自分でもうましおを作ってみよう
おまけに、うまみ調味料や顆粒出汁ポテトチップスにかけて食べてみた。
案の定、適当にかけたり混ぜるだけでは全然おいしくならなかった。コンソメはコンソメ、中華だしは中華だし、かつおはかつおと、それぞれの味が立ちすぎてしまう。
お店に並ぶ「うましお味」はどれだけの試作を経たのだろう。ひとりずつマイすり鉢を持ってあれこれ調味料を調合する「俺だけのオリジナルうましお」選手権も楽しそうだ。
常々思っていたのだ。
うすしおは薄い塩。のりしおは青海苔と塩。
では、うましおとは何か。うまい塩なのか、うまいと塩なのか。
「うまい」という、味にとっての最上級の褒め言葉を自ら冠するこの豪胆さよ。
ああ気になる!「うましお」味のスナック菓子を集めて味わったら、「うま」のことがわかるだろうか。
しかし筆者は味に弱い。
先日ラーメン屋で、「このチャーシュー鴨肉?!うまい!」と言ったら普通の豚肉だったほどだ。ヘンに通ぶったみたいでかなり恥ずかしかった。
なので素材の味に惑わされないよう、じゃがいものスナック菓子を10種類集めてきた。
それから、味に強そうな友人たちにも協力してもらった。
仕事帰りとかに食べたくなりませんか?しょっぱいスナック。
ヘロヘロの脳にしょっぱい味が「おつかれー!わはは!元気出せ!」とガツンとタックルしてくれるのが大変ありがたい。
そうそう、しお味って強弱でいうと圧倒的に弱だ。
今やスナック界隈では濃い味・珍しい味が陳列棚の一等地を陣取っていて、それらは「この商品を食べたい!」と積極的な気持ちで選ばれるように思う。
一方しお味といえば、余計な味はいらないなとか、あーしょっぱいもの食べたいな、ぐらいの薄ぼんやりした立ち位置ではないか。
だからしお味を10種類も集めたところで違いがわかるだろうかと、内心不安だったのだが。
いざ食べてみたらぜんっぜん味が違うので、それはもう驚いた。
詳細の報告に移る前に、実際に食べ、原材料を眺めてわかったことを先にお伝えしておこう。
わかったこと
◆うましお味の「うま」とは大まかに以下の2つに分類される。
①味つけが「うましお」
・甘味・塩味・酸味・苦味と並ぶ基本味覚としての「うま味」に重点が置かれている
・昆布・ビーフ・酵母エキスパウダー・たんぱく加水分解物といったうま味成分を多く含む材料や、アミノ酸や核酸といったうま味成分そのものが調味料として用いられている
②スナック菓子が総体として「うま」い塩味
・素材を料理したときのうまさを再現
(例)フライドポテト、マッシュポテトなどの料理のイメージ
・いっぱい食べるとうまい
・次々食べたくなる
・素材そのもののうまさが主役
◆うすしお味も塩だけでなく、なにかしらの調味料が入っていることが多く、うすしおとうましおの境界は曖昧である。
わかったことをもとにうましおマトリクスを作成してみた。
右側の「味の主張が強い」エリアは「うましお」の独壇場だ。一方逆サイドの「じゃがいもそのまま」エリアでは「うすしお」「うましお」どちらも混在する結果となった。
それでは、ここからは食べ比べた所感をどんどん報告します!
①(うすしお)塩だけで味付けした堅めに揚げたポテトチップス
・マクドナルドのポテトを思い出す
・油の味を感じる
・急にしょっぱい
・後味もすごい塩
塩と油の味しかせず、基準とするにふさわしいポテトチップス。
パッケージをよく見てみると製造所固有記号に「カルビー株式会社」と書かれている。おう、もしかしてあんた堅揚げポテトの生き別れの兄弟か…!!
②(うすしお)カルビー 堅揚げポテトうすしお味
・塩味が柔らかいですね
・さっきのは直接塩なめてる感じだったけどこれはなんだろう…
・ぜんぶ…ねえ…うまく混ざってるのな…トゲトゲしてないな…
・口に入れた瞬間は味がしない
・噛んでしばらく芋と油の味で、途中からじゅわーっと。じゅわーっと塩味がきて緩やかに終わる。
・うすしおって書いてあるけれどうましお味のイメージに近いね
①の「塩だけで…」とは明らかに違う味だ。さっきよりおいしい、さっきよりたくさん食べられそう、だけど何味がするのかと聞かれると困る…と悩む人々。これがうま味のちからなのか。
③(うましお)カルビー 堅揚げポテト旨味塩味
・あーーーやらしい!!こんぶだ!!!
