日本在来馬とは
ハブやら蛇やらを探して訪れた南国で小さい馬を見かけた。
「日本在来馬」と呼ばれ古くから日本で洋種と交配する事なく残ってきた馬達で現在8種が存在している。北海道の道産子が有名だ。
サラブレッドなどの洋種と比べると体格はかなり小型、古くから軍馬や農耕馬として活躍してきたが1960年代のモータリゼーションによる需要減などで飼育数も減少の一途をたどり、現在では各産地で保存会などの保護活動により命脈を保っている。
「日本最小の馬」野間馬(のまうま)
小ささが特徴の在来馬8種の中でも小さいオブ小さいのがタオルで有名な愛媛県今治にいる「野間馬(のまうま)」というシマウマっぽい名の馬らしい。シマウマはもちろんトカラ馬や与那国馬、ヤオハンポニーと何が違うのか。ぜひとも見に行こう。
街をブラブラしていても特に野間馬をアッピールするような施設、メディアは見当たらない。
今治港近くの土産店で聞いたら「あんまり地元で宣伝みたいなことはしてないですね、けどみんな知ってはいるんじゃないですか」との事だった。
街に野間馬の気配はあまりない。そんじゃあどこに行けば会えるのか。今治の市街地から車で15分ほどの丘陵地に開かれたランドにいるのだ。その名も「のまうまハイランド」
野間馬の保存・繁殖を目的として結成された「野間馬保存会」によって運営される野間馬の飼育・展示施設である。
平成元年に前身の「野間馬放牧場」から整備拡張され「のまうまハイランド」として開園された。敷地内には野間馬を観察したり触れ合える放牧場や遊具、資料館が設置されている。
入ってすぐの放牧場ではエサを食べた野間馬達がぼちぼちぶらつきはじめていた。
だいたい皆高さ1mと少しといったところか。実際の大きさよりも顔や脚など各パーツのバランスが小さい感を強調している。
間違えて子馬の体に大人の馬の首を乗っけてしまったような、コンテナをつけていないトラックのようなアンバランスさが愛らしい。
「シマウマ?ははは、いやもう全然違うでしょう」
そんなもん話題にした事もないわといった感じで答えてくれたのは園長の小澤 剛さんである。
「まあでもシマウマなんかは動物園で見てもどこか野性味があるけど、野間馬は人なつっこくてそういう緊張感は無いからね、そういうのは実際見てみるとわかる違いかもしれないですね」
――たしかに。野間馬はがんがんこっちに近寄ってきますね。
こちらの姿を見かけたら駆け寄って来る。
カメラに異様に興味をしめす。「ソニーのミラーレスじゃないっすか」
「噛まれるおそれがあるので口の前には手を出さんようにしてくださいね。首の横あたりを撫でてやるといいです」
そうかと思うと突然立ち止まってこちらに全く興味を示さなくなった。ムラッ気あるなー。
「いや。あれは寝てるんですよ、片方の後ろ足をちょっと曲げて休んでるんです」
――馬は立ったまま寝るんですね。
「危険を感じたらすぐ逃げ出せるように基本は立ったまま寝ます。ただ、うちのは…」
「安全なんでしょっちゅう座ったり横になったりしますね。時々お客さんから『牧場で馬が死んでますけど』と言われるんですが……」
――死んだと思うのも無理がないくらい弛緩しきってますね……。
4頭しかいなかった
日本一小さいといわれる野間馬だが具体的にはどのくらいの大きさなのか。
「体高といって体の高さが105cmくらいから今では大きくても120cmまでいかないぐらいですね」
――何頭ぐらいいるんですか?
「今、ハイランドで飼育しているのは49頭です。一時は80頭を越えましたが、施設の規模の問題なんかもあって他の動物園に譲ったり貸し出したりしています。みんな昔最後に残った4頭からの子孫です」
――たった4頭から!
小さい馬が残された
野間馬のルーツは今から380年ほど前の江戸時代、当時の藩主久松定行が舎弟の今治城主久松定房に命じて、来島海峡の馬島という小さな島に軍馬用の放牧場を作らせて馬を育て始めたという。
――昨日馬島行ってみましたよ、何か名残りがないかなあと思って。
来島海峡の最も四国寄りにある小さな島
「行きましたか、(馬情報は)何もなかったでしょ」
――何もなかったですねえ(笑)
それもそのはず、馬島なんて名前がついているがここでの放牧はエサ不足や病気のため、あえなく失敗に終わったのだ。
そこで馬を松山領の野間郡(現在のハイランド周辺地域)の農家で育て、体高が4尺(約121cm)より高い馬は買い取り、それより低い馬は農家に無料で払い下げた。こうして小さい馬どうしの子供が生まれ、また小さい馬を生み、野間馬が出来上がったのではないかと言われている。
おとなしい性格で粗食に耐え、小さい割に力もあった野間馬は農耕や荷運びに活躍していた。
しかし、明治中頃から後期になると法律で定めた基準に満たない馬の種付けが禁止され、さらに第二次世界大戦後には冒頭で述べたようにモータリゼーションや農業の機械化によって飼育数は激減、昭和30年代にはなんと今治市に1頭もいなくなり、日本中でもわずか6頭と絶滅まったなしというところまで落ち込んだ。
しかししかし、そのうち4頭を守り育てていた松山市の愛好家、長岡悟さんが昭和53年に今治市に全頭を寄付、すごい、ノブレスオブリージュだ。
そのノブレスオブリージュにこたえるべく、今治市は「野間馬保存会」を結成し、地域ぐるみで保護・繁殖活動に取り組んできた。
昭和60年に日本馬事協会より全国で8番目、つまり最新の日本在来馬として認定され、昭和63年には今治市の指定文化財に認定された。
――奥の方で飼われている馬もいますね。
「ここではオスだけを飼っています。繁殖用の牧場で複数のオスを入れると喧嘩してしまうのでオス1頭とメス複数のグループを作り、他のオスはここで飼っています。その中でも相性があるのでさらに分けて飼わなきゃならない。馬は社会性を持った動物なので飼育下での維持繁殖にはいろいろケアが必要になります」
――あーあの更に奥にいるやつですか。
「あれは気性が荒くて他の馬をすぐ攻撃するので離して飼っています。私も後ろ脚に止まったアブを払ってやろうとしたら胸のあたりを蹴られました」
希少な在来馬、野間馬が育ち、寝転ぶハイランドで社畜が家畜から貴重な学びを得た。
「のまうまは全然シマウマじゃない」
「馬とゴルゴ13の後ろには立つな」
積極的に前に立っていこう。
ちなみに野間馬は2008年に上野動物園にも寄贈されているので上野に行けば野間馬も、なんならシマウマも一度に見る事ができるのだがやはり原産地に行く。それが私のノブレスオブリージュなのだ(なにが)
■取材協力
のまうまハイランド
〒794-0082 愛媛県今治市野間甲8
・入園料・駐車場:無料 ※一部有料の施設があります。
・休園日:毎週火曜日(祝日と重なった時は翌日)・年末年始
※園内入場可能ですが、まきば館、乗馬、小動物ふれあい、メロディーペットはお休みです。
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