田園都市線沿線がすごそう
これまで各地の「浮かれ電飾」を観察してきたが、以前から気になりつつちゃんと訪問してこなかった「浮かれ電飾伝説の地」がある。
田園都市線沿線の住宅街である。
おしゃれタウンとしての高い地位を保っている青葉台など、いかにもイルミネイトしそうな住宅地がたくさんある田園都市線。
その浮かれポテンシャルは
マンションポエムからもうかがえる。
田園都市線の駅「用賀」は、なんせ「貴人たちの庭」である。(住友不動産「シティハウス用賀砧公園」より)
こちらは同線・宮崎台の作品。「時間」と書いて「とき」と読ませる。基本である。(野村不動産「プラウド宮崎台フロント」より)
なにせ「地に相応しいかどうか」が測られるのである。(野村不動産「プラウド宮崎台フロント」より)
いかにもマンションポエムらしい良いポエムだ。ポエムのマスターピースだ。(野村不動産「プラウド宮崎台フロント」より)
そして現在もっとも勢いのある、沿線屈指のおしゃれ駅・二子玉川。真価である。(住友不動産「シティハウス二子玉川」より)
こちらも二子玉川の物件。まさかの国分寺崖線推し。地形好きにはたまらないが、いいのか、崖推しで。(三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス二子玉川ガーデン」より)
などなど、期待を裏切らないハイテンションの詩を聴かせてくれる。
中にはとにかく「田園都市」の響きを最大限にアピールする、下のようにすてきなポエムも。
産地表示という形で沿線であることをアピール。どこの駅かは問題ではない。田園都市線沿線だということが重要なのだ。(名鉄不動産「ザ ブルームテラス」より)
世界を知っちゃった。(野村不動産「プラウドシティ宮崎台」より)
「SPIRIT of DENTO」! (野村不動産「プラウドシティ宮崎台」より)
ハワードの思想が渋沢栄一を経て、東急によって開発された理想都市がポエムに結実。
ぼくにはわかる。この勢いある住宅地はさぞかしすばらしい浮かれ電飾を見せてくれるだろう。
そしてやっぱりすごかった
新宿での打ち合わせを終え、渋谷へ移動しいざ田園都市線へ。高まる鼓動。向かったのは「あざみ野」である。
それにしても、よく言われることだがここらへん、「あざみ野」「いずみ野」「さがみ野」「つくし野」「つきみ野」などわけがわからなすぎる。
坂の向こうにこの風景が見えたときは「おおっ!」って声が出ちゃった。
坂の下で数件のお宅が浮かれている。まるで電飾の池のようだ。
期待通り、いや、期待以上だ。これはすごい。
10年以上浮かれ電飾観察を続けてきて「一匹いたら十匹いると思え」という「浮かれ電飾第1法則」を提唱するにいたったわけだが、まさにそのとおりの物件だ。
すごい。
一軒一軒もすごいが、それが数軒に渡って連続しており、見応えのあることに。
せっかくのパノラマなので、大きくご覧頂きたく横向きにしました。スマホでご覧の方は画面を横に、パソコンでご覧の方は首を横にしてください。
さすが田園都市線沿線である。ハワードも渋沢栄一も、そして五島慶太もさぞお喜びのことだろう。
そろそろ「うかれ野」をつくってもいいのではないかと思う。
ぼくが写真撮っているのを見た、通りかかりの少年ふたりが「あれねえ、電気代20万円ぐらいかかってるんだって」って言ってた。ほんとか。
浮かれズレをしてしまったわれわれは、もはやこのぐらいでは満足できなくなってしまった。
10年前に観察を始めた頃は、玄関周りにささやかなイルミネーションをほどこすことで充分楽しんでいるお家もあれば、もうちょっとがんばって植え込みと出窓周りを飾るお宅もあった。そして軒先、屋根、庭の灯籠にいたるまでこれでもかと気合い充分に浮かれる本格派も。
つまり、いろいろな「浮かれレベル」が存在していたのだ。ウカレベルである。
今やせめてこのぐらいやらないと、ってな感じになってしまっている。浮かれのインフレーション。略してウカレーションである。
ところが、昨今は「やるんだったらとことん!」が台頭してきているように思う。少ない電飾部材をどのように効率的に配するか、というセンス勝負ではなく、物量作戦の時代である。
現在「浮かれ電飾をやってる」と認識されるにはこれぐらいの気合いが求められる。ウカレーション!
