特集 2012年4月9日

0.2秒でラーメンがすすれる箸

キャプション!
「麺をすする」という動作には独特の気恥ずかしさがある。音を立てるのは行儀が悪いとか、いやそれは外国のルールであって蕎麦やラーメンは音を立てたほうがうまいとか、議論の余地もあるだろう。良家で育ったお嬢様が麺をすする動作がうまくできず、ラーメンを食べられなかったというエピソードも聞いたことがある(いや、これはマンガかなにかのフィクションの話だったかもしれない)。

マナーの是非はともかくとして、音を立てずにスルスルと食べることができたらそれはそれで優雅なのではないだろうか。しかも、自分の力を使わずにスイッチひとつで麺が流れ込んでくるとしたら…!
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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「なんで2012年にもなって人間が自分で麺をすすらねばならないのか」

毎回こんなことを言いだしては妙な機械を作っている。本当は「なんで」とか全然思っていない。おもしろいから作っているだけである。ただ、記事の導入部にはこういう問題提起が必要なのだ。

…と最初に白状したので、もう読者の皆様に引け目を感じることなく堂々と変な機械を作れるぞ。僕の考えた自動麺すすりのしくみはこうだ。
完成イメージ。箸の先が回る
完成イメージ。箸の先が回る
使用イメージ。回転部分が麺を持ち上げる
使用イメージ。回転部分が麺を持ち上げる
箸の先の方が回転するようになっている。麺を箸先で挟んでスイッチを入れると、回転部分がローラーの役目をして、麺を押し出すというしくみだ。
ちょうどピッチングマシンが剛速球を飛ばすのと同じ原理である。あるいはプリンタの紙送り。

これを口元に持っていけば、押し出された麺は自動的に口の中に入っていく。ズルズルと音を立てる必要もなく、そこには行儀がいいも悪いもない。静寂の中、響くのはただモーターの「ウィーン」という音のみだ。

全国のお嬢様必携、である。

春ですね

箸を照らす日差しが春のそれ
箸を照らす日差しが春のそれ
うららかな陽気の日であった。ついこの間までの寒さが嘘のようだ。公園では何人かの子供が楽しげに駆け回っていたが、ノコギリを提げた男の到来により、すぐにどこかへ消えた。

春。不審者の季節である。
柄の部分と、回転させる先端部分を分けるのだ
柄の部分と、回転させる先端部分を分けるのだ
いつもなら家でやる工作作業であるが、天気がいいので外にやってきたのだ。実は僕はここ1ヵ月ほどほとんど外に出ておらず(育児休暇を取って子供の世話をしていた)、久しぶりに出てみると景色がすっかり変わっていて驚いた。
桜は今週末が見ごろだそうだ
桜は今週末が見ごろだそうだ
目印に沿ってノコギリを入れていく
目印に沿ってノコギリを入れていく
桜の下で木を切ることに、一抹の罪悪感を感じたのはなぜだろうか。桜の枝を折ったワシントンの逸話を思い出す。いやいや、今切ってるのはさっきホームセンターで5膳198円で買ってきた箸だ。桜の枝じゃない。謝ることなど何もないのだが、こうも見事な桜を前にすると、木を切ること自体に罪の意識が芽生えてくる。
!
箸はあっけなく切れた。

外に出ればそれだけでなにかおもしろい事件でも起こるかと思っていたのだが、特に何もないまま作業が終了した。
最近外出してなかったせいで、外を過大評価していたのだ。外はただの外であった。上のGIFアニメは「それでもせっかくだから何か載せねば」というせこい気持ちだけで載せた。

次の作業は要コンセントである。ノコギリ男は去り、子供達に遊び場を返してあげることにしよう。

動かすより固定が大変

おなじみの箸に金属部品が入り、急に立ち上がる非日常感
おなじみの箸に金属部品が入り、急に立ち上がる非日常感
工作をやり始めてわかったのだが、素人工作は、動かすことより固定することの方が難しい。

動かす、つまりモーターを回すのは簡単なのだ。電池をつなぐだけだから。それよりも箸の柄にモーター本体を固定したり、モーターのシャフトに箸の先をつけたりするのが難しい。全部アラビックヤマトのりで止められるのは小学校低学年の工作までだ。
モーターに輪ゴムを巻く
モーターに輪ゴムを巻く
針金で金具にくくりつけた
針金で金具にくくりつけた
仕方がないので、こうやってひとつひとつ、工夫を凝らして固定していくことになる。輪ゴムを巻いたのは滑り止めのためだ。

