特集 2022年5月14日

取扱説明書のイラストは人が描いています!~テクニカルイラストレーターというお仕事

こんにちは、編集部 石川です。
みなさんはテクニカルイラストレーターという職業をご存知でしょうか。

取扱説明書などに書かれている、説明用のイラストというか図というか、あのカチッとした絵を描くお仕事です。

今回はデイリーのライターでありながらプロのテクニカルイラストレーターの顔を持つ、ぬっきぃさんに話を聞きました。

インターネットにラブとコメディを振りまく、たのしいよみものサイトです。

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テクニカルイラストレーター
ぬっきぃ

直近のヒット作

取説のイラストを14年描いているプロが、資料を見ずにイラストを描くとこうなる

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『取扱説明書は命に関わるものなので、資料と実物をいっぱい見て触ってイラストを作成します。資料を見ないで描くと、どうなるか知ってもらおうと思います。』

意識されない職業

石川:
デイリー的にもぬっきぃさんは取扱説明書の人っていうイメージがあるんですけど、さっきいくつか記事を読み返してたら、意外に記事が多くないなと思っていて。説明書関連が。

ぬっきぃ:
そうです。あれ、もしかして忘れてます?石川さん。私に言ったこと。

石川:
えっ!?(笑)

ぬっきぃ:
連発すると飽きられるから、たまににしましょうって。デイリーに書き始めたころです。それを今も忠実に。

石川:
あはは。言ったかも。まさか自分のせいとは。
いやいや、もっと書けっていう話をしたかったんじゃなくて、特技に頼り切ってないのがかっこいいなって言いたかったんです。

ぬっきぃ:
もともとは、記事に出そうとは思ってなかったんです。でも風のうわさで、新人は3個目の記事で執筆継続が決まるって。誰からか覚えてないですけど聞いて。
じゃあ好きなことをやろうって思って、3本目にスカウターの記事を書いたらすごい当たったんです。

プロが描く、ドラゴンボールのスカウターの取扱説明書

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ぬっきぃさん最初の取扱説明書ネタの記事。『取扱説明書の制作に携わっていると、アニメ・漫画に出てくる機械や乗り物を見るたびに「これにも取扱説明書があるだろうな…」と気になってしまいます。』

石川:
結果、大ヒットでしたね。

ぬっきぃ:
びっくりしました。働いてた会社では「こんなの誰も見ない」みたいな、ちょっと冷めた雰囲気があったので。欲されているのか!って思って。

石川:
こういうのを専門で描いてる人がいるって、みんな意識したことがないと思うんですよね。

ぬっきぃ:
そうだと思います。よく、人が書いてるんだねーって。私はイラレで書いてるんですけど。イラレで書いてるんだ!?って驚かれますね。

※イラレ…Adobe Illustrator。イラストを描くソフト。

石川:
製品を作るためのCADデータや図面があって、それを流用してるんだと思ってた。描き下ろすんじゃなくて。

ぬっきぃ:
そういう会社もあるんですけど、無駄な線が出てきてしまったり、データが足りなかったりして、最終的にはどうしても手で描くしかないんです。

石川:
これで初めてそれを知った人がたくさんいますよ。

ぬっきぃ:
知名度が上がったなと思います。私のおかげで。

石川:
職業の地位を上げましたよ。

ぬっきぃ:
なので仕事の相談でも、去年NHKの『万物トリセツショー』っていう番組に関わったんですけど、そのときも「第一人者のぬっきぃさん」みたいな感じで推してくれたりとか。マニュアルの協会みたいなものもあるんですけど、そちらからもけっこうお声をかけていただいて。そういう取説のことがあったら連絡がくるみたいな感じです。今は。

石川:
エバンジェリストだ。

ぬっきぃ:
みたいな感じになってて。先日もテレビに出たんですけど、その収録が終わった1週間後ぐらいに違うテレビ局からもオファーが来たり。世間では注目されているんだなって思います。

石川:
Twitterとかinstagramで毎日テクニカルイラストをアップしたら大人気になるんじゃないですか?