・なんかマヨネーズみたいな味する。酸味かな。
・こんぶの匂いがすごい
・こんぶそのものの味がする
・(原材料を見て)こんぶエキスだけだとうま味だけなんだ、こんぶパウダーはすごい、こんぶだ
・思いの外しょっぱい
特筆すべくは、こんぶ出汁を粉末にしたこんぶエキスパウダーだけでなく、こんぶをそのまま粉砕したこんぶパウダーが入っていることである。
実は「堅揚げポテトうすしお味」にもこんぶエキスパウダーが入っていたのだが、そのときはこんぶの存在に気づいた人はいなかった。
一方こんぶパウダーはこんぶ茶をそのまま舐めているようで、
あまりのうま味の強さに「うましお味のなかのうましお味といえば?って聞かれたらこれを選ぶ!」と、食べ比べが終わった後も全員が口を揃えた。
④(うすしお)湖池屋 プライドポテト 感激うす塩味
・おいしい。カルビーのうすしお味より芋の味がする。
・塩味は弱い
・ポテトサラダ食べてるみたい
・ちょっと酸っぱい匂い。こんぶ?(原材料を見て)やっぱこんぶか。
・おいしいけど、これだけで食べてるからおいしいのかも。コーラには負けるかも。
・合わせるべきはお茶だ
じゃがいものおいしさと、ほんのり加わったうま味に一枚一枚大事に食べたい!と好評だった。
一つ前の強烈なこんぶ体験のおかげか、原材料も見ずにしれっとこんぶの味がわかるようになっており、リアルタイムで人間がバージョンアップされているのを見た。
ここまで順調に食べ進め、「うまとは出汁のうま味のことか?」という見方が強まってきた。
が、この確立しつつあったうましおへの理解を一気に打ち崩す者が現れた。東ハトだ。
オールレーズンやキャラメルコーンなど、どちらかと甘いお菓子界の重鎮というイメージがある東ハトだが、実は多くのうましお味のスナックを作っている。
しかもそのどれもがキャラが濃く、驚きに満ち溢れているのだ。順に見ていこう。
⑤(うましお)東ハト あみじゃが うましお味
・えっあまい
・バター?
・これ塩味か????
・コンソメ?和食というより洋食
「うましお」をスタート地点にかけっこをしようとしたら、ヨーイ、ドン!であみじゃがが逆方向に走っていってしまった。その背中を呆然と見送るわたしたち。あみじゃが、君はどこへ向かおうとしているのだ。
天才か!!!と歓声が上がった。
鉄板の上でジュウジュウ音を立てているハンバーグの、肉汁とか油とかをギュンギュン吸ってるフライドポテトだ。あれは確かにうまいな。
これで「うましお」が「素材を料理したときのうまさの再現+塩」である可能性が出てきた。
・味うっすい
・芋の味、素材の味が好きな人にはいい
・ちまちま食べるんじゃなくて、いっぱい頬張るとうまい!
・なんにも考えずにバクバク食べたいやつだ
・ちょっと駄菓子っぽい
また新たな「うま」の解釈が現れた。
「いっぱい頬張るとうまい!」そんなの小学生の夢みたいだ。
開発の際にはそのお菓子を食べる世代やシチュエーションを必ず考えるそうだが、これはどストライクだろう。
⑦(うましお)東ハト ぼうじゃが うましお味
・コンポタみたいな甘い匂いがする
・あまい
・うまい棒コーンポタージュ味の味
・コンソメっぽいけどあみじゃがとも違う
あみじゃがの肉々しさともまた異なる西洋風の味わいに、これもうましおなのか?と疑問の声があがる。
コーングリッツだ!あとオニオン!
コーングリッツはうまい棒の原料でもあるとうもろこしの粉末だ。
ぼんやり甘いなと感じていた口の中も、たまねぎだとわかった瞬間、もう玉ねぎ味の口になってしまい、アハ体験のような後戻りのできなさがある。
しかしこれではじゃがいもというよりやはりコーンポタージュで、うましおではないとする意見が多かった。
初めて聞いたミルポアパウダーは、香味野菜とバターのパウダーのことだそうだ。これだけなめてもおいしそう。
⑧(うましお)日本ケロッグ プリングルス うましお味
・これはプリングルスそのものの味だな、サワークリームオニオンを食べても同じ味がある
・舌にのせたときにピリピリ塩の刺激を感じる
・出汁っぽさはないけどうまみはある
印象としては「堅揚げポテトうすしお味」に近いだろうか。味つけよりも、チップスそのものの味がおいしくて好き!という声が多かった。
⑨(うましお)セブン&アイ 皮付きポテトフライうましお味
・あっまい
・こんぶ?
・胡椒が効いてる
・にんにく?玉ねぎかな
・肉じゃがのまだあんまり味しみてないところの味
・味は美味しいけど体積に対して薄い
・味のうま味と芋のうま味、どっちが大事なの!