ほんとうはもっと耐久性のあるやり方があるのだろうけど、僕の工作はいつも「永遠の試作品」「15分間動けばOK」と思って作っているので、たまってくるのはこういう雑なノウハウばかりである。
箸に戻ってドリルで穴あけののち
箸に戻ってドリルで穴あけののち
ドライバーに差し替えて木ねじで止める
ドライバーに差し替えて木ねじで止める
固定完了
固定完了
モーターは、ミニ四駆とかにも使う、いわゆる「ふつうの」モーターだ。

調べてみると、このモーターの回転数は、だいたい秒速200回転くらいだそうだ。箸の断面が直径5ミリ程度と仮定すると、麺をすするスピードは秒速1.5mに達する。

秒速1.5m…。ラーメンの麺が1本30cmと仮定すると、0.2秒ですすり終えてしまう。そんなに高速で麺が入ってきても、人間の身体は耐えられるのだろうか。勢いよく突入してきた麺がのどに詰まるか、あまりの高速にのどに突き刺さるか。

危険な実験になるかもしれない…。
しかし今さら後へは引けない。ひきつづき箸の先もドリる
しかし今さら後へは引けない。ひきつづき箸の先もドリる
この箸先、モーターのシャフトにどうやって固定すればいいのか皆目見当がつかず、「箸 モーター 固定」で検索したらなぜか綿あめ器を自作するページが出てきて熟読してしまった。乾電池で動く。すごくおもしろそうなのでおすすめです。

で、結局、
たまたま、ドリルの穴がシャフトにジャストフィット。
たまたま、ドリルの穴がシャフトにジャストフィット。
偶然にも、強く引っ張れば抜き差しできる程度の、絶妙なグリップ感がでた。

完全に運だけで乗り切ったかたちだが、意外にソツなく綺麗にできてしまった。あとは電池ボックスとスイッチ関係をつなげば完成。
サイボーグ箸、完成
サイボーグ箸、完成
人差し指で回転のON/OFFが可能
人差し指で回転のON/OFFが可能
電池ボックスは手の甲に
電池ボックスは手の甲に
…さあ、人体実験の始まりです。

ラーメンおどり食い

カップラーメンにお湯を注ぎ、3分待つ間にカメラのセッティング。
カメラ角度の調節のため撮ったテスト写真だが、この不安げな顔!
カメラ角度の調節のため撮ったテスト写真だが、この不安げな顔!
秒速1.5m、ラーメン1本0.2秒…。

僕の不安をよそにキッチンタイマーは冷淡に時を刻みつづけ、すぐに3分はやってきた。
意を決して、箸を握る。
おそるおそる…
一口しか食べてないのにこのありさま
一口しか食べてないのにこのありさま
メガネに跳ねまくっていた
メガネにスープが跳ねまくっていた
め、麺がビッチビッチ跳ねる!口に入ってくるどころか、すべての麺が四方八方に飛び散ってゆく。
ラーメン1本0.2秒…とか不安がっていたのは工作がうまくいった前提であって、今考えてみたらまったくの皮算用であった。

いったい何が起こったのか、単独で動かしてみよう。
な、なるほどー
とれたて新鮮な海の幸のごときピチピチ感。麺を自動ですする機械というより、麺のおどり食いを疑似体験できる機械となってしまった。この箸で食べればなんでもおどり食いになると思う。

あ、そういう記事にすればよかった…。

15万円払えばいいとのこと

原因としては、箸先の取り付け穴が曲がっていたせいで重心がおかしくなり、遠心力で箸先が大暴れ、あんなピッチピチの状態になってしまったのだ。

実は、上の動画で使った箸先、これでも10回くらい作り直したものである。加工技術がないので、とにかく数打って、偶然いちばんよくできたものを使った。それでもこのありさまだ。

これより高精度に作る方法をネットで調べたところ、「卓上旋盤(15万くらいする)を買え」と書いてあった。そういうわけで、迷わず「俺は2012年もラーメンを自力ですすって生きる!」と決心した次第です。
普通の箸で食べるカップラーメン、食べやすくて最高!!
普通の箸で食べるカップラーメン、食べやすくて最高!!
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