ぬっきぃ:
実は前やっていたんです。シュークリームとかプッカとか、お菓子を取扱説明書風に毎日。でも5個ぐらいあげたらみんな飽きてきちゃって。

石川:
ここへきて「連発すると飽きられるから」の伏線回収だ!手間もかかりますしね。

ぬっきぃ:
それでもお菓子とかは描くの楽ですよ。見て書けばいいので。
スモールライトとかになると漫画を読んでアニメも見て、いろんな角度から見えるシーンを探して……原作のスモールライトはこう、テレビのスモールライトはこう、みたいな。スカウターのときもドラゴンボール全部読みましたし。

石川:
実物として存在するもののほうが楽なんですね。

ぬっきぃ:
どっちでもいけますけど、架空のものだと頭の中で組み立てるしかなくて、なおかつみんなが納得する形にしないといけないので。

石川:
なるほどー。

続・プロが描く、スーパーマリオの取扱説明書

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こちらも実在しないものを描いている記事。『今回はゲームに出てくるアイテムの取説を作ります。私がテクニカルイラストを作成する上での手順も載せていきますよー。』

 

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私とテレビ半分半分

石川:
エバンジェリストといえば、最近もテレビにご出演されてですね。

ぬっきぃ:
そうなんですよ。声がかかりまして。12月の半ばごろでしたっけ。放送は。

石川:
『マツコの知らない世界』。見ましたよ。

ぬっきぃ:
ありがとうございます。どうでした?

石川:
面白かったですよ。ぬっきぃさんの、僕も知らない一面が見えて。「僕も知らない一面が」って、どれだけ知ってんだって話ですけど。

ぬっきぃ:
でも長い付き合いですよね。6年ぐらいとか。

石川:
ぬっきぃさん最初から僕が担当させてもらってますもんね。

ぬっきぃ:
そうですそうです。ありがとうございます。こんなに長い付き合いなのに知らなかった一面が。

石川:
知らなかったし、全然記事になるなって。例えば、いろんな取扱説明書を集めて、ここがいいとかあそこがいいとかレビューして楽しんでるみたいな話をされてたじゃないですか。

ぬっきぃ:
あれは半分テレビ的なキャラづくりですね。一応集めてはいるんですけど、レビューみたいなのは、同業者として公言するのもどうかと思って。

石川:
あれは即、記事にしてもらえるなと思ったんですけど、あんまりおおっぴらには言えないってことか。

ぬっきぃ:
キャラづくりと半分半分って感じですね。私とテレビ半分半分。

石川:
どおりで知らない一面だと思った。収録は台本がきっちりあるんですか?

ぬっきぃ:
きっちりありました。何回もリハーサルもして、放送で見えないところに大人が10人15人ぐらいいるんですね。緊張しちゃいます。

石川:
テレビってめちゃめちゃカンペ出ません?

ぬっきぃ:
本当に重要なところしか出なくて、ほぼ覚えてくださいっていうのを直前に言われて、覚えるけど本番全部飛ぶっていう。さっきまで出てたじゃないですか!っていう感じで。なのでド緊張していました。

石川:
台本って事前に渡されて覚えてくるんですか?

ぬっきぃ:
はい。読み合わせみたいな感じを何回かやって、もうちょっと足そうか、なくそうかって、けっこうがっつり。

石川:
そこまでやるんだ。そんなちゃんとしたのあんまりやったことないですね。

ぬっきぃ:
石川さん出た番組はリハとかしなかったですか?

石川:
僕は一番ガッツリ出たのがNHKの『サイエンスZERO』のゲストなんですけど、そのときも台本はあって、ひととおりは読んだけど割とぶっつけでしたね。

ぬっきぃ:
へー!

石川:
その場で考えた自然なコメントを、みたいな感じでしたよ。

ぬっきぃ:
こっちは全面的に、ここではこの発言をって感じで決まってて。でも本番マツコさんがリハにないことを言ってくるので、あわわってなって答えたりとかはしました。

レシピや昔話を取扱説明書風に1枚でまとめる

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テレビの話が続いてますが。いったん記事紹介。『「レシピを1枚絵にまとめたら便利では?!」と考え、得意な取説風で紙1枚にまとめてみました。』

 

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取扱説明書が好きすぎて転職?

