特集 2025年6月19日

かたつむりリアルフィギュアの衝撃。京都府木津川市にある「かたつむりミュージアム・らせん館」にお邪魔してきた

造形作家としての活動が、カタツムリとの出会いをもたらした

カタツムリに入れ上げる、このすさまじい情熱はどこからくるのだろう?そのあたりのことを知りたくて、館長の河野甲さんにお話を伺った。

ーー一つ一つの美しさも展示品の数もすごくて、圧倒されました。どういうところからカタツムリの世界に入られたんですか?

造型の仕事をしてるんですが、博物館からマイマイカブリがカタツムリを食べてるところを作ってくれっていう依頼が入りました。

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マイマイカブリは、カタツムリの殻に頭を突っ込んで中身を食べてしまうという、カタツムリからするとホラーな昆虫なのだが、これの模型を依頼されたと。

虫はもともと好きだったのでマイマイカブリはわかるんですが、カタツムリはあんまり知識がありませんでした。そこでうちの近所にいたやつを捕まえて、これをモデルにして作っていいですかって聞いたら、ダメだと言われたんです。

モデルにしようとしていたのは、クチベニマイマイっていう木の上でよく見つかるカタツムリだったんですが、マイマイカブリは木にはあまり登らないから、餌のカタツムリは地面の近くにいるやつにしてくれって言われて。ニシキマイマイがいいだろうと提案された。雨上がりに鞍馬に行ったら見つかりますからって言われて行ってみたら、鞍馬寺の壁にいました。こんな大きくて、ニシキマイマイっていう名前の由来が「錦を飾る」の錦で、非常に綺麗なんですよね。

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造形作家として活動する傍ら、博物館の生物模型を手がけていたことがカタツムリの世界につながった。これは、その当時作ったという原寸大のラフレシアだ。

それと同じ時期に、たまたまカタツムリの図鑑を譲ってもらうことがあって。それを眺めながら現物も見たりして、カタツムリすごいなっていうところからのめり込み始めたんです。

ーー先に生き物の模型作りがあって、そこからカタツムリに出会われたんですね。

そうですね。本業は造形作家なんですけど、生物造形をメインでやってて、いろんな巡り合わせで、博物館のそういう模型をやってほしいっていう依頼が入るようになってきた。

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最初に見た巨大生物は河野さんが造形作家として作った作品だった。「こんな生き物がいたら、かっこよくていいのに」という思いで作ったという。材料はレザー、つまりタンニンでなめした動物の革だというから驚き。
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カタツムリの地域性の高さが、人間の収集欲を刺激する

ーー昆虫がお好きだったんですね!マイマイカブリの話が出てきましたが、オサムシ科の昆虫は私も大好きです。

かっこいいですよね。ただカタツムリにとっては自分を食べにくる天敵です。こんなのもありますよ。カタツムリが殻を振ってオサムシを追い払おうとする様子なんですが。

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カタツムリも、殻に引きこもっているイメージと違って、意外とアクティブな防御手段をとることもあるのだ。

ーーオオルリオサムシだ!北海道までわざわざ採集に行ったことがあります。

きれいですよね。(筆者に)そうか、オサムシが好きで採集もされるんだ。

ーーええ。採集はほんと、ワクワクしますよね。カタツムリの採集も楽しそうです。やはり、罠などは使わずに目で見て探すんでしょうか?

見て探します。一番何が楽しいって、宝探しみたいに探しに行くのがとにかく楽しいので。落ち葉をごそっと持って帰って、ツルグレン装置(※)で小さなカタツムリを採集するやり方もあるんだけど、あんまりやらないです。探して歩くのがやっぱり一番楽しい。

※土や落ち葉の中に隠れた微小な生き物を、強い光で追い出して集める装置。

ーー採集していて、今までで一番興奮したというか、見つけた瞬間に嬉しかったのはなんですか?

いろいろあるんですけど、日本で1番大きくなるアワマイマイっていうのがいて、それ見つけた時はすごい嬉しかったな。

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日本最大種、アワマイマイ。

ーーすごい、大きいですね!

アワマイマイ自体は、四国のそこそこ広い範囲に分布しているんですが、ある山のてっぺんの神社のゴミ捨て場にいる集団がとくにサイズが大きいと言われてて、僕もその近くの岩場で殻を拾いました。ただかなり状態が悪くて、これは殻の部分も別の方が持っていた標本から型取りさせてもらったレプリカなんです。

カタツムリは死んだ個体を殻だけ拾うことができるから、標本を作るために殺生しなくていいのが嬉しいと思ってたんですけど、いざ探しに行くと野外で落ちている殻はぼろぼろで、結局生体を持って帰るなんて言うことも多いですね。

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アワマイマイとその近縁種たち。

あと、こっちの方が見つけにくいんですけど、イワミマイマイ(上の写真の左下の個体)。系統的にはね、アワマイマイとほとんど同種って言っていいぐらいなんですけど、こっちは生息場所が本州側の中国地方なんです。

それらとは近縁ではないけれど、那智の滝周辺にしかいないナチマイマイというのもいますよ。こっちは4回目の採集でようやく見つけて、このときもかなり嬉しかった。

ーー那智の滝の近くにしかいないカタツムリ......!なんだか神聖な雰囲気さえあります。分布がすごく局所的ですね。

カタツムリは地域性が非常に高いので。例えばこれ、瀬戸内海を中心に広範囲に分布するセトウチマイマイというやつなんですけど、バリエーションがこんなにある。ぱっと見て、同じ種類なの?っていう人もいると思うんですけど。いろんな情報から、これは全部セトウチマイマイっていうことが分かるんです。

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この箱の中は全てセトウチマイマイ。同じ種でも殻や軟体部の模様が全然違う。

これも、ヒメマイマイというカタツムリですが、こっちは殻が盛り上がった形をしてますね。

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ヒメマイマイ。

これが石灰岩質の岩場に行くと、カドバリヒメマイマイという変種になるんです。殻の形が扁平で、全然違う。狭い岩の隙間に入りやすいように、こういう形に進化したのかなとか、いろいろ想像するんですが。

場所によって見られるものが全然変わってくるのが、カタツムリの魅力だと思います。

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カドバリヒメマイマイ。色の違いもさることながら、殻の形が全然違う。

ーー全然ちがいますね。これはそろえたくなる。ポケモンにはまる人と似た心理なのかなという気もします。

カタツムリは日本にだいたい800種類ぐらいいるって言われてるんですね。ほとんど見分けがつかないのもあるんですけど、その800種類をなんとか網羅したいなっていう気持ちがありますね。

話を聞いていて思ったのは、らせん館はただたくさんのカタツムリを集めただけの施設ではないということだ。

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カタツムリを食べるイワサキセダカヘビ。このヘビとカタツムリの食う・食われるの関係は、生き物の進化研究の最前線で注目されている。

これはイワサキセダカヘビという南西諸島に生息する蛇の模型だが、この蛇はカタツムリを食べるために、なんと左右非対称な形に進化した口をもっているのだという。生き物の進化についての最先端の研究内容まで網羅している。河野さん、ただものではないな。

⏩ 国内だけじゃない、海外にも広がるカタツムリの輪

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