・食感がコパン
あみじゃがやぼうじゃがほど振り切れてもなく、じゃがいもの味も残した煮えきらなさに厳しい声が上がった。
⑩(うま)湖池屋 プライドポテト 芋まるごと 食塩不使用
・おいし…
・芋の甘み…
・君この味がわかるのかね…
・しみじみうまい
・足さないからこそおいしい…引き算の美だ
塩や出汁のうま味でもなく、何か料理が思い浮かぶわけでもなく、
ただただ芋そのもののうまさを増幅させるという、もうひとつ新たな「うま」の方向性が現れたのだった。
それにしても、ひとつの味を巡ってこんなに味の解釈が多様なものが他にあるだろうか。
いくつかのメーカーにどうしてうましお味と名付けたのか教えてもらった。
日本ケロッグ(プリングルス)
Q.うましお味はどうしてしお味とはしなかったのですか。
A.以前は「うすしお味」という名前でした。繊細な味覚を持つ日本人の舌に合うようシーズニングを変更し、「うま味」をより感じられる「うましお味」として2016年に日本限定で発売しました。
Q.うましお味として目指したしたものはありますか。
A.「うま味」は複雑な味覚です。味付けだけでなく、ベースとなるチップス自体の配合やポテト比率など、多方面から調整を重ねました。
単なる「しお味」ではたくさん食べると塩辛く感じますが、「うましお味」は食べる程に美味しく、後引く味わいとなるよう仕上げています。
「チップスそのものがうまい!」という感想はまさにしてやったりだったのだ。わかりやすい出汁のうま味や味つけでなく、こっそりと、でも確実に食べる人を虜にするところが策士っぽい。
セブン&アイ(皮付きポテトフライ)
Q.どうしてうましお味というのですか。
A.使用しているじゃが芋の美味しさを最大に引き出す為、うま味調味料やエキスなどを配合したシーズニングを使用しました。
味のうま味とじゃがいものうま味どっちが大事なの問題は、じゃがいものうま味が大事ゆえ、ということで決着が着いた。
東ハト(あみじゃが・ポテコ・ぼうじゃが)
Q.うま味としてイメージしたもの、再現しようとしたものはありますか。
A.それぞれの素材に合う旨みを選定したしお味にしております。
・ポテコ:じゃがいものおいしさをシンプルに味わえる蒸かしたマッシュポテト
・あみじゃが:ビーフの旨味で後引くおいしさのワッフル型のフライドポテト
・ぼうじゃが:ビーフの旨味で後引くおいしさのスティック型のフライドポテト
Q.うましお味のものすべてに共通する味付けの方針はありますか?
A.素材を引き立て、連食を誘う(何個も食べたくなる)ような“うましお味”にしております。
「いっぱい食べるとうまい!」「いっぱい食べたい!」と思いました! 東ハトさーん、あなたの心意気は伝わってますよー!!
ここでもう一度、それぞれの「うま」観を振り返ってみよう。
それぞれに確固たる「うま」観があり、各々が自分の信念に従って邁進することで未来を切り拓くーー俺たちの戦いはこれからだ的な、こんな漫画の最終回があったら、ポテトチップスをバリバリ食べながらズビズビ泣いて、ページをめくるのだろう。
これからも続々と生まれるであろう「うましお」たちの、その「うま」のたどり着かんとするその先を、胃が元気な限り眺めていたいと思う。
おまけに、うまみ調味料や顆粒出汁ポテトチップスにかけて食べてみた。
案の定、適当にかけたり混ぜるだけでは全然おいしくならなかった。コンソメはコンソメ、中華だしは中華だし、かつおはかつおと、それぞれの味が立ちすぎてしまう。
お店に並ぶ「うましお味」はどれだけの試作を経たのだろう。ひとりずつマイすり鉢を持ってあれこれ調味料を調合する「俺だけのオリジナルうましお」選手権も楽しそうだ。
うましお味のおもしろさにに気持ちの昂りがおさまらず、目がギンギンだ。もうちょっとだけ、うましおの世界を眺めたい。みなさん、よかったらお付き合いください。
驚くべきことにひとつとして材料の組み合わせが同じものがない。個々に「うま」を追求している証だ。ちなみに最も緑のセルが多い=複雑な味を作っているのはまたしても東ハト、おなじみえんどう豆スナックの「ビーノ」である。
いわしに昆布、チキンにかつおにバターに宗田節。うま味の宝石箱だ。
ここまで凝りに凝って「うま」を追求しているのに、アピール文では「えんどう豆100%使用。えんどう豆本来のおいしさを追求したえんどう豆スナックです」としか書かないのだから謙虚だなあ。
うまいのは素材あってこそなんで!という、「うましお」なりのプライドの現れなのだろう。
格好いい。こういうこっそり隠れている仕事をめざとく見つけられるようにありたい。
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