南インド弁当屋をやっている鹿島さんに案内をしてもらった
今回の案内役は、マサラワーラーというインド料理ケータリングユニットのメンバーである鹿島信治さん。茨城県古河市にある実家の横に作った「SANJAY PARCEL FOOD SHOP」にて、南インドのタミル・ナードゥ州の味を彷彿とさせるミールス弁当の販売もしている。
インドが好き過ぎるためか外見や雰囲気もインド人風で、とても日本語が上手なインド人だとお客さんに間違われることもあるのだとか。
そしてもう一人、マサラワーラーの南インド料理レシピ本「MASALAWALA SOUTH INDIAN COOKBOOK」など、海外の料理や文化を紹介する本を多数出版している阿佐ヶ谷書院の編集者である島田真人さんにも同行いただいた。
鹿島さんは興味を持つとバンバン話しかけるフレンドリーな人で、茨城在住の外国人にも友達が多く、この取材にはうってつけの案内人だ。
ちなみに鹿島さんから指定された取材日は金曜日だったのだが、この曜日が外国文化ツアーではとても大切なことを後に知る。
絶品のチャプリカバーブが食べられるはずだった
10時半に鹿島さんの家を出発。
今日は車の運転を鹿島さんにお任せして、古河市からつくば市にかけての施設や店を巡っていただく。古河からつくばなので大した移動距離ではないのだが、それでも一日ではとても回り切れない程の見どころがあるそうだ。
鹿島:「北関東は特にパキスタン料理の店がたくさんあるけれど、入れ替わりがすごくて、モスク(イスラム教の礼拝堂)とのつながりが強くないと難しいみたい。
古河にもALADDIN(アラジン)というパキスタン料理屋ができたんだけど、ここはオーナーの奥さんが日本人でメニューとかもわかりやすいから、入りやすいんじゃないかな。トイレもきれいだし。
そこもおいしいんだけど、せっかくだから今日はもうちょっとわかりにくい場所を回りましょうか」
そんな話をしつつやってきたのは、坂東市の自動車関連の店が並ぶ街道からちょっと奥に入ったところにある、言われなければまずわからない姿をした、Masjid Umar Bin Khattab(マスジド ウマル ビン ハッターブ)というモスク。
このすぐ横で売られている、チャプリカバーブという挽肉を平べったく焼いたパキスタンのケバブが目当てだったのだが、それを作る料理人が帰国で残念ながら休業中だった。
鹿島:「あー。毎年ラマダンに合わせて帰国しているんですよ。そろそろ帰ってきてもいい頃なんだけどなー」
いきなりの躓きだが、こういった長期休業は外国料理店あるあるなので仕方ない。また今度の楽しみということで。
北インドのヒンドゥー教寺院
鹿島:「次は坂東市内のヒンドゥーの寺院に行きましょうか。ラーマ(ヒンドゥー教の主神)の寺院。この辺りはパンジャーブ州とかの北インド出身の人が多い地域なんですよ」
やってきたのは畑が広がるのどかな地域。駐車場に車を停めると、SHRI RAM NANDIR(シュリ ラム マンディール)と書かれた大きな看板、赤い鳥居のようなもの、本やインドの国旗などが見える。
隣にはインドジャパンフレンズコミュニティーセンターという施設もある。
インド旅行中によく見かけた、花をロープ状につなげた飾りで彩られたゲートをくぐり、建物の中へと進む。
建物中には立派な祭壇があり、私がまだ出会ったことのないタイプの神様が祭られていて、千葉県からやってきたというネパール人の家族がお参りをしていた。
子どもたちはかわいいよそ行きの服を着ている。彼らにとって、ここは特別な場所なのだろう。
鹿島:「中央の弓を持っているのがラーマで、右側は東インド方面で信仰されているジャガンナートという土着の神様。
同じヒンドゥー教でも、南インドの寺院とはちょっと違いますよね」
日本人として生まれてそのまま日本に国に住んでいるのでピンとこないが、はるばる海を渡って移住してきた人々にとっては、こういった場所が心や宗教の拠り所であり、情報交換やコミュニケーションをする公民館であり、そして時として日本との重要な窓口なのだろう。
日本を出てアメリカやブラジルなどへ移民として渡った人達も、こういった自分達の場所を仲間と立ち上げて、その土地に根を張ってがんばってきたのだろうか。
ミンミンゼミとアブラゼミが競うように鳴く声を聞きながら、自分が異国に住んだ場合の心細さを想像する。
イスラム教スンニ派のモスク
鹿島:「この辺りに住んでいる外国人って、なぜかプリウスが好きなんですよね。プリウスに乗っているのはほとんどがパキスタン人とかスリランカ人。やっぱり燃費がいいからなのかな。ここから九州まで無給油で行けるんだって。俺らじゃ高くて買えないけど。
次は坂東市にあるAl Mustafa Masjid(アル ムスタファ マスジド)というモスク。金曜日の昼は礼拝でみんなが集まる日で、その時間になるとすごく混むから早めに行きましょう。
イスラム教はスンニ派とシーア派があって、スンニ派のほうが多くてここもそう。でも常総市にいけばMarkaz Muhammad Allay Muhammad Japan(マーカズ ムハンマド アライ ムハンマド ジャパン)っていうシーア派のモスクもありますよ」
スンニ派にシーア派。過激なニュースでしか聞いたことのない単語が出てきてちょっとドキドキする。ただその宗派はどちらも日本人全体よりもずっと大きな人口を抱えた括りであり、いろんな人がいて当然なのだろう。
モスクは青い平屋の建物で、入口で見学希望だと伝えると丁寧に案内をしてくれた。
対応してくれた方の話によると、この場所は23年前に建てられた茨城県で一番古いモスクで、みんなが集まる金曜礼拝の時間は12時半(この一時間後)とのこと。
訪れるイスラム教徒はパキスタン人が一番多く、インド人、インドネシア人、バグラデシュ人、スリランカ人なども来るそうだ。
多くの人が訪れるという礼拝の様子をちょっと見学したい気持ちもあったが、なにか失礼があるといけないのと、駐車場が混んで礼拝が終わるまで車が出せなくなるらしいので、今日のところは撤収する。
鹿島:「この近くにPameer Mart(パミール マート)っていうパキスタン料理屋があってすごくオススメなんだけど、まだちょっと早いかな。
そろそろ道路向こうの大きな駐車場に売店が出ているはずだから、そっちを見てみましょうか。礼拝でムスリムが集まる金曜日にだけ移動販売があるんですよ」
どういうことだろうと向かってみると、駐車場の入り口付近でビリヤニ、プラオ、ニハリ、ジャレビ、ケバブなどが売られているではないか。まるでバザーだ。先ほど食べられなかったチャプリカバーブもあったので喜んで購入する。
今はまだぽつぽつの客足だが、あと一時間もしないうちに商売が成り立つくらいの人が来るということなのだろう。

