今までも相当にニッチな専門店に行ってきたつもりではあったけど、たぶん今回がジャンル的に最狭だったんじゃないだろうか。
とは言え歌舞伎揚(的な揚げせんべい全般)が嫌いという人はあまり見たこと無いので、たとえジャンルが狭かろうが、万人が楽しめるだけのポテンシャルはあるのかもしれない。
あと、非・歌舞伎揚文化圏(主に関西方面)の人は、お土産調達スポットとして使うのオススメなので、コロナ禍が一段落したらぜひ。

普段から専門店巡りを趣味としてて、弊サイトでもこれまでいろんなお店を取材させてもらってきた。
で、最近ちょっと話に聞いて気になっているのが「歌舞伎揚」の専門店である。そう、あの後を引く甘じょっぱさでお馴染み、株式会社天乃屋の揚げせんべいだ。
例えば歯ブラシ専門店なら、各メーカーの様々な歯ブラシがぎっしり並んでいるのが見どころなんだけど……歌舞伎揚専門って、狭すぎないか?
場所は中央線高円寺駅の徒歩3分。南口方面に伸びる高円寺パル商店街の中である。
実は高円寺は自宅から歩いて行けるので、たまにパル商店街も来るんだけど、あれ、そんな店あったっけ?
黒・萌葱・柿色の定式幕が目印の「いづも仙」さん。なんで今まで気付いて無かったんだろうぐらいにハッキリ目立つ。
なるほど、のぼりも出ているけど、見るからに歌舞伎揚専門店って感じ。歌舞伎座か新橋演舞場の周り以外でこんなにはっきりと常式幕を見るとしたら、歌舞伎揚のパッケージぐらいだもんな。
店内に入ってみると、入り口の辺りはわりとベーシックな駄菓子が並んでいる。が、ちょっと視線を奥にやると……おおー、常式幕パッケージがずらっと並んでいる。
これ、ぜんぶ歌舞伎揚なんだろうか。いや、そもそもの疑問として、歌舞伎揚にそんな種類があるのか。
ということで、いづも仙オーナーの齊籐尚美さんにお話を伺ってみた。
まず聞いてみたいのは、なんで歌舞伎揚専門店なのかという根本的なところなんだけど。
齊籐「種明かしすると単純なんですが、私が天乃屋の会長の妻なんです」
あ、じゃあやっぱりこのお店は天乃屋さんの直営店ってことなのか。
齊籐「いえ、武蔵村山に天乃屋の東京工場がありまして、そこは直営のショップもあるんです。ただ、そこはお客さんが車で来てケースで大量買いされていくような感じで。なのでここは、もうちょっと気軽に買ってくださるお客さんに向けて、私が2年前から個人でやってるお店なんです」
オーナー個人の続柄としては天乃屋の関係者(創業者の奥さん!)だけど、お店は別会社
を立ち上げて経営している、ということだそう。
ところで歌舞伎揚と言えば、もともと関西出身の僕にはちょっと気になってるとこがある。
今は分からないけど、僕があっちにいたころは、歌舞伎揚という存在自体をほぼ見たことがなかったのだ。
齊籐「あー、ぼんち揚さんですね」
そう、関西圏で甘じょっぱい揚げせんべいと言えば、ぼんち株式会社の「ぼんち揚」が一大メジャーブランドなのである。
なので、なにか大人の事情的な棲み分けがあったりするのかなー、と密かに思っていたのだ。
齊籐「私も一時期大阪に住んでたんですが、歌舞伎揚は売ってないですよね。天乃屋にも大阪支社がありますし、問屋さんにも卸しているので、関西のどこかでは売ってるはずなんですけど…。ただ、棲み分けはもしかしたらあるかもですね。西を飛ばして九州ではまた歌舞伎揚が展開してるんですよ」
おお、消しゴムみたいだ!トンボ鉛筆のMONO消しゴムは関西以西でほぼ展開が無く(かわりに在阪メーカーのSEED消しゴムが圧倒的勝者)、九州からまた普及しているのだ。
まさか揚げせんべいも同じような分布になっているとは、知らなかった。へー。
ちなみに「甘じょっぱい系の醤油味」「サクサクの揚げせんべい」と要素だけ聞けばそっくりな歌舞伎揚とぼんち揚だが、食べ比べてみるとわりと違う。
歌舞伎揚のほうが甘めの味付けで、ぼんち揚はあっさり気味でしょっぱさが強いのだ(以前に気になって食べ比べしてみた)。
