特集 2023年11月18日

これはワシじゃ!

『フォレスト・ガンプ』という映画がある。アメリカ史における重要な局面に、次々と立ち会ってしまう主人公のガンプ。

当時最先端のCG技術でケネディ大統領やジョン・レノンと会話するガンプに、中学生だった私は驚いた。

だが考えてみれば、我々の人生にも一度くらい、そんな局面があったのではないか?
 

1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。

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『アビー・ロード』のジャケットに映る“2人のポール”

「世界で最も有名なレコードジャケットは?」というアンケートを取ったら、恐らくビートルズの『アビーロード』はかなり上位に食い込むだろう。

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もしお手元にあれば、メンバーの背後をよく見て欲しい。フォルクスワーゲンの横に1人の人物が映り込んでいる。

このジャケットには“2人のポール”が映っていたのだ

「これワシじゃ!」と主張していたのが、アメリカ人のポール・コールさん。妻とイギリスを訪れた際、偶然この歴史的なフォトセッションに立ち会い映り込んでしまったそう。

恐らく彼は生涯そのことを自慢していたに違いない。亡くなった2008年にはそれなりにニュースにもなった。(※他にも何人か「これワシじゃ!」と主張している人がいるようだが)

こういった時代を象徴するような場面に立ち会ったり、様々なメディアに偶然映り込んでしまったりすることを「これワシじゃ!」と名付け、知人やDPZライターの皆さんに経験がないか聞いてみた。 

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私、石井公二の「これワシじゃ!」~初年度のフジロック、嵐の果てに~

『CROSSBEAT』(シンコーミュージック・エンタテイメント)1997年9月号

1997年、富士天神山スキー場(現ふじてんスノーリゾート)で開催された第1回フジロックフェスティバル。台風直撃の末に巻き起こった大惨事をご存じの方も多いと思う。その現場に当時高校2年生だった私はいた。

まだ夏フェス文化が根付いていなかった当時のこと。天候や運営側だけでなく、私自身にも問題があった。今から考えると本当に馬鹿なのだが、夏場とはいえ標高1,300mくらいの場所に半袖短パン、ビーチサンダル、雨具も持たず参加してしまったのだ。

ライブ中も辛かったが、ライブ終了後に麓まで下りる交通手段が麻痺してしまい、震えながら歩いて下山した時は本当に死ぬかと思った。

なんとか自宅に生還後、一か月後くらいに出た音楽雑誌『CROSS BEAT』を買って驚いた。フジロック特集号の表紙に、私と友人が小さく映っていたのだ。

赤丸が私。雨よけにビニール袋を頭にかぶっている。恐らくハイロウズ演奏時の一枚
リアルタイムでは本当に辛い体験だったが、今ではこの表紙があの伝説の場に立ち会った確かな証になっている。
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私の母の「これワシじゃ!」~『みんなのうた』最初の1曲?~
 

我が家に一枚の古いレコードがある。ジャケットには子供の合唱団。一番手前の女の子を指さして、私の母は「これワシじゃ!」と主張する。

母がレコードジャケットに映っているだけでも驚きだが、さらなる衝撃が。母が所属していた東京少年少女合唱団は、1961年に放送が始まったNHK『みんなのうた』に参加することに。母達が歌った『おお牧場はみどり』こそ、『みんなのうた』の記念すべき放送第1曲目だというのだ。

ネットで調べてみると確かに『おお牧場はみどり』が最初の1曲目で、クレジットは東京少年少女合唱団になっている(ジャケットには「東京少年合唱隊」とあるのは、この当時の名称のようだ)。これが事実なら中々の「これワシじゃ!」案件だが、真偽のほどは如何に? 

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私の友人の「これワシじゃ!」~死にかけた末の英雄扱い~

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こんな感じだった、というイラストです

今から20年ほど前。友人が我が家に遊びに来るなり「いや~、大変だったよ」と一枚の新聞紙を広げた。見るとそれはスペインの新聞。友人は大学のプログラムか何かでスペインに行っていたのだが、そこで開催されていた牛追い祭りに参加したという。

群衆は町なかを逃げ回り、最後は闘牛場に雪崩れ込む。牛は突然友人の方に向かってきたので、フェンスをよじ登ってかわそうとしたが一歩間に合わず。腿のあたりを思い切り角で刺されてしまった。

そのまま病院に搬送され緊急手術を受ける事態になってしまったが、その一部始終が翌日の地元の新聞に一面で掲載されたのだ。友人が持ってきた新聞を見ると、角に刺される瞬間と共に、腿から摘出された角の一部まで写真が掲載されていた。

