白だしが気になってきた
白だしに手を出そうと思ったのは、当サイトの先輩ライターであるヨシダプロと久しぶりに話したとき(こちらの記事)、「料理の味付けは全部白だしです」と言い切っていたのが気になったから。え、全部?
白だしを料理上手が使う隠し味的な存在だと勝手に思っていたのだが、意外とメインとして使い続けることも可能らしい。私も気がつけばおかずが全部めんつゆ味になっていることもあるので不思議ではない。
これまでめんつゆ一筋で生きていたが、どうやら白だしも試す価値がありそうだ。色以外の違いも理解して、上手に使い分けられるようになってやろうじゃないか。
原材料を眺めてみる
さっそく近所のスーパーマーケットを訪れて、結構な広さのめんつゆコーナーをチェックする。
めんつゆも白だしも様々なメーカーから出ていて、値段も材料も様々なのだが、比較するなら一番ベーシックと思われるヤマキ同士だろうか。
ちなみにこの日の価格は、500mlの「めんつゆ」が179円(税別)、「割烹白だし(以下、白だし)」が289円(税別)だった。これまで私が白だしを買わなかった理由は、シンプルに「めんつゆよりもちょっと高いから」だったことを思い出す。
ちなみにヤマキの白だしは「しらだし」と読むという事実を、この記事を書くにあたって知った。そういえばCMで「やまきのかっぽうしら~だし~」と言っていたか。
めんつゆと白だし、この2つの違いはなんだろうとラベルに書かれた原材料を確認してみよう。
めんつゆは「しょうゆ(小麦・大豆を含む、国内製造)、ぶどう糖果糖液糖、食塩、砂糖、かつおぶしエキス、ふし(かつお、そうだかつお)、たん白加水分解物、醸造酢、魚介エキス、酵母エキス、デキストリン / 調味料(アミノ酸等)、アルコール」とある。
また魚介エキスに含まれる魚種(魚介)は、かつお、そうだかつお、いわしとのこと。
対して白だしは「食塩(国内製造)、たん白加水分解物(大豆を含む)、ふし(かつお、そうだかつお)、米発酵調味料、砂糖、しょうゆ(小麦を含む)、還元水飴、かつおぶしエキス、魚介エキス、醸造酢、酵母エキス / 調味料(アミノ酸等)、アルコール」。
そして魚介エキスに含まれる魚種(魚介)は、かつお、そうだかつおのみ。
めんつゆは醤油味がベースであり、そこに糖類、塩、鰹節関係のうま味を加えたもの。ざっくりいえば醤油に甘味とだしを加えたもので、まさに麺のつゆであることが読み取れる。
対して白だしは塩味が基本で、たん白加水分解物(うま味成分?)、鰹節関係、糖類などが入っている。少し醤油も入っているが、大豆を使っていないから白醤油のようだ(醤油は大豆が多いと黒く、小麦が多いと白くなる)。塩気の効いた濃い鰹だしということか。
どちらにも魚介エキスが使われているが、めんつゆがカツオとソウダガツオとイワシなのに対し、白だしはカツオとソウダガツオだけなのも興味深い。イワシ=煮干しの要素はめんつゆだけ。そしてどちらも昆布が入っていないのが意外である。たん白加水分解物や調味料がその役割を果たしているのだろうか。
また、めんつゆは関東のソウル調味料だと勝手に思っていたので、ヤマキが愛媛県伊予市の会社であることにも驚いた。めんつゆにイワシが使われているのは、いりこ(煮干し)だし食文化圏の影響だろうか。
原液の香りと味を確認する
購入した両者を開封して、まずは匂いを確認する。
めんつゆはめんつゆの香りとしかいいようのない馴染みのある香りなのに対して、白だしは鰹節がよりストレートに感じられた。
まさにだしをとっているときのあの匂いだ。香水にしたら猫にモテるだろうか。
めんつゆの味を確認してみると、皆様がご存知の通り、甘さ強めの甘じょっぱいあの味で、これぞ家庭の味という印象。すべての料理を任せられそうな安心感がすごい。
そして初体験の白だしは、塩味と甘味もしっかりしているが、やはり主役はだしで実に上品。名前に「割烹白だし」とつけた理由がよくわかる。割烹なんて食べたことはないけれど。
めんつゆと白だし、似たような液体調味料かと思いきや、色以外にも違うところは多そうだ。
薄めて確認する
ラベルに書かれた使用方法を読み進めると、こちらも大変興味深い違いがあった。
共通項目である「かけつゆ」だが、めんつゆが1:3(4倍)なのに対して、なんと白だしは1:7(8倍)なのだ。
白だしはめんつゆの倍も薄めていいのである。
急いで100ml当たりの食塩相当量をチェックすると、めんつゆの原液が7.2gで、かけつゆに割ると塩分1.8%。そして白だしの原液は10.2gで、かけつゆは塩分1.275%。
原液だと白だしのほうが塩分が多いものの、かけつゆとして推奨される割合で割ると、めんつゆのほうがしょっぱいという逆転現象が起こるのである。
※mlとgが混在するため計算がややこしくなるので(塩分などが含まれるつゆは水よりも若干重い)、1ml≒1gとして誤差は無視するものとする。
ちょっと気になっていた価格差だが、かけつゆ300ml(丼一杯分)あたりだと、めんつゆが約27円で白だしは約22円(どちらも税別)。実はかけつゆにするなら白だしのほうが割安となることが判明。そうだったのか!