どっちが美味いかは完全に好みの問題なんだけど、僕は今やわりと歌舞伎揚派である。
齊籐「ありがとうございます。戦後しばらくの頃、主人が犬の散歩をしていたときに道ばたで揚げせんべい屋をしているおじさんがいて、「おっちゃん、これ儲かるの?」って聞いたら「儲かるからやってるんだ」って言われて。それで「あー、じゃあやってみるか」と始めたのが最初だそうで」
歌舞伎揚の誕生秘話、そんなラフな感じだったのか。
齊籐「もとは甘納豆屋だったんですが、あまり甘納豆が売れなくなってたので、揚げせんべいに転身したそうです」
それにしても、棚を見ると“知らない味の歌舞伎揚”がいっぱいだ。
甘じょっぱ醤油味が歌舞伎揚の身上では無かったのか。プチサイズの歌舞伎揚があるなー、ぐらいはスーパーやコンビニで見て知ってたけど、もうサイズどころではないバラエティ具合である。
ということで、いよいよ買い物モードでカゴを持って、気になるのを片っ端から購入して行こう。
齊籐「うちは直営じゃないので、とりあえず、個人店として卸してもらえる商品は全部入れてます。あとは、“こわれ”ですね」
おー、こわれ(生産時に出る割れたものを安く販売している)はいいな!自分で食う分には割れててもなんの支障もないし。(買った)
あと、齊藤さんのオススメも教えてもらいたい。
齊籐「歌舞伎揚じゃないんですが、「ふっくら焼きせんべい」がいま一番好きかも。ほんと美味しいんですよー」
これはいわゆるサラダせんべい的なやつなんだけど、実際に食べてみると昆布・鰹のダシの味がかなり効いてる。
塩も強めで、お茶請けに出されたら「ん?見た目普通なのに、やけに美味いな」って思いながらバクバク食っちゃうタイプのせんべいだ(買った)。
あと気になったのが、なんかパッケージの雰囲気から違う歌舞伎揚だ。これ、もしかして歌舞伎揚の高級バージョン?(買った)
齊籐「そうです。「瑞夢」というんですが、ちょっとふんわり揚げた感じになってます。あと、最近さらに最高級版の歌舞伎揚も出たんですよ」
といってもうひとつ紹介されたのが「極まる」というもの。これが現時点で最高級の歌舞伎揚なのだ。そして天乃屋のサイトか工場の直営店、あとはここ(いづも仙)でしか購入できない。
齊藤「直営店では14枚のパッケージ売りなんですが、個包装だし、うちでだけ1枚ずつのバラ売りもさせてもらってるんですよ」
おー、それは嬉しい。だって最高級歌舞伎揚だもの。とりあえず1枚だけでも食べてみたいもんな(当然買った)。
プチシリーズにも気になる味があれこれあるぞ。たとえば、なぜか単品が無くアソートにだけある「ブラックペッパー味」とか(買った)。
齊籐「そう、「ブラックペッパー味」はすごい美味しくて人気もあるのに、なぜかアソートに入ってるだけなんですよね。プチシリーズはとくに飽きられないように周期的にラインアップを変えているので、そういう事情もあるかもですけど……あ、「完熟梅味」もそろそろ終売になるかもです」
え、そりゃ買うよね(買った)。
齊籐「もう終わっちゃった味としては「シーザーサラダ味」が残念でしたね。あれはものすごく売れて」
店員さん「そう、「シーザーサラダ味」美味しかったですよ!チーズの香りがふわーっとして、ビールとかワインのおつまみに最高でした」
なんと、いきなり店員さんも話に割り込んで来ちゃうぐらいに美味かったらしい。えー、それは食べたかった!(買えない)
実際にサラダにかけるクルトンとして使っても絶品だったらしいぞ、シーザーサラダ味歌舞伎揚。
齊籐「いざ終売になるというときは、おじさんのお客さまが最後に「大人買いしていいですか」って1ケースまるごと購入して行かれましたから」
ううむ、そこまで美味かったのか。天乃屋さん、なんとか再販お願いします。
それにしても、なんか齊藤さんにノセられているうちにカゴが結構なことになっているぞ。すいません、いったんこれでレジお願いします。
