ことわざが「桶屋でも食べていける」と思わせてくれる
さて、先ほど「金属の輪っか」と紹介したパーツがあった。
実はあれは「タガ」と呼ばれていて、緊張感がなくなって制御がきかなくなることを表す言葉「タガが外れる」の語源になっているものだ。
タガが外れた状態で落としてしまうと桶はバラバラになってしまうとのこと。怖い。わが身では絶対外すまいと誓った。
「風が吹けば桶屋がもうかる」といい「タガが外れる」といい、桶は語源のオンパレードだ。それだけ昔は桶屋が一般的だったんだなと思う。
ただ、それはあくまでも昔の話。
当時とは時代も環境もちがう今、現役の桶屋さんは「風が吹けば桶屋がもうかる」をどう思っているのだろうか。
そもそも桶屋がもうかる時ってあるのかなとは思うんですけど(笑)
志水:ことわざを通じて、桶職人になっても食べていける印象を持ってもらえたらいいですね。みなさん桶屋で子ども養っていけるのか疑問だと思うんですけど、ちゃんと私立大学を卒業させるぐらいはできますから。
高瀬:一般人からすると、このことわざがなかったら桶屋を思い浮かべる機会もないですもんね。
志水:そうですね。だから今は桶屋が忘れられないためのことわざにもなってそうですね。
石川:風が吹いたら桶屋さんのことを思い出してっていうメッセージですね。
志水木材さんのホームページにはブログがあり、そのタイトルは「風が吹けば桶屋が儲かる?」。やはり桶関連でみんな知ってる言葉だからという理由でつけたのだそうだ。
現代の「〇〇すれば桶屋がもうかる」とは?
では最後に聞いてみたい。
このことわざ、現代版にアップデートするとしたらどのようになるのだろうか。
志水:「正しい食文化を思い起こせば、桶屋が生き残れる」じゃないでしょうか。
高瀬:もうかるじゃなくて生き残る。どういうことでしょう。
志水:桶のニーズって国内ではどんどん減ってるんですよ。回転ずし以外の寿司屋さんも減ってるし、一般の家庭でちらし寿司つくるところもなくなってるじゃないですか。
石川:たしかに。うちも手巻き寿司やるときはプラスチックのボウルで酢飯つくってますね。
志水:一方で、10年前に和食がユネスコの文化遺産に認定されてから海外の売上はすごく好調なんです。もはや海外の人の方が寿司桶でまぜた酢飯たべてるんじゃないかと思うぐらいに。
高瀬:回転ずしだと機械でシャリ作ってますもんね。
志水:だから国内でも昔からの食文化を見直してくれれば、桶屋は存続できるんじゃないかなと思います。
志水木材ではそば屋で使われる、そばを茹でるための大釜のふたも作っているそう(写真はそば屋のイメージ。取材先の近くで食べた天ざるそば)
余談ですがおいしすぎて石川さんが完全に仕上がっていた。
石川:見直しのひとつとして、僕らみたいな木桶になじみがない人へのおすすめはありますか?
志水:おひつですね。木って水分を吸ってくれるので、ご飯がベタベタにもカピカピにもならず、ちょうどいい湿度で保ってくれるんです。
高瀬:それは良さそう!
志水:特に炊き込みご飯は入れておくと全然ちがいますよ。ぜひやってみてください。
後日おひつを買い、炊き込みご飯をつくって炊飯器とおひつで保存してみた。短い時間なら違いはないけど、24時間たつと炊飯器はベチャっとしちゃうのに対して、おひつはフックラ感をキープしていてかなり違う。
(寿司屋が)風を吹かせば桶屋がもうかる
風が吹けば桶屋がもうかるということわざに対して「さすがにそんな訳ない」と思ったところから始まった今回のインタビュー。
桶屋がもうかるかどうかに一番大きく影響するのは、寿司屋さんや家庭など、寿司桶で酢飯をつくる人の数ということが分かった。
酢飯をつくる人たちはみんなウチワでパタパタあおぎながらご飯をまぜている。ということは、やはり風が吹けば桶屋はもうかるのだ。
桶屋さんを応援するためにも、これからこのことわざの意味を聞かれたら「酢飯づくりの風」理論で説明していきたい。
食以外のトレンドとしては、おじいちゃん・おばあちゃんに名入りでヒノキの風呂桶をプレゼントする人が増えているそうだ。これはうれしい!
【取材協力】志水木材産業
桶の購入は志水木材産業オンラインショップでどうぞ!
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連動企画
①月一連載のゲームコーナー「おぎわら遊技場」にて、「風を吹かせて桶屋を儲からせるゲーム」を公開しました!
※ゲーム内容はフィクションです。本インタビュー並びに志水木材産業様とは無関係です。
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②取材同行した編集部・石川による同行記もどうぞ。