「軟体部を再現した標本」の衝撃

カタツムリに限らず、軟体動物は生きていたときの姿をそのまま標本にすることが難しいとされている。お肉の部分(軟体部)が腐らないようにホルマリンやエタノールで液浸標本にすると、色が変わってしまったり、なんとなくブヨッと膨れた感じになってしまうのだ。さりとて乾燥させて残るのは殻や骨だけ。
「かたつむりミュージアム・らせん館」では、死んだカタツムリの殻に樹脂で作った軟体部をドッキングさせることで、生きていた時のままの姿を展示しているという。なんという力技!話を聞いたとき「そんなことができるんだ!」と驚いたのだが、現物はもっとすごかった。




玄関を抜けて板の間に上がるとすぐに、象虫と螺旋を組み合わせたような巨大生物の像がこちらを見下ろしていて、初っ端から度肝を抜かされた。
なぜこういうものがあるのかは、おいおいわかることになる。



カタツムリの、この半透明でぬめった質感の再現ときたらどうだろう。まるで生きているようだ。というより、野外に置かれたら生きているカタツムリと区別がつかないだろう。
もちろん、軟体部はあくまで実物を精巧に模倣したリアルフィギュアだから、厳密には「標本」と言えるのは殻の部分だけなのだが、殻だけを並べるよりもよほどカタツムリという生き物のことがわかるというものだ。
はじめ、いちいち驚いて「おお!」などと言いながら見ていたのが、眺めているうちに「はあ……」という嘆息に変わり、やがて黙ってしまった。本当にすごいものを見ると、人は黙って息を呑むしかないのだ。

思わず手に取りたくなってくる。
余談だが、カタツムリとナメクジというよく似た生き物の人気にここまで差があるのは、カタツムリには殻という「持ち手」がついていて、軟体部に触らずに手に取れるところが大きいと思う。




