特集 2019年10月16日

コオロギで温度を測る、「普通じゃないプログラム」発表会

マイク+コオロギ=温度計。そんな普通じゃないプログラムの紹介です。

ABPro」という「人を驚かせ、笑わせ、幸せにするような"普通じゃない"プログラムの発表会」がある。
僕はこのイベントが大好きで、毎年レポート記事を書いている。

今年も開催されたので行ってきました。今年も普通じゃなかった。

1987年兵庫生まれ。会社員のかたわら、むだなものを作る活動をしています。難しい名字のせいで、家族が偽名で飲食店の予約をするのが悩みです。(動画インタビュー

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普通じゃなさ、とは

明治大学宮下研究室が主催しているプログラム発表会がABProである。
参加者が思い思いに作ったプログラムを発表して、面白い面白いというイベントだ。

ここ数年の開催は当サイトでもレポート記事を書いているので、ぜひ見てほしい。

今年も満を持しての開催である。

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僕の中ではこの秋一番のイベントなのだ。明大茶を買って発表を見るぞ。

さて、ABProに出てくるのは「普通じゃないプログラム」なのだが、まさに王道というパターンがある。
それを体現したのが明治大学宮下研究室の上野新葉さんが作ったこのプログラムだ。

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Googleスプレッドシートで動くテトリスだ。

Googleスプレッドシートはエクセルのクラウド版みたいなやつだ。
普通は表計算やマクロを使って集計をするものだが、そこで動いているのはテトリスである。

エクセルもテトリスも知っているもの、つまり普通のプログラムだ。
だがこれを組み合わせることで普通じゃないプログラムになる。

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操作中の様子。

だが上野さんはこれも普通だという。
なんでもエクセルでテトリスを作る人は、検索するとたくさん見つかるそうだ。そうなのか。

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なのでゲームオーバーになったら…
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積まれたブロックを使ってお絵かきロジックを遊べるようにした。

数字の通りに升目を塗っていくと、ゲームオーバーになったときのブロックの形が浮かび上がるようになっている。
別のゲームも遊べるようになった。ひと粒で二度おいしいを実現してきた。

こういった普通じゃないプログラムが目白押しなのである。

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ホースと温度、そしてコオロギ

この日最も普通じゃないプログラムを出してきたのは、ABProを主催する宮下研究室のボスである宮下先生だ。
学生には負けていられないとばかり、毎回とんでもない発想で取り組んでいる。

今回はこんなテーマで発表されていた。

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マイクとホースで温度を測る!

えっ、どういうこと??

シンプルにハテナマークが浮かんだ。
話は高性能なオーディオインタフェースを買ってウキウキになったところから始まる。

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それがこれ。1秒間に76万回も音を記録出来るという。すげー。

そしてこれを普通じゃない使い方で遊んでみたのがこれだ。
 

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ホースに向けて音を出して、長さを測る。

ホースの両端にマイクを置いて、一方から音を出す。
そしてそれぞれのマイクに音が届いた時間の差を先ほどの装置で測ると、ホースの長さがわかるというものだ。

これはコウモリが獲物の距離を測るのと同じ原理だ。
コウモリは自分が出した超音波が跳ね返ってくる時間から距離を計算しているのだ。

でも、これはコウモリもやっていることなので「普通」だという。
そこで出てくるのが温度だ。

実は音の速さ、音速は温度に比例するとのことだ。

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温度に0.6をかけて331.5を足すと音速になる。知らなかった!

ということは長さの分かっているホースの中を音が通過する時間を測れば、音速が計算出来る。
そしてそこから温度を推定出来るという。

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先ほどの式では微妙に誤差が出たので、さらなる精度を求めてワインセラーで温度を一定に保って調整している。本気だ。
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実際に推定した温度を出しているところ。おもしろい!

