特集 2022年2月12日

沿線に思い出を埋めていくことで新幹線を走馬灯にする、とは

先日掲載した「新幹線から見えたすき家でカレーを食べてみる」が大好評だった、スズキナオさん。

誰もがなんとなく思ったことがあることを実行して話題でした。記事を書き終え、今は新幹線の沿線に思い出を埋めていくことで、新幹線が走馬灯になるのでは……。と思っているとのこと。

それってどういうことですか? 担当編集の古賀がお話を聞きました。

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新幹線の車窓から外の風景を眺めていて、自分の知らない町にたくさんの人が暮らしていることが不思議になる時がある。実際にその場所に行ってみたらどんな気持ちになるだろう。

書いていて不安になりました

古賀:
車窓のすき家に行く記事、先月大変な人気でした……!

スズキ:
それは嬉しいです! よかった…何か大きなことが起きる旅というのでもないので書いていて不安になりました。

古賀:
担当編集として、企画をもらってすぐ「なるほどこれは良いな……」と。で、原稿を受け取ってまた「最高だ……」と唸ったネタではありましたが、確かにやってることは派手ではないんですよね。
言ってしまえば、すき屋に行ってるだけ……。

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ビールを飲んで、カレーを食べた

スズキ:
ははは。本当にそうですね。

古賀:
「新幹線の車窓から見える店」というのが絶妙に人をはっとさせるギミックなんですが、そのギミック自体がまた派手ではないんですよ。

スズキ:
行ったお店もかなり私の住む大阪から近いという(笑)。かなり有利な条件で。

古賀:
有利(笑)。

スズキ:
ただ、やっぱり「同じようなことを考えた経験がある!」という方がすごく多いんですよね。

古賀:
そこですよね。なんとなく、だれもが無意識的に考えていたことだった。そこを拾えたのはすごいことだと思います。

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誰もがちょっと考える、あそこでご飯を食べる日もあるのだろうか…という思い

スズキ:
新幹線の窓の外って気になるもの多すぎません? あと、東海道新幹線の東京ー大阪間って乗ったことがある方が多いから、それで「ああ、あれね!」みたいな気分が起こりやすかったのかもしれないです。

古賀:
ああ~~。

スズキ:
名古屋を出てすぐのあたりにパナソニックのソーラーアークっていうでっかいやつがあるんですよ。

古賀:
あるある!!! ありますね!!!

スズキ:
ね! あれなんですか!?

古賀:
なんなんですかね!(※太陽光発電施設だそうです)あはは、なるほど、「あれなんすかね?」って言いあうだけでもう面白い。

15年前、「727」の看板から新幹線を見ていた

スズキ:
新幹線の車窓といえば、「727」の看板もよく言いますよね。

古賀:
看板は本当に……。そうそう、ウェブマスターの林が、まさにあの看板の隣に立って逆に新幹線を見るという記事を書いてるんですよね(記事「あの看板から新幹線はどう見える?」 )。公開が2007年です。

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あの看板が間近に!
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看板の側から新幹線を見た

スズキ:
そうだ! そうでした! 

古賀:
15年経って今度は車窓のすき家でカレーを食べたという。

車窓は、あるある、だけど、ないない 

古賀:
あるあるで言うとアナウンスって強くないですか。名古屋の手前で流れる「この電車は三河安城駅を定刻通りに通過しました」とか……。

スズキ:
あるある!