この「ウカレーション」傾向を後押ししているのは電飾部材の低価格化とバリエーションの増加であろう。
特にLEDが安くなって色も増えたことの影響は大きい。赤崎教授、天野教授、中村教授は、ノーベル賞だけでなくウカーレル賞も受賞するべきである。
さきほどからつまらないダジャレばかりで申し訳ない。
それまでの白熱電球に比べ圧倒的な省電力が実現され、スイッチャーもいろいろなものが出現し、またサンタやトナカイ、なぜかスカイツリーなどのモティーフ・アイテムが豊富になったことも物量化の道を開いた。
物量化傾向のひとつの現れは「サンタがやたらいる」である。本来彼は一家に一台であるべきではないのか。
この傾向に別角度から拍車がかかっているのも見逃せない。電飾をたしなむ方々が集うコミュニティサイトの存在である。
そこでは「浮かれ自慢」が行われている。その世界で有名人になった方もいらっしゃる。
当然、光り輝くマイホーム写真がUPされるわけである。
この写真というものがまたエスカレートさせやすいメディアなのだ。「写真映え」は「物量化」と同義である。「工場萌え」がいつのまにか「工場夜景」になってしまったのと同じである。なげかわしい。
また、東日本においては2011年の震災による「浮かれ自粛」がきっかけとなり、翌年以降もやめてしまったケースが散見されるのだが、その結果として、それをくぐり抜けるだけのパワーを持ったお宅だけが生き残ることとなった。震災が「
浮かれ試金石」になってしまったのである。
かくして浮かれ電飾は量の時代になった。
しかし思うのだ。その果てにあるのは歌舞伎町の「
ロボットレストラン」ではないのか、と。
ロボットレストラン。浮かれ電飾の極北。
「われわれはカラスからたいして進化していない」と思った。
ロボットレストランを支えているのは安価になった映像パネルとLEDである。どこもかしこもビカビカ。
センスなどいらない。物量だ。電飾の絨毯爆撃。
いわばデザインの敗北である。かくいうぼくも、オープン直後に行ってみて「うわー」ってなっちゃった。
われわれは光り輝くものに「うわー」ってなっちゃのだ。たいしてカラスとかわらない。
そんなことでいいのか!
いや、いいけどべつに。
こういうささやかなものを愛でたいと強く思う今年のクリスマス。
いいけど、やっぱりなんというか、少ない部材でいい感じにやったな! っていうのを愛でたいじゃないですか。
ドアにリース、足元にただ一点カボチャの馬車。おそらく12時に消灯するのだろう。昨今種類も増え、お求めやすくなったモティーフ電飾を効果的に使った作品。今後こういう「ミニマル浮かれ」も増えるのではないか。物量作戦とミニマルの二極化時代である。期待したい。
金にもの言わせた豪華な茶会に辟易して「侘び・寂び」をはじめた安土・桃山時代の人の心持ちがよくわかる。
「浮かれ侘び寂び」は樹木にあり
千利休と田園都市線沿線をめぐりたいものだ。秀吉がいまいたらあいつぜったい浮かれ電飾やってるよな。
とか思いつつ今回見出したのは、樹木にどのように電飾を施すか、にセンスが現れるのではないか、ということだった。
木にLED巻き付けるのって、むずかしい。
左の電飾はなかなかだが、右のはどうした。力尽きたか。そしてサンタよ、そこ登ってどうする。
ツリーといえばクリスマスの主役だが、残念なことに日本の庭木のほとんどはこの季節葉を落とす。
そこに電飾をまきつけると、なんだか貧相になる。これをどうするかが腕の見せ所だ。
商業施設などだと、こうなる。やはり物量作戦だ。これを家庭でやるのは難しい。