齊籐「とはいってもおせんべいですから、レジを通すと「あれ?こんなもん?」ってお値段にしかならないんですけどね」
確かに。山のように買ってる気がするけど、結果としては3,000円ちょっと。
齊籐「以前に、若い会社員の方が1万円握りしめていらして。社長からお金を渡されて「食べてみたいから、店にある全種類買ってきて」って言われたんだけど、これで足りますか?って」
おお大富豪っぽい。メニューのここからここまで全部持ってきて、という梅宮辰夫方式だ。
齊籐「その時のカゴ4つに全種類を取り揃えて。でもお会計したら8,000円ほどで、1万円でお釣りが余裕で出ちゃうんですよ。お店としてはちょっと悲しい話ですよね(笑)」
最後に切ない話を聞いてしまった。でも、こちらは大量の歌舞伎揚&その他せんべい各種を抱えてホクホク。ほんと申し訳ない感じであるが、齊藤さんありがとうございました。
さて、せっかく買ってきた歌舞伎揚である。実際に食べてみないことには、記事として締まりがないだろう。
ちなみに購入してきたのは歌舞伎揚シリーズだけで以下の通り。
ということで、大きめの皿に購入してきた全種類をザラザラと盛りつけてみた。なんかあれこれ載ってるように見えて全部歌舞伎揚であり、ここは歌舞伎揚好きにとってのドリームランドと言えるのでは。
これ全部食べて感想を言うのもキリがないので、味で特に気に入ったものを挙げると(揚げせんべいだけに)以下の感じ。
・「黒胡椒味」…あっさりした中に胡椒のピリッが後を引く。確かにアソートだけではもったいない美味さ。
・「焼きとうもろこし味」…トウモロコシの甘さと醤油の組み合わせが強い!バター好きには「濃バターコーン味」も。
・「焼きえび味」…白だし+海老練り込み生地の香ばしさよ。これはもう、ほぼ焼き海老そのものと言えるのでは。あっさり「えび塩味」と交互に食べると海老が無限。
そして、どうしたって味を確認せずにはおれないのが、高級歌舞伎揚。
変わりフレーバーもあれこれ美味かったんだけど、でもやっぱり歌舞伎揚といえば甘じょっぱ醤油のアレだろう。であれば、そこを超えてくるのは、やはり同じ甘じょっぱ醤油の高級版だと思うのだ。
まず、うるち米ではなくもち米生地の大判「スペシャル」。ほろっとくちどけを謳う「瑞夢」。最後に1枚1枚揚げた究極歌舞伎揚こと「極まる」。さぁ、どれほどにノーマルと違うのだろうか。
……とは言っても、実は食べてみる前は「いや、それでも結局は同じ味の歌舞伎揚だろうし、どう説明したものかなぁ」ぐらいに思っていたのである。
で、比べてみると……あー、確かに違うな。いや、正直なところ「マジでか!」と驚くほどの差はやっぱり無かったんだけど、でも違う。
まずノーマルに対して「スペシャル」はザクゥッと強めの歯ごたえがあり、醤油の香りも強め。
「瑞夢」はかなり優しくサクッと軽く、口の中で細かくなるのが早い。
そして「極まる」は歯ごたえが「瑞夢」に近く、味は甘味・しょっぱみも少し濃いめかなー、というところ。
中でも最も違いを感じたのは、味よりも歯ごたえに差を感じた「瑞夢」である。うん、このサクッとした軽いの、いいな。個人的にかなり好き。次にお店に行ったら、人に食べさせたい歌舞伎揚として来客用に「瑞夢」を買うと思う。あと自分用にこわれも。
ただ、今回購入した歌舞伎揚各種の手元在庫が無くなってからの話なので、しばらくは先のことになるだろうけれど。
今までも相当にニッチな専門店に行ってきたつもりではあったけど、たぶん今回がジャンル的に最狭だったんじゃないだろうか。
とは言え歌舞伎揚(的な揚げせんべい全般)が嫌いという人はあまり見たこと無いので、たとえジャンルが狭かろうが、万人が楽しめるだけのポテンシャルはあるのかもしれない。
あと、非・歌舞伎揚文化圏(主に関西方面)の人は、お土産調達スポットとして使うのオススメなので、コロナ禍が一段落したらぜひ。
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