
ギフトボックス裏。島村さんが分裂してる
ギフトボックス裏。島村さんが分裂してる

土屋:島村はおみそ汁発売前から開発に携わっていて、フリーズドライ歴は今年(2018年)で37年です。島村の長年の研究もあり、お粥、にゅうめん、親子丼の素などが作れるようになりまた、後輩がその技術を継承し、ビーフシチューやカレーにまでバリエーションが増えました。パスタが技術的に難しいという話をしましたが、そのパスタが商品化できたのも島村をはじめとしたチームの功績なんです。鍋やチキンカツカレー、コールスローなどの常に進化したフリーズドライ食品のご提案をしている商品は、島村が携わった商品として、「フリーズドライの匠」のアイコンとともに島村のイラストが描かれています。
フリーズドライの匠シリーズのパッケージにも島村さんがいる
フリーズドライの匠シリーズのパッケージにも島村さんがいる
土屋:数量限定の「フリーズドライの匠」シリーズは、毎回好評で通信販売ですぐに売り切れてしまいます。こちらのアンテナショップでは、チキンカツカレーとコールスローは本日発売の商品だったので、まだ在庫があったので安心しました。コールスローに関しては、水で戻せる商品で初のサラダです。

井口:水で戻せる商品があるって驚きました。コールスローも具もベーコンとかブロッコリーとかいっぱいで、シャキシャキしておいしかったです。

土屋:他にも水で戻せるものもいくつかあって、「まるごと素材シリーズ」の山芋ですとか、既に完売してしまいましたが「絶品」シリーズで「冷や汁」とかもありました。

井口:島村さん幅広いですね~! 最後に、フリーズドライにしようとして出来なかったものにどんなものがあるか教えてください。
日夜フリーズドライの研究をしている島村さん。店内探すと本当にいろんなところにいる
日夜フリーズドライの研究をしている島村さん。店内探すと本当にいろんなところにいる
土屋:和菓子系だと「お餅」は難しいです。調理時に出るおもちの粘り(でんぷん質)がフリーズドライの復元を邪魔するんです。お湯を注いだときに水分をほとんど吸収しなくカチカチのまま。いまだに復元が難しいんですね。

井口:そういえば甘い系のフリーズドライってあんまりないですね。

土屋:そうですね。生クリームはフリーズドライまでは出来るんですけど、お湯をかけたら溶けちゃうんですよね。あとこんにゃくはフリーズドライに向きません。こちらはゴムのようになってしまって、噛みきれなくて全く戻らないんです。

井口:こんにゃくはフリーズドライには向かないんですね。

土屋:こんにゃくつながりだと、おでんセットにチャレンジしてるのですが、生卵はフリーズドライできるようになりましたが、ゆで卵は乾燥中にヒビが入って、中から黄身が出てしまったり、おでんセットになるまで、まだ実現していません。あと、“ご飯”も挑戦していました。こちらはまだ継続して開発中です。

井口:え、ご飯ですか? お粥や雑炊があるから、ご飯はもう出来るのかと思ってました。

土屋:はい、お米を使ったメニューは、既に商品化出来ていますが、炊きたてのホカホカご飯は、まだ難しいんです。それでも、いまも日夜研究中です。島村は根っからの研究者で、これまでに挑戦した種類は約1万ぐらいありますが、そのうち商品化されたのは、500種類です。
井口:挑戦した食品、5%くらいで成功しているんですね。それでもすごいと思いますけど研究者としてはきっともう少し発売したいんでしょうね。

土屋:確かにそうなんですが、島村からすると、失敗ではないんです。『失敗は成功のもと』の考えで、挑戦し続けることで、その食材の特性を学び、次の開発のヒントになります。そんな失敗の経験から、「フリーズドライの大根おろし」などの商品化に繋がったものも沢山あります。島村は、将来、お湯を注ぐだけで、「朝食、昼食、夕食」など、そんなセットができたらいいなと、夢を抱いているようです。家族や大切な人と、テーブルを囲み、「これ凄いね、面白い!美味しい!」など、会話が弾むような商品を提案したいと言ってます。

フリーズドライは奥が深い

お湯かけるだけだけどフリーズドライの調理たのしい
お湯かけるだけだけどフリーズドライの調理たのしい

取材にあたりフリーズドライ不可能そうな食材を何個か考えていったんだけど、おでんやショートケーキなどアマノフーズではこちらの想像以上にいろんなものに挑戦されていた。このまま技術力が上がっていけばいつかこんにゃくやホカホカのご飯なども可能になるのだろうか。それってすごく未来っぽいし、フリーズドライはもはやドラえもんの秘密道具のようだった。

取材協力 アマノ フリーズドライステーション横浜店


住所:〒221-0056 神奈川県横浜市神奈川区金港町1-10(横浜ベイクオーター内)
電話:045-620-9031
アマノフーズ/アサヒグループ食品株式会社
https://www.amanofd.jp/amano/shop/
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