※テレビの話が続きます。

ぬっきぃ:
取扱説明書が好きすぎて転職したくらいの勢いがほしいって言われて。ちょうど収録のとき、フリーランスやめて就職たばっかりだったんですよ。最後に「就職しました」っていう話をしたんです。でも辞めて今はまたフリーランスになった。

石川:
あはは。放送時点でもう辞めてたみたいな話じゃなかったでしたっけ。

ぬっきぃ:
収録が11月の頭だったんですね。で、辞めたのが11月の25日だったかな。なので、ここからだ!っていうときに収録して。

石川:
放送時点ではやめてたと。

ぬっきぃ:
会社と行き違いがあって。契約社員で、短いながらに円満退職ではあったんですけどね。

石川:
いろいろありますからね。

ぬっきぃ:
やめたことSNSには書いてたので、記事の反響に、会社辞めて何やってるんだって書かれてたりしてましたね。天井をつつくやつ。

石川:
忍者のね。

天井裏の曲者を棒で突きたかった

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「む。上から視線を感じる……」と、天井を見ると曲者(くせもの)が! 「何奴?!」と棒で曲者を突くやつをやりたかったのでやってみました。

ぬっきぃ:
会社辞めて何やってんだって書いてあったので。

石川:
忍者撃退してるに決まってるだろ、っていう。

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会社員時代の思い出

ぬっきぃ:
その会社とは別なんですけど、昔いた会社の思い出をもとに書いた記事があって。

石川:
ウィルスのやつ?

ぬっきぃ:
はい。会社のパソコンがUSBメモリ経由でウイルス感染したことがあって。

ウィルス感染を防げ!USB危機一髪を作った

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USBメモリーをUSBポートに入れ、データを読み込んだらウィルスに感染。これは剣を樽の穴にさしたら黒ひげが飛び出る黒ひげ危機一発みたいなものじゃないか。

※黒ひげ危機一髪みたいに、いくつかあるUSBポートのハズレの口に刺すと、ウィルス感染のランプがつく工作です

石川:
この下半分が黒ひげ危機一発なんですよね、確か。

ぬっきぃ:
そうです。黒ひげ危機一発のギミックをそのまま拝借して作りました。

石川:
これ面白い記事なんですけど、アイデアが唐突だなと思って。

ぬっきぃ:
これは過去の思い出にもとづいていて。10年以上前の話なんですけど、マニュアル制作会社に勤めているときに、社内独自システムの記憶媒体がフロッピーディスクだったんですよ。

石川:
10年前だとフロッピーディスクなんてもう誰も使ってない時代ですよね。

ぬっきぃ:
ディスクが壊れるとそのへんでは売ってないから、どんどん少なくなっていくんですよ。在庫がなくなるしということでようやくシステムが変わって、USBメモリが使えるようになったぞ!っていった矢先にウイルス感染して大騒ぎに……。

石川:
ぬっきぃさんが?

ぬっきぃ:
違う人です!テクニカルライターさんのほう。

石川:
文章を書く方の人ですね。

ぬっきぃ:
そうですそうです。私はイラストを書く方の人で。大騒ぎになって、けっこうな大人がすごい怒られてたのを見て。その思い出を昇華できたのがこの記事なんです。

石川:
その思い出を。これ2019年だから……

ぬっきぃ:
10年越しぐらいですかね。

石川:
ようやく供養できた。

ぬっきぃ:
あんなに大勢の大人が集まって怒られてるのを見たの初めてですよ。20代前半だったので「会社って怒られるんだ」っていう気持ちをそこで持って。
派手に怒られることってあんまりないじゃないですか。取引先にクレーム来るくらいのことはありますけど、そのくらいで。

石川:
でかい声で怒鳴られたりとか、あまりないですよね。

ぬっきぃ:
ほんとに、パソコンの前に大人が何人も並ばされて、社長が怒ってるんですよ。

石川:
部活みたいですね。

ぬっきぃ:
どうするんだ!みたいな感じで。なぜなぜ分析ってあるじゃないですか。なぜこうなったのかを5回ぐらい繰り返すやつ。それをやってて、ライターさんの仕事が滞ってたというのもあって、すごい覚えてます。

石川:
あはは。今となってはいい思い出に。


生放送「記事の森」やってます

この対談は、先日放送したトーク配信『樹液でも飲みながら記事を振り返る「記事の森」』から抜粋したものです。番組ではこの2~3倍くらいしゃべってますので、対談をお楽しみいただけた方はぜひアーカイブをどうぞ。


次回は、5/31(火)に配信予定です!ぜひ配信ページでリマインダ登録していただくか、チャンネル登録をお願いします!

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