ちなみに「つけつゆ」は、めんつゆが1:1(濃縮2倍と書かれている所以)なのに対して、白だしはその欄がそもそもない。
白だしがつけつゆに使えない訳ではないだろうが、メーカー推奨ではないのだろうか。つけつゆならめんつゆということか。
ついでに言うと、白だしはかけつゆも「麺のかけつゆ(温)」と、温かい汁を想定しているのがおもしろい。
このめんつゆと白だしの違いがとてもおもしろかったので、多くの人の意見を聞いてみたくなった。
ひやかけで食べ比べ
とある手打ちうどんを作る会合にて、私が打ったうどんを「ひやかけ(冷たいかけうどん)」にして、めんつゆと白だしで食べ比べてもらった。
こういった調査は出身地がとても大切なので、その点もみんなに伺っている。
みんなから集まった意見を、育った場所(あるいは両親の味付け)が東から西に並べてみた。ちなみに白だしのひやかけは暑すぎる夏に最高だった。
≪徳島育ちだけど両親が北海道≫:家は煮干しがもっと効いていて真っ黒。醤油と塩だけで味醂も砂糖も入れないから。めんつゆも白だしもどっちも甘い。
≪千葉育ち≫:関東人だから鰹が好きなんだよね。 めんつゆのほうが馴染む。白だしは昆布が強いかな。
≪千葉育ち≫:めんつゆのほうが食べ慣れているから好み。白だしは物足りない感じがする。
≪埼玉育ち≫:黒いうどんで育ちました。めんつゆはよく食べている味。でもうどんには使わない。家ではもっと醤油っぽくて甘辛い汁。白だしのほうは家で絶対食べない味。好きなんだけど卵焼きみたいな味がしません?
≪東京育ち≫:普段食べているのはめんつゆ。でも白だしもこれはこれで好き。どっちもおいしい。
≪静岡育ち≫:めんつゆのほうが好み。だしの味がこっちのほうが馴染んでいる。静岡だと昆布より鰹節だから。
≪京都・神戸・滋賀育ち≫: 東京暮らしが長いからめんつゆも好きだけど、食べて和むのは白だし。
≪京都育ち≫:食べ慣れているのは白だしの味かな。でも白だしでうどんは食べない。うどんはヒガシマルの粉や。白だしでつくるのはかぼちゃの炊いたんとか。 そうめんならめんつゆ。
≪山口育ち≫:めんつゆはそうめんのつゆ。うどんでは食べないですね。白だしは地元のうどんのスープに近いけどちょっとこれだと薄い。もうちょっと味ががっつりくる感じかな。
≪山口育ち≫:家では両方使っています。どっちも鍋によくしますね。あったかいうどんは白だし、冷たいうどんならめんつゆかな。そばならどっちも絶対めんつゆ。
≪大分育ち≫:地元は鰹だしが基本。白だしが食べ慣れている味で、お雑煮のだしに似ている。めんつゆだとちょっと甘く感じますね。
まだまだ調査数が少ないことは承知だが、この結果だけを見ると、やはり東日本はめんつゆ派で西日本は白だし派だと、ざっくり言っても良さそうだ。とはいえそのディテールには人それぞれのこだわりが垣間見える。食文化が平均化されつつある現代社会においても、だしやつゆの地域性は今も根強いようである。
埼玉以北になると、めんつゆでもしょっぱさが物足りない傾向なのがおもしろい。また白だし派の関西人でも、そうめんならめんつゆという意見が興味深い。そばはもちろんだが、つけつゆはめんつゆが基本なのだろうか。

