特集 2024年10月29日

見えてるのに行けない場所

東京の飯田橋の駅前に、見えてるのに辿り着けない妙な歩道がある。いったいどうなっているのか。そんな場所を巡ってみた。


飯田橋駅前に妙な歩道がある

東京の飯田橋駅のそばに、どこからも辿り着けない歩道がある。
(荻窪圭さんの『東京「多叉路」散歩』という本で知りました)

iidabashi-1.jpg

矢印の場所だ。歩道があるのだが、よく見るとどこにもつながっていない。左にいっても右にいっても、車道にぶつかってそこで途切れている。

別の角度から見てみる。まず左側は植え込みで途切れていて、その先は車道だ。

iidabashi-4.jpg

右側も同じように植栽で途切れていて、その先は車道になっている。つまりこの歩道は、どこにもつながっていないし、どこからも辿り着けない。ただそこに存在しているだけの純粋な歩道だ。 

問題の場所を真上から見るとこうなっている。歩道内には花壇が置かれて、いくらか植物も育っているようだ。

感慨深いのはその脇に設置された緑色の柵だ。これはふつう「ガードレール」と呼ばれるが、実際には歩行者が車道に出てしまうのを防ぐためのもので、横断防止柵という。しかし、この歩道を歩く人は存在しないのだ。それなのに、横断防止柵は設置されている。

写真中央の矢印のところには「飯田橋」と書かれている。この歩道が設置されているのは「飯田橋」という名前の橋なのだ。写真左下の暗くなっているところが川である。

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どうしてこんなことに?

しかしこの歩道、どうしてこんなことになっているんだろうか。どこからも辿りつけない歩道をわざわざ作るとも思えない。

経緯としては、おそらくこういうことだろう。

地理院地図より1969年ごろの飯田橋の航空写真に加筆

これは55年前の飯田橋のようすだ。中央の赤い点が、問題の歩道のあるところ。川の上に飯田「橋」がかかり、歩道が対岸を結んでいるのが分かる。

地理院地図より1978年ごろの飯田橋の航空写真に加筆

それから約10年後、中央の赤い点のある歩道の右側に、新しく橋ができている。それによって問題の歩道が上も下も車道によって分断され、島のように残ってしまった。

橋としての飯田橋が作られたのは1929年だそうだ。つまり、あの歩道は出来てから約50年間はただしく歩道として機能していた。しかしその後、隣にできた橋のせいで分断され、その後の50年は現在に至るまで、誰にも歩いてもらえない歩道としてそこにただ存在している。

しかし注目したいのはこの横断防止柵が最新式のものだということだ。50年前に機能を失ったあとも、歩道はただ放置されたわけではなく、存在しない歩行者のために日々メンテナンスされているのだ。なんとも感慨深い。 

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他にもこんな場所はないか?

ここは言わば、見えてるのに行けない場所である。こんな場所が他にもあったら面白い。

ただし、「見えてるのに行けない」というだけなら、たとえば立ち入り禁止の場所とか、月とか、そりゃ行けないですよねというものがいっぱい考えられる。この歩道の面白さは、すぐそこに見えてて、ルール上も立ち入れそうに見えるのに、実際には辿り着けないというところだと思うのだ。

そんな場所、他にも知りませんかと当サイトのライターに聞いてみたところ、以下のような場所を教えてもらった。

1. 新宿ルミネエストの2階の吹き抜け
2. 新宿駅西口の歩道橋の下
3. 白金高輪の駅前の路上
4. 銀座の新数寄屋橋の下
5. 秋葉原の万世橋の下部

順番に行ってみた。

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新宿ルミネエストの吹き抜けの脇

「新宿駅にも似たような空間がある」と教えてくれたのは、当サイトマスターの林さんだ。トルーさんと取材中に見かけたという。

新宿駅のルミネエストという施設の、吹き抜けの2階部分だ。矢印のところに特に使われていない、どこからも辿り着けない空間があるという。

林さんが送ってくれた写真より

この矢印のところだ。よく見ると写真の右上に窓ガラスがある。2階に登って、その窓から見てみることにした。

たしかに、微妙に空間があるといえばある。すくなくとも天井から灯りは落ちているようだ。

2階のマップではこうなっている。赤く囲ったところ。吹き抜けなのでバッテンになっている。

しかしこの空間、昔からこうだったのだろうか? もしかしたら以前は人が立ち入ることができたのか。

調べてみたところ、こんな写真が見つかった。

『新宿寸景・新宿ステーションビルにて』GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 「新宿ステーションビルにて」という昭和49年の写真だ。新宿ステーションビルというのは、いまのルミネエストの2代前の施設名(その後マイシティになった)である。

写っているのは同じ吹き抜けだが、この写真は具体的にどこから撮られたのだろうか?

矢印の先に時計があるのが見える。

これが現在の写真だ。同じ時計がある!

つまり、昭和49年の写真は同じ吹き抜けを逆から見ているということだ。ということは、まさにいま注目している謎の空間から撮った写真になるのではないだろうか。

とすると、以前はこの謎の空間に立ち入ることができたということになるのではないか?

余談:
この吹き抜けは、空間を広くとることで客の混雑を避けるために作られたものだそうだ。西武新宿線の新宿駅のホームになる予定だったという噂話もあるが、それは正しくないらしい。

参考:骨まで大洋ファン:新宿駅東口2階の吹き抜けに西武新宿線が乗り入れるはずだったのか?

⏩ 新宿駅西口の歩道橋の下に入れない空間がある

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