最初に戻ります
というわけでマグロのカマとホタテをぎゅうぎゅうに詰め込んだクーラーボックスを手に、僕は閑静な住宅街を歩いているのである。
カマ出せる雰囲気じゃない
集合時間の5分前についてしまったので少しどこかで時間を潰した方がいいのかなとも思ったが、とにかく暑かったしカマが重かったので呼び鈴を押した。遠くの方でチャイムの音がしてホストである友だちが顔を出す。
「安藤さん!来てくれてありがとう!どうぞ~」
僕がカマを持っていることをまだ知らない友人は、広くて天井の高いリビングを抜けて、お庭にセットされたパーティー会場まで僕を連れて行ってくれた。短パンで大丈夫だった。途中、でかいテレビが壁にかかっていた。
会場を一目見て思った、これはカマを焼く雰囲気ではない。芝生じゃないか、そしてなにその知らない調理器具。ママチャリでツールドフランスに来てしまったみたいなアウェイ感である。
「ほかのみんなが来るまで待ってて~」といって出してくれた料理もカマとは正反対だった。
しかも美味しいし。
いや、カマだって焼けば美味しいはずなのだけれど、もはや平行世界の話みたいになってきた。転生したらカマ持って歩いてた件、である。
このあとみんなが集まってから焼いてもらったピザもうっとりするほど美味しかった。
僕の心配をよそに場は盛り上がり、全員の名前も覚えてちょっとしたつっこみができるくらいになってきた。
それにしてもみんな信じられないくらいいい人たちである。食べ物もぜんぶ美味しいし本当に来てよかった。生まれ変わってもまたここに戻ってきたい。
安心感でカマのことを忘れかけていた時である。なんとウインナーが焼かれ始めたのだ。
カマ出すなら今!
ウインナーで風向きが変わった気がした。カマを出すなら今ではないか。いけ安藤、魚卓の実力を見せてやれ。
ーー近所の魚屋さんでさ、これを買ってきたんですけど、焼いてもいいですかね。
「えー、なになに?」
浅見さんの思惑通り、場を掌握した瞬間だった。最高です。
大好評でした
誘ってくれた友だちに気をつかって書くわけではないが、このバーベキューパーティーは本当に楽しかった。
初対面なのにみんな気さくで、僕みたいに卑屈じゃないし、持ち寄ったものを全員で褒めて美味しいねと言いながら食べた。もちろんマグロのカマもである。
カマは正直焼くのに時間がかかったので最後までドキドキしていたのだが、焼け始めたらみんなでつついて「美味しい!ここも食べられるんだ!」とすべてに感動していた。
ホタテも大好評だった。結果的に店長浅見さんの読みが完全に当たったのだ。というわけで、初対面の人におよばれしたときは、マグロのカマを持って行け、というのが現時点での結論です。これによって失敗しても責任は負いませんが。