ライオン町
まず、ライオン町。これはシンガポールです。
シンガポールは、古くはトエマセク(Temasek・マレー語で港町、海の町といわれる)と呼ばれていましたが、13世紀にスマトラ島やマレー半島を領土としていたスリヴィジャヤ国の王子が占領し、シンガプラと名付け都市を建設しました。
シンガプラは、サンスクリット語でシンガ(ライオン)プラ(町)を意味しています。
なぜ、王子はライオンの町と名付けたのかはよくわかっていませんが、ライオンの強さにあやかった、シンガーという一族が住んでいた、など諸説あるようです。
タイに行くとシンハービールというビールがありますが、そのシンハーはライオンのことです。
プラは、サンスクリット語ではプルとも発音され、これは城壁などで囲まれた都市や町といった意味になるそうです。
インドの地図をながめるとジャイプールだとか、カーンプルといったように、プルのつく地名が結構みつかります。
そういえば、シンガポールの隣、マレーシアの首都も、クアラルンプールで、プルが付くなと思いいたり、調べてみたところ、これはマレー語でクアラ(合流点、河口)とルンプール(泥、濁った)が語源で、サンスクリット語ではないようです。
シンガプラは、スリヴィジャヤ国以降、マラッカ王国やポルトガル領、ジョホール王国などを経て1824年にイギリス領となります。そのさい、現在のような英語風の読み方の「シンガポール」となりました。
ライオン島
続いては、ライオン島です。これは、スリランカが1978年まで使っていた国名のセイロンの由来です。
昔の地図帳を見ると、セイロンと書いてあるのが確認できます。
スリランカは、インドの南にうかぶセイロン島を国土としてもつ国で、最近、デフォルト(破産)を宣言したことでたいへん話題となりました。
かつてはイギリスの植民地でしたが、1948年に独立し、しばらくはセイロンと名乗っていました。現在はスリランカと改称しましたが、セイロンの名はセイロン島や、紅茶のセイロンティーなどの名称に残っています。
セイロンの名称は、スリランカに住むシンハラ(シンハリ)人の民族名が由来で、もともとセイロン島はシンハドウイナ(シンハラ人の島)と呼ばれていました。
このシンハは、みなさま御存知のとおり、サンスクリット語のシンハー(ライオン)が由来です。
そのシンハドウイナが、アラビア人にサランと呼ばれるようになり、その後ポルトガル人がセイラーンと呼ぶようになり、セイロンとなった……というわけです。
ここまで書いてふと思ったんですが、日本語の獅子(shishi)とサンスクリット語のシンハ(siṃha)は、音が似てるなと思い、ちょっと調べたところ、日本語のシシ(獅子)は漢訳仏典の獅子が語源だそうで、なにかちょっと関係があるのかもしれません。(無いかもしれません)
ライオン山脈
さて、最後ですが、ライオン山脈です。これは、西アフリカの国、シエラレオネです。
シエラレオネ、といわれてもピンとこない人も多いかもしれません。
そういった方はまずはシエラレオネの国旗を見てください。
というわけで、ファミリーマートみたいな色の旗の国でおなじみのシエラレオネです。
ちなみに、西アフリカのこの辺にある国です。
シエラレオネは、15世紀にポルトガル人が現在首都となっているフリータウン周辺に上陸し、そのさい、ライオンの背のような山脈にポルトガル語でセラ・ダ・リオア(Serra da lioa・ライオンの山脈(背))と名付けました。
1500年にスペイン語の地図でシエラレオネ(Sierra Leone・ライオン山脈)と翻訳されて掲載されると、この名称が普及しました。
なお、命名のさい、フリータウンの南方にあるピケットヒルという山からライオンの咆哮のような雷鳴が聞こえたからライオン山脈と名付けた……とする資料もあります。
ちなみに、シエラ(Sierra)は、スペイン語でのこぎりという意味もあるようで、山というよりも、ギザギザで連なっている山を表す言葉のようです。
数年前のMacOSが「シエラ」という名称で、デスクトップのデフォルト画像に、山の写真がいっぱい入っていたことを思い出しました。検索すると、自動車の車名などに使われている例があるようです。
かつて、奴隷貿易の拠点であった歴史を持つシエラレオネですが、イギリスの奴隷制度廃止主義者たちが、自由の国のスローガンの元、解放奴隷の入植を進めて作ったのが、首都のフリータウンです。
ファミリーマートみたいな色使いの国旗も、緑色は農業や天然資源、丘陵地帯を、青色は大西洋と天然の良港である首都フリータウンを、そして白は平和と正義を表して、1961年にイギリスから(英連邦の一員として)独立するさいに制定されました。
緑色の部分の「豊富な天然資源」とは主にダイヤモンドのことですが、この利権を巡って、長らく内戦が続いていましたが、この内戦は2002年に終結をみました。
というわけで、以上、ライオンが由来となっている国名3つでした。
参考文献
牧英夫『世界地名ルーツ辞典』1989創拓社
蟻川明男『世界地名語源辞典』1990古今書院
辻原康夫『新版 国旗と国名由来図鑑』2014出窓社
『データブックオブザワールド2023』2023二宮書店
関真興監修『どんなところ?小さな国大研究』2013株式会社PHP研究所
帝国書院編集部編『小学校社会科地図帳』1961帝国書院
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