特集 2025年10月29日

ノルウェーのキットカットもどきを食べてみた

夏休み中、ノルウェーから遊びにきた友人が「クイックランチ」というおかしを持ってきてくれた。

ノルウェーでは定番のおかしだそうだが、開けてみるとミルクチョコがかかったウェハースが4本。

一本ずつパキッと割って食べるスタイルも、形も、味もなんだか見覚えがある。あれっ、これはキットカットじゃないか!

このノルウェー産のキットカットのドッペルゲンガーがとても気になるので、ちょっと探ってみた。

1986年東京生まれ。ベルリン在住のイラストレーター兼日英翻訳者。サウジアラビアに住んでいたことがある。好きなものは米と言語。

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キットカットのドッペルゲンガー「クイックランチ」

夏休み中、ノルウェーの友人が私の住むドイツはベルリンに遊びにきた。

お土産にノルウェーのおかしを色々持ってきてくれたのだが、中でも「クイックランチ」というおかしが定番中の定番だと言う。

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友人のハイジが持ってきてくれた「クイックランチ」
ぱっと見ると読みにくいけど、発音的にはほぼ「クイックランチ」

さっそくパッケージを開けてみると、

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なんだか見覚えのあるフォームに……
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なんだか食べたことのある味

味も形も、4本入りをパキッと割って食べるスタイルも、ほぼキットカットじゃないか。

 

ハイジによると、クイックランチは90年来ノルウェーで広く愛されてきたおかしなのだそう。確かにキットカットに似ているけれど、キットカットとは全く違うものなのだとか。

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でもなんでここまでキットカットとそっくりのものが、ノルウェーの国民的おやつなんだろう。いや、もしかしてクイックランチが元祖だったりするのか?

なんだかとても気になるので、調べてみることにした。

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見た目はほとんど同じ

このクイックランチ、キットカットとどう違うのか。まずは物理的なところから探ってみよう。

まずはパッケージから。

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キットカットはネスレ社、クイックランチはノルウェーの老舗お菓子メーカーであるフレイア社が作っている

キットカットのお馴染みの赤いパッケージに比べて、クイックランチの赤・黄・緑の色合いはなかなか独特だ。なんだか国旗っぽさもある。

もしやと思って北向ハナウタさんの国旗の記事を読み返してみたら、この色の組み合わせはアフリカの国旗に多かった。

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アフリカの国旗を思わせるクイックランチのパッケージ。ノルウェーだけど

次にサイズを比較してみる。並べてみるとクイックランチの方がひとまわり大きいことがわかる。

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キットカットは41.5g、クイックランチは47g
クイックランチの表面にはフレイア社のロゴであるアフリカハゲコウが。アフリカに生息するコウノトリらしく、あまりノルウェーと関係なさそうだがかわいい

ついでに断面も見てみたが、こちらもほとんど一緒だ。

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クイックランチの方が少しウェハースが厚いのが分かる

比べてみる限りほぼ同じおかしに見えるのだが、ハイジはクイックランチの方がおいしいと断言している。

果たして味の違いはあるんだろうか。食べ比べてみよう。

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クイックランチの方が若干好み

まずは私たちがよく知るキットカットの方から。 

今回食べたのはドイツ産のキットカット

外のチョコはしっかり甘く、中のウェハースはサクサク。可もなく不可もなく、私が想像するキットカットの味だ。

次はクイックランチを食べてみよう。 

あ、ちょっと違う!

ウェハースに香ばしさがあって、キットカットより厚みがあるからかザクザク感が強い。

そしてチョコがキットカットほど甘くないので、ミルクチョコレートがあまり得意でない私にはありがたい。

初めて単独で食べた時はわからなかったが、比べてみると確かにちゃんと違いはある。クイックランチを食べ慣れたノルウェー人にはきっと分かる違いなのだろう。

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アウトドア王国、ノルウェー

味の違いは分かったが、一体なぜこのキットカットもどきがノルウェーの定番おやつになったのだろう。 

その理由には、ノルウェー人の国民性がヒントになる。

ノルウェーは、ヨーロッパ屈指のアウトドア天国。壮大な大自然に恵まれたノルウェーでは、ハイキング、スキー、キャンプなどを楽しむことが日常の一部になっているそうだ。

西ノルウェーの美しい自然

コンクリートに囲まれて育った私のような人間と違い、自然と生きるという概念がノルウェー人のDNAに組み込まれているのでは、と思うことがある。 

いつか同じくノルウェー人の友人のマリアに「雨が降ってるのになぜ傘をささないの」と聞いたら「自然と自分の間にバリアを張ってるというか、自然を拒否してるみたいで好んで使わない」と言っていたのを思い出した。自然に対する考え方が根本的に違うことに目から鱗が落ちた瞬間だった。

