さっそくご覧ください
まずは、完成したトドを見てもらいたい。
大きい。机の上に置かれたその姿は、もはや威圧感といえるほどの存在感を放っていた。
構想段階では手のひらサイズに収めようと思っていたのだが、材料を購入する段になって「でも、大きくて邪魔であることの代名詞にされることもあるトドがコンパクトだったら、らしくないよなあ」と魔が差したのである。
〆切は嫌いだが、〆切があるおかげで記事を書くことができる。適度に追い込んでくれるなにかがあることで得られるやる気というものがあるのである。
その点、巨大なトドの富士と彼の掲げるToDoリストは嫌でも視界に入ってくれるのがすばらしい。
以前ライターの唐沢さんが書いていたラバーダック・デバッグに通ずるものを感じる。
ここにも大きくしたことのうれしい誤算が。
ちょうど猫くらいの大きさなので作業の合間に抱いて癒されることができるのだ。これはモチベーションや集中力の維持にもってこいではないか。
タスクを細分化し、適度に追い込み、癒しを与え、最後にはご褒美をくれる。ただし作業そのものを手伝ったりは一切してくれない。トドの富士は模範的なコーチなのだ。
3Dモデリングで型紙をおこす
今となってはずいぶん昔のことのような気がするが、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために外出自粛が要請されていた時期があった。
そのころ友達に勧められて始めたのがBlenderという3Dモデリングの無料ソフトだ。一通りの使い方を覚えた後、とくになにか役に立つこともなかったのだが、ぬいぐるみを作る段になってはたと思い至った。こいつでぬいぐるみのデザインをやれるのではなかろうか?
Blenderの便利なところは、形状とシームを入れる場所さえ決めてしまえば(ほぼ)自動で展開図、すなわち型紙を作ってくれるところだ。
ひたすら縫う
型紙ができたら、布を切り出してひたすら縫っていく。
3Dモデリングで形を作っていくのも楽しいけれど、実体のある作品が自分の手の中で形になっていく喜びはやはり他に代えがたいものだ。
図体の大きなトドの富士を手作業で縫いあげるのはたいへんで、2023年の暮れから2024年の正月にかけてほとんどこればかりやっていた。
余談だが起毛の生地を裁断すると切り口から綿毛のような切れっぱしがわさわさと飛び立って、ついさっき大掃除で掃除機をかけたばかりの床に降り積もっていった。
なんとも言えない気分になった。しかし掃除機をかけたのが自分なら直後に綿毛を散らしたのも自分なのだ。文句をいう相手もないので、おとなしく綿毛まみれで過ごすことにした。
年が明けて2024年になってもまだ私は縫っていた。
縫物の経験がそれほどないのでゆっくりとしか縫えない上に、YouTubeをながら見したりするのでなかなか進まないのだ。
そんなわけでちんたら縫い進めていたのだが、一つだけ明確にスピードアップに貢献した道具があった。
生地と生地はマチ針でとめて縫うものとばかり思っていたのだが、こういう便利なものがあるんだそうである。小さいくせにとても挟む力が強くて、生地が全然ずれない。手に刺さらないのも素晴らしい。このクリップがなければ、トドの富士は原稿の〆切までに完成していなかったかもしれない。
尻やヒレのような失敗しても目立たないところから作業を進めていって、だんだん頭の方に近づいてきた。
頭まで縫い上がったので、えいやっと反転させてみた。
ちゃんと「顔」になっていたのでうれしくて小躍りした。
ここまでくれば完成までもうあと少しだ。
目のつけどころで風貌がガラッと変わる
最後に目をつける。
簡単な作業だが、目のつけ方次第で風貌や表情がガラッと変わってしまう怖い工程でもあるのだ。
ぬいぐるみ用の黒い目をそのままつけたのだけれど、なんというか可愛らしすぎた。
ほどよくデフォルメはした上で、トドの猛々しさというか、生々しさというか、そういう大型動物らしい雰囲気をもう少し再現したかったので、クリーム色のフェルトで白目と牙を急遽作ることに。