古賀:
三河安城駅すごいですよね。定刻通りに通過する駅として有名すぎる。

スズキ:
聞いたこと【あるある】なのに行ったこと【ないない】でしょう。しかも、聞いたときにはもう通過しちゃってる。

古賀:
新幹線って乗ってる間じゅう、ずっと「通過」を感じますよね。あるあるなのにないないの宝庫なのかも。 

スズキ:
そうですね。ものすごい通過っぷり。

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あるあるなのに、ないない

スズキ:
だからこそ、通過していった場所になんとか行ってみたいと思ったのと、あと「俺、あそこに居たんだぜ!」って自慢できるなーと思ったのも、企画のきっかけとしてはありました。

古賀:
「自慢できる」というのすごくわかります。憧れがちょっとあるんですよね。記事冒頭の

夜景を眺めて「この光の一つ一つに暮らしがあるのだなー」みたいに思ったことはきっと誰しもあるだろう。あの類の、ちょっと感傷的な気持ちである。

ここにわかりやすさが書いてあるなと思って。例えば友達がその光の一つの家に住んでいて「私の家、あそこだよ」と指さされたら「へえ」なんて言って、それで「ちょっといいな」と思いますもんね。知らない生活の側の人なんだと。

誰かがうちの窓を見て「あそこにも生活があるのか」と思ってる

スズキ:
それ、誰かがうちの窓を見てそう思ってるかもしれないこともであるんですよね。

古賀:
ああ……ああ! そうだ。その通りです。

スズキ:
見ている側の人に向けては「ここで生活してるよ!」と言いたい。

古賀:
記事には新幹線からすき家を見るナオさんと、すき家から新幹線を見るナオさんの両方がいました。

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店内から新幹線を見る

スズキ:
そうそう。自分が景色を見ている時と、自分が景色の一部になっている時と。

古賀:
いつだって自分の目は景色側じゃない、でも景色でもあるんですよね。

スズキ:
そっちを忘れがちなんですよね! なので、新幹線沿線にメモリーを埋めていけば、見る側であり見られる方も思い出せるっていうのが新幹線に乗る時めちゃくちゃ楽しくなるんじゃないかって。

古賀:
景色の自分を埋めていくんだ。

スズキ:
そうやってたくさんの思い出を新幹線沿線に増やしていったらもう走馬灯のようでしょ。こっちが走るという走馬灯。

古賀:
新幹線が走行することにより、走馬灯も走るんだ。天才だ。

スズキ:
ただ想像してみたんですが、もしマネして下さる方がいるとしたら、恋人とかとそれをやって、不幸にも別れが訪れたとしたら……。

古賀:
オー!

スズキ:
新幹線に乗るのがめちゃくちゃ悲しくなる。

古賀:
一種の呪いですね。

スズキ:
あそこを二人で歩いたな……とか。だから一人か、よっぽどのズッ友とやって欲しいです! 

古賀:
新幹線の沿線だけじゃなく、チェーン店にそれを感じることありませんか。転々といろんな店でバイトしてる人って、そういう意味であちこちに人生を埋めてるなと思うんですよね。

スズキ:
うんうん。店のバックヤードが想像できますもんね。私がまさにすき家でバイトしてたことがありまして。厨房で牛丼を盛り付けている気持ちもわかるっていう。

古賀:
そうだ、まかないがキムチ牛丼だったって。ああ、もはや新幹線で通過しながらお客の気持ちも、バイトの気持ちもわかる。

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さも陣地を取ったような態度で

古賀:
記事、行ったあとも可笑しかったですね。イオンがイオンじゃなかった(目指して歩いたイオンが、店舗ではなく物流センターだった、というくだりがありました)という奇跡。

スズキ:
あれは絶望でしたね。冬枯れた景色を抜けてのイオンだったから。文明!みたいな、助かった!と思ったんですけどね。まあ、町はすぐそこでしたけど……。

古賀:
この写真はすごいですよ。けものみちをぬけてゆくイオン。

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なんだろうこの感じは

スズキ:
夢の中みたいでしょう。

古賀:
こんな夢みたいなイオンがあったのかという。

スズキ:
しかもスーパーの方のイオンじゃないなんて!

古賀:
物流の方のイオン!!!!

