緊張しています
友だちから、自宅の庭でバーベキューパーティーをやるから来ないかと誘っていただいた。
うれしく参加表明させていただいたのだけれど、参加者の中で知っているのは誘ってくれた友だちだけで、あとは全員初対面なのである。こういう時って何を持って行ったら正解なのだろう。
現在わかっている情報は以下
・閑静な住宅街にあるおうちの
・庭でバーベキュー
・仕事関係の人と、ご近所さんが参加します
すでに緊張感ただよう情報ではないか。
その友だちの家には何度か行ったことがあるが、素敵すぎて帰ってから自分ちの冷蔵庫の中身を全部出して掃除した。そのご近所さんであるからして、これはただ事ではないのだ。
もう少し若いころだったら少々奇抜なものでも持って行って「尖ったやつ」みたいな印象を狙ったかもしれないが、僕ももう十分に大人である。やばいやつと思われるよりは一緒に仕事したい人、と思われたい。
というわけで前日から悩みに悩んだ。
普通の肉ではダメだろう問題
バーベキューといえば肉だが、だからといってどんな肉でもいいわけではないと思うのだ。
つまり持参するなら僕らが普段スーパーで買っているような「豚バラ薄切りファミリーパック」とかではなく、骨がついたやつとかにすべきなのだろう。
アメリカに住んでいる知り合いはよくかたまりの肉を買ったりしているようだが、そんなのうちの近所には売ってない。
そもそも骨付きのかたまり肉を持ってこられても困るかもしれないだろう。僕なら困る。つまり却下である。
つまみはイカでいいのか問題
お酒のつまみを持って行くのはどうだろうか。焼かなくていいものだと気が利いていないか。
肴は炙ったイカでいい、とかつて演歌歌手は歌っていたが、今回僕が招待された家では演歌が流れているのが想像できない。
となるとイカではダメなんじゃないか。演歌じゃない人はつまみになに食べるのか。
高い酒はわからない問題
ならばお酒は?とも考えたのだが、僕はそもそも普段から安い酒しか飲んでいないので何を買ったらいいのかわからなかった。これに関しては本当にわからなかった。
だったら果物なんてどうだろう、オシャレじゃないか。
果物、熟しているか問題
果物は確かにオシャレだが、家の人に切ってもらわないといけないし、持って行った瞬間が食べごろかどうかわからないという問題がある。
ダメだ。
もうぜんぜんわからなくなった。花束なんてどうかなとか思いついたが、同時にずっと前に「パーティー行かなあかんねん、なんかお土産見繕って!」みたいなコントがあったのを思い出してやめた。
当時は腹を抱えて笑っていたのだが、まさか自分がその状況になるとは。
プロに任せることにしました
一人で考えてもわからなくなる一方だったので、その道のプロに聞くことにした。
僕が住む街でもバーベキューは盛んなのだが、その文化の枢軸を担っていると言えるお店が近所にあるのだ。
茅ヶ崎駅の近くに「魚卓」という魚屋さんがあって、そこの店長浅見さんとは長い付き合いなのである(参照)。百戦錬磨の彼ならば、持参してウケる手土産を厳選してくれるはずだ。
ーー浅見さん、じつはこれからバーベキューパーティーに呼ばれてるんですが、みんな初対面でまだ仲良くないんです。そういう時に先手がとれるというか、やっぱり安藤さんは違うな、みたいな感じに見られたいんですが、なにかいいものありませんか?
「わかった!おーい(厨房に向かって)、安藤さんがさー、仲良くねーやつとバーベキューやるから目立ちたいんだって。あれあっただろう、マグロのさ、そう、それ。ちょっと出してきて!」
声がでかい。しかも初対面というだけで仲良くないとは言ってないだろう。
でもこういうスカッとしたところが好きで僕らはこのお店に通っているのでいまさら文句はないし、むしろわけもなく自信がついた。
浅見さんが出してきてくれたのはマグロのカマ(頭の部分)だった。
忘れていたが、浅見さんはかつて近所のバーベキューでマグロの解体ショーを手配した男だった。
限られた自治会予算の中からどうやってマグロと職人を手配したのか、いまだに謎だし聞いてはいけないこととして伝説と共に封印されている。
そもそも初対面でマグロのカマを持って行って大丈夫なのだろうか。しかしその頃には僕も浅見さんのマインドが乗り移っていて、カマなら場を掌握できる、そう思い始めていた。
ーーでもカマって焼けるのに時間かかりそうですよね。もう少し一般的な、というか、度肝を抜かれないタイプの食材ってありませんか。
「うーん、だったら貝かなー」
「ホタテとかハマグリとかはさ、バーベキューの定番だからぜったい喜ばれるよね。この宮城のホタテは貝は小さく見えるけど中身がばかみたいにでかいからおすすめだよ」
いいではないか。ふと(これもしかしたらホタテだけでいいんじゃないの)とか思ったのだが、浅見店長のおすすめとしてはカマあってのホタテなのである。信じてついていくことにした。