アイランダーは年に一回開催される
日本全国の“離島”が出展するイベント「アイランダー」は、国土交通省と、公益財団法人日本離島センターが主催している。この「日本離島センター」は、日本の離島の振興を推進する団体で、私は以前、『SHIMADAS(シマダス)』という日本の離島情報を網羅した本にについて、取材させてもらったことがある。
ページをめくれどめくれど島の細かいデータが載っていて、自分が知らない島について想像を膨らませられるのが楽しくて仕方ない。そんな『SHIMADAS(シマダス)』のことは以前の記事を参照していただくとして、すごい労力をかけてそんな本を編纂するほど、日本の離島を知り尽くしているのが日本離島センターなのである。
その日本離島センターが全面的にバックアップしているイベントだけに、「アイランダー」は、国内で開催されている離島関係のイベントとしては最大規模のものとなっている。
そもそも、離島の出身だったり、そこで暮らしていたり、あるいは特定の島が好きでよく行くという人を除き、離島について知ることができる機会は限られていると思う。
それが「アイランダー」に行けば、向こうからたくさんの島の方が来て、島のことをPRしてくれるのである。なんというか、こんな楽をしていいのだろうかと思ってしまうほどだ。
私は大阪に住んでいるが、離島ひとつひとつを訪ねることに比べたら、東京に行く苦労など微々たるものだ。というわけで、二日間あるイベント日程のうち、2024年11月16日(土)の方に参加することにしたのであった。
オープンの10時とほぼ同時に会場へと足を踏み入れると、会場の奥の方から太鼓を叩く迫力のある音が聞こえてくる。急いでそっちへ向かってみると、八丈島の郷土芸能である八丈太鼓の演奏が行われているのだった。
会場のステージコーナーではこの八丈太鼓や島の民謡の演奏があったり、離島にまつわる様々なテーマについてのトークセッションがあったりして、常に何らかのプログラムが用意されている感じで気になるものばかりだった。
どの島のブースもそれぞれに個性があって楽しい
会場には86ものブースが出展しているのだが、これがもう、一つ一つそれぞれに工夫を凝らしていて面白い。大きく分けると、特産品などを販売しているブース、アトラクション的な体験コーナーを用意しているブース、移住相談などのPRに注力しているブースの3つという感じだ。
最初になんとなく目に入った大分県の「深島・屋形島」という島のブースで聞いたところによると、深島の島民は11人だけで、今日はそのうちほぼ半数が会場に来ているとのこと。
このブースでは深島の名産品である「深島みそ」や島の猫の写真を集めたZINEなどが売られていた。深島みそは島のおばあちゃんたちの間で代々受け継がれてきたものを、今も製法を守って作っているのだとか。試食させてもらったのだが、深い甘みのある美味しい麦みそで、もちろん買って帰ることにした。
私のような酒好きにとっても嬉しいのが、島で作られているお酒の試飲ができるブースがいくつもあったこと。たとえば伊豆諸島に属する青ヶ島には「青酎」という、島で手作りされている芋焼酎があるのだが、同じラベルのものでも焼酎を仕込む杜氏の一人一人によって味が違うという。「青ヶ島」ブースでは、その青酎を試飲することができた。
なるほど、インパクトのある香り高さは共通しているように思えるが後味の残り方がそれぞれに違って飲み比べが楽しい。また、「壱岐島」ブースには島で作られている壱岐焼酎のたくさんの銘柄が用意され、ここでも太っ腹に試飲させてくれるのだった。
島のことを全然知らなかったと気づかされる
愛媛県新居浜市の「大島」のブースでは「七福芋」というサツマイモの品種がPRされていた。
聞かせてもらったお話によれば、この七福芋は糖度が15%もあってメロン並みに甘く、食感がねっとりしていてスイーツ作りに最適なのだとか。
大島で栽培された七福芋は新居浜市内のお菓子屋さんなどと連携してプリンやケーキになって販売されているそう。私も七福芋を使ったスイートポテトを試食させていただいたのだが、自然の恵みという感じのする深い甘さがあって、とても美味しかった。
石川県輪島市の舳倉島のブースも出ていて、冷凍のふぐやわかめ、もずくなどを販売していた。
2024年1月1日に発生した能登半島地震で津波の被害を受けた舳倉島。幸いにも犠牲者は出ずに済んだものの、被害は大きく、港を従来通り使うことができないため、漁も再開できていないとのことだった。
ブースの周辺には津波被害の模様を撮影した写真パネルも掲示され、こんな状況でもブースを出してくれたことにありがたさを感じた。
また、鹿児島県に属する竹島、硫黄島、黒島の三島で構成される「三島村」のブースでは「しおかぜ留学」という留学制度について解説してもらった。
三島村では1997年から「しおかぜ留学」という制度をスタートし、小学4年生から中学3年生までの児童を受け入れているのだそう。留学してくる子どもたちにとっては、都会の学校とは違った環境でのびのびと学ぶことができ、また、島の人たちにとっても子どもが島に増えることが活気につながるのだとか。
また、この留学制度のおかげもあって島における子どもの割合が増え、「島民の5分の1が子ども」ということでテレビ朝日の『ナニコレ珍百景』に取り上げられたこともあるという。
さらに、三島村はジャンベの島としても有名らしい。あの打楽器のジャンベである。1994年にママディ・ケイタという、ジャンベの神様とも呼ばれる奏者が島に来て、それがきっかけで交流が始まった。島では行事のたびにジャンベが演奏されるようになり、ジャンベスクールが設立され、半年かけてジャンベを学べる「ジャンベ留学」という制度まで設けられているという。
と、こんな話を聞くにつれ、日本の島について自分が知っていることがほとんどないということに気づかされる。海に囲まれた離島の中で、特有の文化が生まれ、それぞれに魅力を持っているのに、私は勉強不足だ。
また、「しおかぜ留学」の話からも伝わってくる通り、どの島も共通して、島民の少子高齢化と、その先の過疎化という問題に直面していて、いかにその状況を変えていくか試行錯誤しているのだと、そういう現実的な部分についても色々知ることができる。
あれこれ考えながら会場を歩いていると、南大東島民謡の南国らしい美しい旋律がステージの方から聴こえてきた。