非常に痛々しい「これワシじゃ!」であるが、「牛に刺されるほど近づいた」というのはある意味勇者の証であるらしく、病院では英雄扱いであったという。

 マニアパレルさんの「これワシじゃ!」~目つきのヤバさが幸い?~

土木やインフラなど、ニッチなモチーフをTシャツ・手ぬぐい・ぬいぐるみなどのグッズにし続けているマニアパレルさん(以下マニアパさん)。マニアパさんが以前、気になるツイートをしていたのを思い出し、詳細を聞いてみた。

これは1989年か1990年、アップルコンピューター対応日本語翻訳ソフトの広告だそう。

広告のアートディレクターが、限られた予算を著名なカメラマンに全振りしたため、プロのモデルが使えなくなってしまった。そこで周りにいた素人からオーディションすることになり、50人位の写真からマニアパさんが選ばれたという。選考理由は「目付きがヤバい」みたいなことだったというが、それはマニアパさんの謙遜だろう。

「若造には縁のない、高級イタリア製の洋服とか着れて楽しかった」と語るマニアパさん。私も若造の時にこんな経験してみたかった。

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時代が生み出す「これワシじゃ!」~日本の路上から全世界に~

今の時代、自分でも気付かないうちに「これワシじゃ!」になっている可能性もある。Googleストリートビューである。

DPZとストリートビュー、と言えば有名なハトマスクの件以外にも、取材中に映り込んでしまうことがあったようだ。

林さん、西村さん、三土さん、古賀さん。品川での出来事だそうです

しかし、日常生活の中で意図せず映り込んでしまった人もいる。まずは林編集長。

チャリンコ漕いでる時の無防備さがモザイク越しでも分かる

続いて安藤さん。

サーフィン帰りに映り込んでしまったそうだが、なんかこれは格好良いぞ!ずるい!

皆さんも血眼になって探せば、全世界に発信されている自分の姿を見つけて「これワシじゃ!」になるかもしれない。

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西村まさゆきさんの「これワシじゃ!」~幸せの黄色い旗振り~

すべての「これワシじゃ!」が偶然の産物というわけではない。中には積極的に狙いに行く猛者も存在する。

ライターの西村さんは十数年前、家から見える勝鬨橋周辺がいつも夕方のニュースに映ることに気付いた。そこで黄色い旗を持っていき一心不乱に振ってみたら、見事画面に映り込んでいたそうだ。
 

もはや「これワシじゃ!」ではなく「ワシはここじゃ!」

ウィッキーさんの後ろ、箱根駅伝の沿道。時代に足跡を残したいなら、時には自分から動くことも必要だ。DPZ関係者はこのアグレッシブさを持ち合わせた人が多いらしく、林編集長とべつやくさんもかつて、金環日食を報じるニュース記事に取り上げられている。

やはりイベントごとは変に引いた目で見ずに積極的に楽しみ切りたい

伊藤健史さんの「これワシじゃ!」~ファン冥利~

<秘密結社鷹の爪 THE MOVIE4 ~カスペルスキーを持つ男~(DLE)より>

最後に毒ヘビでお馴染み、ライターの伊藤さんの非常に羨ましい「これワシじゃ!」をお送りする。

伊藤さんは『鷹の爪』のフロッグマンの大ファンで、制作会社DLEの営業の方に思いを切々と語る機会があったという。後日、作者本人の耳にそれが入り、なんと作中のモブキャラとして描きこんでくれたのだそう。後ろの帽子の男が伊藤さんだ。

よくお笑い芸人が好きな漫画の背景に描きこんでもらったりしているが、一般人でそれを成し遂げたのはかなりの偉業と言えるだろう。


他にもライターの鈴木さくらさんからは「大井川鐵道のトーマス号に乗りに行ったらちょうど初日で、夕方のローカルワイド番組に映り込んでいた」、井上マサキさんからは「友達がこち亀のアニメ制作に関わっていて、作中に出てくる町内会の名簿に名前が使われていた」といった体験談も寄せられた。

法事の時に繰り返し聞かされる親戚の武勇伝のように、皆さんにも披露したくてウズウズしている「これワシじゃ!」話があるのではないか?規模の大小は問わない。「○○さん、あの話聞かせてよ!」なんてリクエストしながら、いつかみんなで集まって披露しあいたい。そして最後に皆で声を合わせて高らかに宣言しよう。

「これワシじゃ!」

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