製鉄の町・吉田町の工房へ
島根県雲南市吉田町は、製鉄業が盛んだった山間の静かな町だ。アニメ「秘密結社鷹の爪」の吉田君の出身地、と説明されてピンとくる人もいるかも(いや、そんなにいないかも)しれない。
落ち着いた静かな町
吉田君はこの町出身
鉄関係の資料館などがある、町の中心地(左上の写真の辺り)から車で5分程度。民家もない山道の途中にある工房へ案内された。
体験ができる工房
でかい版画とか
社会科の授業の発表っぽいなにか
地元の子供がここに来て学習した形跡があちらこちらにある中、刃物が売られている。
包丁なんか、「ホームセンターに売ってるのよりもずいぶん高い」と言われてしまうらしい。まったく別物だろうに、ライバルは意外とそこなのだそうだ。
ずらりと刃物
そして刃物
隅っこの方にナイフ誌が置いてあった。見たことないジャンルの専門誌って気になる。隔月誌なのか
鍛冶を体験してみる
奥の作業場に通してもらって、これから鍛冶体験に入る。
たのしみ!
見渡すと神棚が。この辺りの鍛冶場には大抵、金屋子神が祀られている。
関連性はまるでないが、逆側には脳科学者の人の写真が飾られていた。
左を向けば鉄の神様
右を向けば脳科学者のあの人
ここでは、「小刀」「ペーパーナイフ」「包丁」を作る体験が出来るのだが、今回は短時間でできる、一番お手軽コースのペーパーナイフを作る。
この長さ五寸釘(約15センチ)がペーパーナイフに!
手順はこうだ。まず釘の頭部を熱して、金づちで打ち付けると、イチョウの葉っぽい形状に。これがペーパーナイフの持ち手部分になる。
次に釘の先を熱して叩いて、平たくしていく。そして、この部分を削って磨いていくとナイフになる。
釘を入れる「火床」
釘を入れると、思ってたより火の粉が舞ったので、腰が引け気味になった。
幼少期に花火で火傷してから火がじゃっかん苦手なんだったのをこういうときに突如思い出す……
今こうして写真で確認してみるとそれほど散ってもないじゃないか……。へっぴり腰になりすぎて足までつったというのに。
ハチマキ、軍手、保護メガネにハッピという、これそんなにフル装備でもないよな……という程度の装備をし、いよいよ釘を火の中へ。
緊張の一瞬…… (どうでもいいが、うっすら浮かび上がってる顔がちょっとだけ談志っぽい)
釘、まだ入ってないのに腰を痛めるんじゃないかというほどの引け腰
金づちで釘をつぶすのも難しい!
炎の強弱を変えるのもスイッチひとつで!
左手で火ばさみを握りしめ、右手で打ち付ける。不慣れで手元が安定しないが、繰り返すうちになんとか平らになってくれた。
形が決まったら水の中に入れて冷やす。このジュワッと音を立てる一瞬が面白くて気持ちいい。
ジュワッッッッ!!!
ナイフっぽい形状になった
この状態ではまだ紙を切ることはできない。グラインダーという機械で研いで、切れるナイフにしていく。
右と左、どっちに刃をつけたいか聞かれ、片方だけを削っていく。
削っては……
冷やす
この作業を繰り返しているうちに、紙がサクッと切れるナイフになっていた。最後に刃物用の椿油を吹きかける等の後処理をしてもらって完成! ここまでの所要時間、たったの20分弱。あっという間だ。
普通の椿油とどう違うのか聞いてみたら、「同じ」と言われた
ペーパーナイフ、完成!
ねじりたくなってくるらしい
作り終わったあと、ひとつのペーパーナイフを見せられた。曲がってる。そして、案内チラシに載ってるねじりペーパーナイフも指して、「だんだんこうしたくなってくるんですよ」と言われた。
だんだんこうしたく……??
つまりはこういうことだ。複数名で訪れた団体さんの場合、
1人目は様子がよく分からず、なんとなく作って終了
2人目ぐらいから遊び始め……
順番があとになればなる程ねじりが強くなる
確かに鉄が柔らかい状態で上手くねじれたら、気持ちよさそう。やり始めたら止まらなくなりそう、というのは想像できる。
ちなみにこういうのは、男の人より女の人のほうが熱中していくことが多いらしい。意外とそうなのか。
こんなのもあった。わらびっぽい。(ぐるぐるの方向が違う上にプロが作った売り物だけど)
エピソードを聞く
お客さんをタイプ別に分けると、
「日常的に使う刃物を作りに来る人」
「ただ作りたいだけの人」
この2パターンに分かれる。
だが、ごくまれにどちらとも言えない人が舞い込んできたりもするらしい。例えば「くないを作りたい」って言ってくる人とか……。
そもそも出来るのだろうか、「くない」って
このような大きめの刃物の場合は、「ペーパーナイフづくり」ではなく、「小刀づくり」の体験となる。
砂鉄と木炭を用いて作られた「和鋼」という鋼材から小刀を製作する。
小刀づくり体験の場合、この工程の(6)の状態のものを渡され、それ以降を体験することになる
元々はこの「けら」という、たたら製鉄の製法でできた金属のかたまり(上の工程では(1)がこの状態)
この(6)の状態からのくない作りということになるが、結論から言うとできなかったようだ。
刃の両側を磨くと銃刀法違反になってしまうので、そこからまずアウト。
そういや私もさっきペーパーナイフを作るときにどちらに刃を付けるかを決めて、片側だけ削ったんだった。
結局、こんな仕上がりになったらしい。
くないになりたかった(片刃)
あーー、惜しい! と言いたいとこだが、そんなに惜しくもないな、これは……。
物によって形状も様々だが、持ちやすいように工夫したり、持ち手に紐を自分でまくためにくびれをつけたり、柄を付けるために穴をあけたり……
そう聞くと、小刀に関しては普段使いのために作りに来てる人が多いような印象だ。
他には猟師による鹿の角持ち込みとか……
勝手なイメージ図
忍者に猟師、意外とこういうところでも変わった客が来るもんなのか。何かもっと珍エピソードを引っ張り出せないもんかな……と、質問を投げかけてみたが、この話題はすぐに終了した。
居なかった
今後はちゃんとした刃物を
こういう場で丁寧に作られた刃物を見ると、やっぱり100均のじゃなくてちゃんとしたのを使わなきゃなー、という気にもなる。
次やるとしたら包丁かなー。
……と思いつつ、私は柄(「がら」じゃなく「え」。持ち手)を自由に変えて作ることができるというのに興味が沸いている。そのうちなんか変わった柄の包丁、作りに行ってもいいですか。
自分ひとりでの作業多め
今までやった体験施設でのものづくりって、手取り足取り、操られるがままに作ったものが多かった気がする。たまたまかもしれないが。
なので、そういうところで作ったグラスで何かを飲むと、
「あー、ものすごい操られてたなぁ……」という記憶も共によみがえったりする。(グラスだったからか)
今回はものすごく自力の作業で、楽しい思い出になった。