しかしこれでもさらに終わらないのがすごいところだ。
本当に普通じゃないからもうちょっと読んでほしい。

温度が10度上がると生き物の生体反応が2倍になるという、「Q10の法則」という法則がある。
変温動物である昆虫は気温の変化で体温も変化するから、この反応がはっきりと出る。

すごく雑に説明すると、温度が上がると虫の鳴き声の間隔が早くなり、温度が下がると鳴き声の間隔が遅くなるのだ。

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Q10の法則を利用してコオロギの鳴き声の間隔を正確に測ることで、温度が推定出来るのだ。やべえ。
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衝撃的なのは、このためにコオロギ20匹を1ヶ月育てていたということだ。
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そして舞台袖にダッシュして、
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本物のコオロギでデモをすることに。なんかリンリン聞こえるなと思ってたんだよ…。
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これがコオロギで測った温度である。

情熱がすごすぎる。要素が多すぎて説明しきれていないくらいだ。
これからコオロギを見かけたら「あ、温度測れるな…」と思ってほしい。

 

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気軽なネタも見よう!

コオロギ温度計が面白すぎて文量が多くなってしまった。
ここからは僕が特に面白いと思った発表をどんどん紹介したい。

ABProでは伝統的にプログラム自体を題材に取り上げた発表が毎年出てくる。
普段は手話の自動認識システムの研究をされている東海大学の坂田圭司先生は、ジェスチャーでプログラミングの文字を打つ仕組みを作ってきた。

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指の動きと対応した文字が1文字ずつ入力される。良いところが挙がっているが「(気がする)」だけかもしれない。
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逆にダメなところでいきなり「実用的ではない」と書かれていて笑ってしまった。自明のやつだ。

作る前から明らかに実用的でないと分かっていても、面白そうであれば作ってみたくなるものだ。
いつも実用的でないものばかり作っているのでよく分かる。

一方自分が好きなものにとことんこだわる人もいる。
明治大学橋本研究室のライダーマルさんは、その名の通り仮面ライダーが好きすぎて発表ネタに取り上げた。

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ただし発表中は仮面浪人と言い換えるお願いをしていたので、ここから仮面浪人と言うことにする。
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「僕は幼いころから仮面浪人になりたいと思ってるんですね」という導入から始まるが、言い換えひとつでめちゃめちゃ面白くなるな。
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仮面浪人といえば変身ベルトだが、たくさんのアイテムを持ち運ぶのが大変である。
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最新の仮面浪人はこの黄色いアイテムを使って変身するのだが、ちょうどスマホと同じような大きさだ。
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なのでスマホに変身する演出をさせるプログラムを作ったのだ。
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実際のデモの様子。完全に決まっている。

腰に当てたりベルトに差し込んだふりをする動きを、スマホのカメラで検知するようなプログラムを作った。

プログラムの出来もいいが、なにより変身ポーズを真面目にやりきるところに拍手である。
プレゼンで実際に動作デモをすると楽しい。演者のスキルが求められるのも腕の見せどころだ。

最後に、宮下研究室OBの秋山さんの作品が個人的に特に好きだったので紹介したい。

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アクリルを重ねて奥行き感を出すのが好き、という秋山さん。
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発展型としてそれぞれのアクリルを動かすようにすると、アニメーションのようになる!
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さらに各アクリルの動かし方を変えてみたのがこちら。

指に合わせて目線を追従してくれるようになっている!
画面に出した絵を動かすのとはまたちょっと違った感じがして良い。

動きを作り出す装置は僕がとても好きなので、とても興味深い作品だった。

動作の様子を撮影してみた。ちょっとずつ動くのがいい感じ。


何回参加しても最高

作ったものを発表してそれをストレートに楽しむ、ということが出来るのでABProは最高だ。
もう参加し始めて5年になるのだが、毎年面白くて楽しい。

何の役に立つんですかと聞かれることもない。作った側の感情を100%伝えられるイベントなのだ。
話を聞きに行くだけでももちろん楽しいのだけれど、ぜひ発表する方でも参加してほしいと思う。楽しいですよ。

その他の作品紹介はこちらから → Togetter

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コオロギに群がる人たち。

 

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