マリアの実家近くの山。確かにこんな場所では傘は無駄な抵抗にしか感じないだろう

もちろんノルウェー人でもインドア系の人はいるだろうが、日本人と比べて自然を身近に楽しむ精神が根付いているのではと思う。 

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クイックランチは山登りの友

話をクイックランチに戻そう。クイックランチのルーツを調べてみると、1936年にフレイア社の社長の息子がイギリスからキットカットを持ち帰ったのが誕生のきっかけなのだとか。

そう、クイックランチは、間違いなくキットカットの紛い物として生まれたのだ。

そんな偽キットカットとして誕生したクイックランチが、90年近くの間ノルウェー人の心を掴んできた理由は、フレイア社のマーケティングにある。

パッと食べれて栄養補給ができるということで「クイックランチ」と名付けられたこのおかしは、アウトドアのお供にぴったりな「行楽用チョコレート」として売られるようになった。

それが自然を愛するノルウェー人の心に響き、瞬く間に大ヒット商品となったそうだ。

クイックランチのコマーシャル。アウトドアのシーンがガチである

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1960年代以来、クイックランチのパッケージに書かれている9つの登山の心得。計画やルートを家族や友人に伝える、無理をせず引き返す勇気を持つなど、基本的なルールが書いてある

それ以来「アウトドアといえばクイックランチ」というポジションは完全に定着し、ノルウェー人にとってアウトドアの思い出とクイックランチは切っても切れない関係になったのだ。

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キットカット vs. クイックランチ

クイックランチの人気の理由は分かったが、逆にはキットカットってノルウェーに存在するんだろうか。

調べてみると、キットカットが正式にノルウェーに進出したのはなんと今年、2025年らしい。

これまでは輸入食品スーパーなどでは見たことがあるとハイジは言っていたが、キットカット商品が正式に一般のスーパーなどに入ってきたのはごく最近のことらしい。

しかも、キットカットがノルウェーに進出したと言っても、ノルウェーで買えるのはボール版とチャンキー版のみで、クイックランチのような4本入りは売り出していないようだ。

ノルウェーで正式に売られているキットカット商品
キットカット公式サイトから

これだけクイックランチ愛が強い国で、4本入りのキットカットは勝ち目がないことをネスレも承知なのだろう。

だがクイックランチは、もとはいえばキットカットの真似っこ商品。ノルウェー市場を独占されていることに不満を感じたのか、2006年にネスレはキットカットの「4フィンガー」の形状を商標登録を試みたのである。

商標が通ってしまえばクイックランチが存在できなくなってしまう。それに対しフレイヤ社の親会社であるキャドバリー社が反対したことで商標紛争が始まった。

長年にわたる争いの末、この形状の独自性は認められないとEU司法裁判所によって判断され、2018年に晴れてキットカットの商標登録が取り消されたそう。

まあ最初に真似されたのはキットカットじゃないかと言ってしまえばそれもそうなのだが、とりえあえずキットカットとクイックランチが共存する世界が続くことになって私は嬉しい。

キットカットもどきじゃない、クイックランチ

キットカットとクイックランチについて書いておきながら、キットカット売上世界ナンバーワンの国は日本だということをすっかり忘れていた。

キットカットのフレーバーがごっそりある日本から見たら、クイックランチとキットカットの微妙な味の違いなんてどうでもいい話である。

でもだからこそ、ノルウェー人のクイックランチに対する思い入れとこだわりの強さが本当に印象的だった。

日本人がキットカットを食べて受験生活を思い出すように、ノルウェー人はクイックランチを食べて家族でハイキングに行った時のことを懐かしく思うんだろう。

ちなみにノルウェーのおかしで一番気に入ったのは、とんがりコーンにチョコレートをかけたような「スマッシュ」。最近はドイツでも手に入るようになって嬉しい
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