清流の里でお金の話を聞く
やって来たのは長野県の南西部にある南木曽(なぎそ)町。
ジブリの映画『もののけ姫』を実写化するなら舞台はここだと思うほど、見わたすかぎり山にかこまれている。
今回ご協力いただいたのは、そんな山あいの町にある志水木材産業さん。
創業は昭和19年。もともとは丸太から材木を切り出す仕事をやっていて、40年ほど前からその端材の活用として桶づくりを始めたのだそうだ。
そんな志水木材の3代目となる、志水弘樹社長にお話をうかがった。
志水社長と僕はもちろん初対面。今回のインタビューは、そんな社長にいきなりお金の話を聞くという厚かましいものだ。
でもありがたいことに、会社のそばにはきれいな川が流れていた。
もし失礼があった場合はこの川の水に流してもらうことにして、早速もうけの話を聞いていこう。
桶は年中まんべんなく売れている
高瀬:どんな桶を作ってるんですか?
志水:おもに寿司桶・おひつと風呂桶を作っていて、だいたい売上の40%を占めています。その中でも圧倒的に多いのが寿司桶ですね。
石川:桶屋さんって風呂桶のイメージが強かったんですけど、注文が多いのは寿司桶なんですね。
志水:回転ずし以外のお寿司屋さんは必ず使いますからね。特にうちはプロが使う大型のものを得意にしてるので。
高瀬:よく売れる時期ってあるんでしょうか。
志水:寿司桶も風呂桶も、業務用のものは季節に関係なく1年中売れてます。消耗品なのでこわれたら買うという感じです。
高瀬:一般からの注文はどうでしょう。
志水:ひな祭りとか子どもの日とか、ちらし寿司を作る行事の前はすこし注文が増えますね。ただそもそもそんなに多くは売れないので、だいたい在庫で対応できちゃいます。
高瀬:1年の中で特別もうかる時期がある訳ではないんですね。
旅館に補助金がでると桶屋がもうかる
高瀬:先ほど桶の売上が40%ということでしたけど、他には何を作っているんでしょうか。
志水:大型の桶というイメージになるんですけど、ヒノキ風呂のような人が入る木のお風呂も作っています。
志水:例年これが売上の30%ぐらいなんですけど、今年はちょっと忙しくしていて。
高瀬:何か理由があるんですか?
志水:3月まで国がホテルや旅館のリニューアルに補助金を出してたんですよ。客室に露天風呂をつくる場合は費用を半分負担しますとか。それが特需になっていて。生産が追いつかなくてかなりお断りもしたぐらいです。
石川:4月以降も忙しさは続いてるんですか?
志水:補助金は終わったんですけど、今度は海外から観光客がたくさん来てくれるようになって。そうすると旅館も施設に手をかけようっていうことで、改装がつづいてますね。
インタビューをしていたオフィスの壁を見ると、JR東日本の高級寝台列車「四季島」のポスターが貼られていた。
この電車のスイートルームにはなんとヒノキ風呂がついていて、志水木材さんはそちらも作ったのだそうで…
高瀬:こういうの作りたいってなった時に、お話が来るのがすごいですね。
志水:それがですね、JR東日本の事業なので営業エリアの業者を使うっていうことになってたんですよ。でもその中にヒノキ風呂をつくれる桶屋はうちしかいなくて。
高瀬:あはは、そういう特需もあるんですね。
志水:おかげさまで素晴らしいプロジェクトに参加させていただきました。
年度末はコストが変わる
高瀬:「もうかる」でいうとコストも関係してくると思うんですけど、時期によって上がり下がりはあるんでしょうか。
志水:年度末は丸太の価格が変わりますね。
高瀬:そもそも丸太ってどこから買うんですか?
志水:我々が使うのはほとんどが国有林の材で、林野庁の下の森林管理局っていうところが切って市場におろすものを買うんですけど、
高瀬:国から買うんですね。
志水:年度末になると、その年の収入をコントロールするために市場にだす量を調整するんですよ。今年はちょっと収入少ないからいっぱい切って売りにだそうとか。その量によって競りや入札の価格が変わります。
高瀬:じゃあ年度末は価格が変わることは分かっていても、上がるか下がるかは分からないんですね。
志水:そこはもう国の考え次第なので。だから年度末に丸太がたくさん出た時は、安くなるのでいっぱい買って蓄えるようにしています。