宮古ブルーの前にあるグレー
羽田空港から直行便に乗り、3時間ほどで宮古空港に着く。
宮古島は沖縄の南西300km、石垣島の東北東130kmに位置し、8つの島からなる「宮古諸島」の中で一番大きい島である。
毒蛇のハブはいない。なので、ハブのいる島を回り切る「ハブスタンプラリー」を遂行している私の中でこの島はなんとなく後回しになっていた。
しかし、ここでしか見られない生き物が多く住んでいて、ハブがいないからべつに行かなくていいとかそういう話ではないのだ。
サンゴが長い年月をかけて隆起した琉球石灰岩で構成される島で、大きな山や川が無く、かなり平坦な地形となっている。
そのため土砂が海に流れこまず、宮古ブルーと呼ばれる世界屈指の透明度をほこる海が広がっている。要するにめっちゃ海がきれいなのである。
この限りなく透明に近いブルーに魅了され、多くの観光客がダイビングやスノーケリングなどのマリンアクティビティを堪能しに訪れる。
私もそんな宮古島の海を巡っていたのだが、注視したのは宮古ブルーではない。ブルーの手前にあるゴツゴツした岩場、「宮古グレー」である。
美ら海(ちゅらうみ)を横目に探し求めているのはこの岩場に住むトカゲである。名をミヤコトカゲという。
宮古島とその周囲の下地島、池間島などに生息している。国内では唯一、海岸の岩場で暮らす(岩礁性)トカゲである。体長は20cmほど、岩の間をすばやく駆け回り、フナムシや昆虫を食べている。
護岸や埋め立てなどの開発による生息環境の劣化・消失などにより生息数を大きく減らし、環境省第5次レッドリストでは絶滅危惧ⅠA類(CR)(深刻な絶滅の危機に瀕している種)に指定されている。
このトカゲを見るために宮古島の海を回ったが、4日間で見つけたのはわずか2匹、撮影できたのはこの1匹だけだった。そこにいたる顛末を語っていこう。
相手は速いのでパノプティコン作戦
生息域が海辺に限られているのだから、なんだかんださくっと見つかるだろうと思っていたが、周囲を海に囲まれた宮古島の岩礁で20cmたらずのトカゲを探すのはやってみるとだいぶきびしい。
ゴジラの皮膚のようにでこぼこした岩場は人が歩くにはかなり不便で、けつまずきながら歩く私をむこうが先に発見し、あっという間に逃げてしまうだろう。
瞬発力に動体視力も衰えきっているおっさんが現役バリバリのトカゲに彼らのホームグラウンドで反応勝負を挑むなど、目を閉じてイチローの盗塁を阻止するくらい無謀だ。
歩き回った末にようやくちょろっと出てきた1匹にするっと逃げられ、かなりの徒労感にさいなまれた私は作戦を切り替えた。素早いだけのトカゲと違って人類には叡智があるのだ。
もうこっちからは動かない。超望遠レンズを装備したカメラを手に生体反応を可能な限り抑え、ぼーっと岩場を眺める。
そのうち安心しきった彼らはエサ探しやひなたぼっこのために岩の上にのそのそ出てくるだろう。そこを遠目から、パノプティコン※の監視者のように発見する待ち伏せ作戦である。
※哲学者ベンサムが考案した、中央の監視塔から全囚人を監視できる円形の刑務所
待てど暮らせどトカゲは現れない。岩の隙間からなんか出てきたと思うとたいがいカニでがっかりする。カニは悪くないが今回お前は探していない。
ゆっくり待てばいいかと思ったがそうでもない。場所によっては近くにビーチもある。でかい望遠レンズを抱えてたたずみ、「いやちょっとパノプティコンをですね......」とか言ってるおっさんは側から見れば不審者以外の何者でもない。
そういうところはほどなく岩場にも人があふれてきてトカゲが出そうな感じがなくなってしまい、パノプティコンも機能不全になるのでスポットを変えることになる。
3日回ったが結局逃げられた1匹以外に見つからなかった。