商業施設などだと、びっしり枝を電球で埋め尽くすことで対応している。ようするにやはり物量作戦だ。表参道のイルミネーションもこのタイプだ。
上の写真などを見ると、これってほんとに良いものなのか、とも思うが、ともあれ同じことを家庭でやるのはむずかしい。部材の量もさることながら手間がかかりすぎる。
しょうがないので、やんわりと枝の上の方から電飾を垂らす、にとどまるケースが多い。そうすると、なんだかクラゲのようになってしまう。
こういう感じになってる電飾ちらほら見かける。
樹木だけでなく、ライン部材を使うのってむずかしい。このお宅の「うちは線材で行く!」とばかりの果敢な姿勢には心打たれた。
というように、力量が問われる樹木への電飾。
しかしさすが田園都市線。いい感じのツリーがいくつかあった。
家屋には電飾は施さず、この植栽に集中。いい感じだ。
オリーブに電飾という今どきスタイル。じょうず。電柱の街灯に照らされてさらにいい感じに。
このお家はすばらしい。おそらくその筋では有名なお宅なのではないだろうか。モティーフだけにたよることなく、各種ライン素材の使い方が巧みだ。植栽への這わせ方も手練れである。しかし、なぜスカイツリー。東急沿線にありながら東武線へのラブコールか。
田園都市線ならではの高低差プレイも
浮かれ電飾やったこともないのに、すっかり論家気取りだ。恐縮です。いや、ぼくだって浮かれる家がほしいですよまったく。
で、田園都市線ならではの話題にもどろう。
千葉っ子のぼくにとって驚きだったのは、このエリアの地形である。ちょう坂道多い。
真っ平らな千葉北西部に慣れた身からすると、そのバリアフルな地形に驚く。
住宅もおのずと傾斜地を造成した場所に建っており、それを活かした浮かれ電飾が興味深かった。
道路に面したレベルはガレージ、玄関はその上。そのアプローチなどに立体感のある浮かれ電飾。
モティーフものに頼りすぎな感があるものの、地形を活かした立体配置が光る。そしてベランダによじ登る不法侵入系サンタ。ルドルフたちはどうした。
高低差のあるアプローチを存分に活かした浮かれっぷりに、なぜハーフティンバー様式風? という疑問も吹き飛ぶ。
オシャレ住宅地であるというだけでなく、そもそもこの起伏が、田園都市線沿線の浮かれ電飾のクオリティを押し上げているのではないかと思った次第だ。
でもまあ結局。
さて、最後に今回見た中で最も気合いが入った物件をご覧頂こう。冒頭の写真のお宅だ。
まあ、結局「おおー!」ってなっちゃうのは物量ものです。すみません。
坂の上に見えたとき、興奮した。
なんか音楽も聞こえる! と思って近づいたら、車の横にクリスマスソングを奏でるベル隊の方々が。
第一法則の通り、少し先にもすごいのがあった。画面右端に見えるのが前出のお宅。
巨大な人形の配置は日本ではめずらしい。すごい。
これだけのもの、やはり有名物件らしく見物の車がつぎつぎとやってきた。
田園都市線の底力を見た。
というか、評論家気取っておきながら最後は結局物量ものかよ、と言われれば返す言葉もない。ぼくはカラスだ。
そろそろ自分でもやってみなければいけない気がする
なんだかんだいって、そりゃあ一軒家買ったら浮かれたくもなるよなあ、と思う。
「すごいなあ」50%と「やっかみ」50%が、10年間の観測を続けさせてきた原動力だが、そろそろ自分でもやってみた方がいい気がする。どうする。家買うか。
まるで布団を干すかのように、べろんとただ垂らしただけのもの。こういうの、きらいじゃない。