スズキ:
あれも巨大だったから、もしかしたら新幹線から見えるかもしれないです。

スズキ:
私のすき家と反対側です。

古賀:
「私のすき家」。謎に所有した。

スズキ:
さも陣地を取ったような態度でね。

古賀:
あ、でも陣地みたいなところありますよね、そういうスマホのゲームがあったり。友達の家族は大きな日本地図を居間に飾って、家族それぞれが行ったことのある市区町村にシールを貼ってました。

スズキ:
記憶しているということは自分の分身が置かれているみたいなものなのかもしれないですね。全国各地を旅行したことがある人だったら、テレビのロケでどこかが映っても「あ、ここわかる!」ってなるわけじゃないですか。ってことは、そこに自分のうすーい版が置いてあるようなものじゃないかと

古賀:
それって、ちょっと「可能性が置いてある」みたいなことかなと思いました。もしかしたら、すごく仲良くなる人と出会うかもしれないとか、ここに暮らしたかもしれないみたいな。実際、ああ、いいなあ、暮らしたらどんなだろう、って思ったりするから。

スズキ:
そうですよね。旅行に行くと必ず、ここに暮らしたとしたら…って思いますもんね。

古賀:
そうそう! スーパーをチェックしたりして。

スズキ:
はは。わかります。公園あるし、いいなーとかね。道行く老夫婦をみて勝手に「あんな風に歩くかもな」とか。

古賀:
人を見て「あんなふうに」って思いますね!

スズキ:
思います思います!

ここでカラスが飛びかかってきたな…

古賀:
ナオさんの場合、記憶が埋まるのは楽しいから、だから頑張ってあちこちいこう、みたいなことでもないようにお見受けします。

スズキ:
あはは、そうですね。ふらっとどこかに出かけるの好きっぽいこと書いてしまっているかもしれないのですが、すごく億劫で。特に一人で遠出するのってなんか寂しいじゃないですか。

古賀:
寂しいですね!

スズキ:
「こんなに美味しいコロッケがあったのにひとり」って思ってしまう。

古賀:
良い思いをすればするほど、ひとり。

スズキ:
でも、ひとりの時の方がグッとなんか記憶の、その置ける度が高い気はします。
本当はそれこそ、旅慣れた人に案内してもらってワイワイやりたい気もするんですが、重い腰をあげて一人で行くと、濃い記憶が残る気がする。

古賀:
楽しすぎるとチャラになりやすいのかな、ちょっと寂しい記憶の方が残るというか。

スズキ:
そうですね。ひとりで歩いてると五感が全部外に向いてるから入ってくる情報が多いのかもしれないです! そろそろ「一人旅が趣味!」と言い放ちたい。

古賀:
実際楽しいし、まさに見分をひろめる充実感みたいなものも確約されてるんですよね。ただしおっくうだし寂しい。

スズキ:
はは。そういう一人旅が苦手な人ばかりの旅の記録が読んでみたくなりました。

古賀:
もう沁みる。

スズキ:
昼にそば食べて、店を出てもう「帰りたい…」。

古賀:
がんばって!!!

スズキ:
夜が全然来ない…っていう。どっちかというと私はそっちです。

古賀:
「あのときあそこで〇〇したよな」みたいな思い出、具体的になんかすごく思い出すみたいなことありますか?

スズキ:
記憶力はあまりよくない方だと思うのですが、不思議とそういう場所とセットで思い出すことはあるかもしれない。ここで友達に傷つくようなこと言われたなーとか、この橋、泣いて渡ったなとか。悲しい思い出多し! ここでカラスが飛びかかってきたな…とか。

古賀:
カラスが飛びかかってくるの、悲しいというか大変だ。

スズキ:
逃げて事なきを得ました。

古賀:
無事でよかったです……!


スズキナオさんは、今後も個人名義と、パリッコさんとのユニット、酒の穴名義で記事を執筆いただく予定です。どうぞお楽しみに!

2月17日には集英社新書から『「それから」の大阪』が刊行とのことですよ! これまた楽しみだ~~!

 

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