2代前の面影を残す相互館110タワー

信号待ちの時間に、ふと顔をあげてみると独特なデザインのビルがある。

古典的…といっても、どこかロボチックで、どう見ても復元や保存といった雰囲気ではない。
普段下を向いて歩いているせいか、何度か通っているのに気づかなかった。

さらに回り込んでみると、建て替えるビルの解説板があった。

知って納得。この戦前のビルのイメージを継承したものなのか。
塔屋もそうだけど、その下の三連の出っ張った窓の形もそっくりだ。
第一生命の本社が入っており、当時は地域のランドマークになるような高層建築(高さ45m)だったそうだ。


老朽化や耐震性などで、日本の戦前の建物ってけっこう取り壊されることが多い。保存された方がいいのだろうけど、こうして昔の面影を残して建替えるのも、これはこれで愛があると言えるんじゃないか。
こういうの、試しに「面影ビル」と名付けてみよう。
知らないと謎デザインだけど、知っている人には「ああ、あれをイメージしてるのか!」と腑に落ちるのが面白い。

Author:Kyobashi Fire stationGekkan Hoken Hyoron (1952) /CC BY SA 4.0
さらに面白かったのは、今のビル、隔世遺伝なのだ。
最初のレトロな第一相互館が取り壊された後、まったくデザインを継承していない2代目オフィスビルが建てられ、その後に第一生命110周年を記念して2012年に建てられたのが今の相互館110タワー。
父に反抗した息子と、おじいちゃんの意志を継ぐ孫って感じか。
こりゃ面白い。なんか人間味が出てきたぞ。

さすがに隔世遺伝…というのはなかなかないけど、父から子へ…という面影ビルはけっこうあるんじゃないか。
大阪にある阪急うめだ本店は、自分が関西へ大学進学した2009年にちょうど新築して話題になっていた。

これも復元や保存ではなく、低層部に当時の面影・イメージを継承したビルのひとつだと思う。かといって、完全なデザインの再現ではなくて現代的にアレンジもされている。
大阪の人ならこれぞ阪急…と思うんだろうけど、旧ビルを知らなければいまいちピンとこないのが面白い。
こういうの、もっと探してみたいぞ。
東京駅周辺の「面影ビル」を探せ
面影を残すにしても、古くから立派なビルがあるところじゃないと残せない。
となると、探すならまず東京駅周辺の都心部だろう。(日本橋、八重洲、京橋、銀座、有楽町、日比谷、丸の内、大手町あたり)

2018年に華々しくオープンした新しいビルである。
低層階、しかも一部だけクラシカルな雰囲気の石張りだ。

これも、れっきとした面影ビルだった。

Author:Lover of Romance~commonswiki (2006) /CC BY SA 3.0

実際のところ、道路の付け替えなどもしているため、三信ビルとミッドタウン日比谷の再現部の場所は異なっているそうだ。
けど、ちゃんと作った人が意識しているのがわかる。
こういうデザインの継承は、知ってる人は昔あんなビルがあったな…という記憶を呼び起こせるし、昔を体験していない身としては謎解きみたいで面白い。


次はさすがに自分でも知っているふたつのビル。

このふたつのビル、低層部と高層部で大きさが違うけど、低層部は昔のビルのボリュームを再現しているらしい。

デザインは違うけど、東京駅の玄関口として高さ・大きさだけ継承して街並みをつくっている。
これもまた面影ビルといえるだろう。

さて、次に見つけたのは変わり種。

これも並べてみると納得だ。
銀座一丁目交番は、1922年にできた石造りの京橋(もともと橋の名前だった)の親柱をあきらかに意識している。
それにしてもこの橋、かわいいな。