外国人がリクエストする野菜を育てて販売する直売所
茨城県の世界ツアーはまだまだ続く。
鹿島:「次は日本人のおばちゃんがやっている一見普通の野菜の直売所なんですけど、絶対外国人しか使わないような変わったやつがたくさんあるんですよ。俺もよく利用していますけど、なかなかすごいですよ!」
そんな話をしていたら、道路沿いに急にうまい棒の広告が増えてきた。
鹿島:「この辺りにうまい棒を製造しているリスカっていう会社があるんですよ。うまい棒はやおきんだと思っているでしょう。でもやおきんは販売だけで製造はリスカだから」
このあとリスカスパイスという看板を見つけて、もしかしてリスカのスパイスを売っている店では?と向かったが、明らかに小売りしている雰囲気ではなかった。うまい棒味のビリヤニの素とかあると思ったのだが。
常総市はリスカのお膝元らしい。
そんな寄り道をしつつやってきたのは、どこからどう見ても外国っぽさのない野菜や果物の直売所だった。
この時期なら茨城県産のフルーツが並んでいるとしか思えない佇まいだし、店員さんもエプロンをした普通のおばちゃん達なのだが、これが恐るべき品揃えなのである。
案内されなかったら絶対にその特異性に気がつけない、まほら邑農産物直売所。
一番スペースの広い瓜類は私の知らない形状のものがゴロゴロしているし、夏が旬のナスは色も形も様々だし、葉物野菜も見覚えがないやつばかりだし、太いゴボウかと思ったらキャッサバだし、タイのバジルだけでも3種類という幅広さ。
こういうのが欲しい外国人や鹿島さんみたいな人には、きっと宝の山なのだろう。
嬉しそうに外国の野菜を買いまくる鹿島さん。
謎の瓜に囲まれた太いゴボウみたいなやつは早取りのキャッサバだそうだ。マニアックすぎる。
ベトナムコリアンダーは私が知っているコリアンダー(パクチー)と全然違うタデ科の植物。
おばちゃん曰く、タイのバジルはガパオ(ホーリーバジル)、ホーラパ-、メンラックの3種類があり、がんばって名前を覚えたそうだ。
パパイヤの葉っぱかと思ったらキャッサバの葉っぱとのこと。味と使い道がわからな過ぎて購入してしまった。
店のおばちゃんに話を伺ったところ、これらの野菜を育てているのは地元の日本人農家がほとんどとのこと。
30年くらい前、まだマイナーだったパクチーを扱い始めたのが最初で、そこから外国人客の要望に応じていくうちに、このような異国情緒溢れる品揃えになっていったそうだ。
やはりお客さんは外国の方が多く、数えきれない国、聞いたこともない地域の人が買っていくのだとか。あまり自分達では食べないので、味や食べ方を聞かれても答えられないそうだ。そりゃそうだ。
購入した人が食べ方を教えてくれることもあるそうだが、使う調味料やスパイスがまた特殊なので、聞いてもなかなか作れないらしい。
埼玉あたりのハラールショップでも、最近は茨城産の変わった野菜をよく見かけるようになったが、その源流にたどり着いた気持ちだ。
外国の方が次々と買っていく。この辺りに住む移住者達には有名な店なのだろう。
ここでもまた自分が移住した側の立場で考えてしまうのだが、日本では当たり前に食べていたダイコンやハクサイが手に入るということが、どれだけ心強いことだろうか。
これだけの種類を栽培しているということは、農家も直売所もちゃんと利益が出ているはず。地元民と外国人の理想的な関わり方の一つなのではないだろうか。
現在の日本で普通に食べられている野菜も、振り返れば海外からやってきた外来のものが多い。江戸時代まで遡ればトマトもキャベツもブロッコリーも日本人はほとんど食べていなかったのだから、こういった文化交流から新しい定番野菜がまた生まれるのかもしれない。
スリランカ人の仏教寺院
内容が濃すぎてすでに頭がいっぱいだが、まだ時間は午後1時。
なんと出発してから2時間半しか経っていないのである。
急に現れたお城は通称豊田城、常総市地域交流センターだそうだ。
鹿島:「亀仙人街にスリランカのお店があったけど、なぜかこの辺りはスリランカ人が多くて、つくば市には立派な大仏があるスリランカの仏教寺院もあるんですよ。ちょっと寄ってみましょうか」
北インドのヒンドゥー教、イスラム教のシリア派ときて、今度はスリランカの仏教だそうだ。
やってきたのはSri Sambuddhaloka Vihara(スリ サンブッダローカ ビハーラ)。ここもまたすごかった。
私が知っている仏教とはだいぶ違うお寺だ。スリランカは70%が仏教徒らしい。
ご立派な大仏。こういうのは日本で作るのか、あるいは現地から運んでくるのだろうか。
並べられた小さなゾウがかっこいい。
図書館が併設されている。文化施設としての役割も大切なのだろう。
来日したばかりだという若い僧侶がやってきて、建物の中を見せてくれることになった。
よく見ると建物の壁がすごい。
建物の内部。よく見たら人がいてびっくりした。
英語で会話をする鹿島さん。このお寺は15年前に建てられたそうで、日本語を話せる住職もいるそうだ。
鹿島:「どこも基本的に日本人が来るとウェルカムですよね。自分達に興味を持ってくれることはうれしいんじゃないかな。
やっぱり近所の人と交流とかしたいんだと思うよ。みんな日本が好きで来てくれているんだから」
こうしてわざわざ鹿島さんに案内をしてもらっているにも関わらず、積極的に交流できない自分がちょっと恥ずかしかった。
筑波在住のタミル人が集まるための南インド料理店
時刻は午後2時ちょっと前。そろそろお腹も空いてきたので、最後はつくば市にできたばかりだという南インド料理レストランのMAK'S Dining(マークス ダイニング)へ。
これまで訪れた施設や場所とは雰囲気がまったく違う、なんというか新時代のインドを感じさせるお店だった。
タミル人のためにタミル人が作った南インド料理店なのだが、我々が勝手にイメージしているステレオタイプのインドとは毛色が違った。
鹿島:「茨城は南インドの人が少なくて、俺の調査だと古河市にはタミルとケーララが一人ずつしかいなくて寂しいんだけど、つくば市はエンジニアとか研究者をやっているインテリのタミル人が結構いる。
それで自分達が集まれる場所を作るために、数人が共同オーナーになって作ったお店がここで、俺もよく食べに来ているんですよ。夜とかはインド人多めだけど、日本人スタッフもいるからランチタイムとかは日本人客も多いみたい」
日本人だって海外で成功したら、自分達の食べたいものが食べられる店を持ちたいだろう。きっとそういうことなのだ。
仕事でさんざん南インド料理を作っている鹿島さんがわざわざ食べにくるお店というだけで、その味に期待ができるというものだ。
タミル・ナードゥ州はインドの中でも比較的アルコールにおおらかな地域だからか、店内でお酒が飲めるようだ。
壁の絵は職人による手描きではなく、AIが生成したもというのがつくばらしい。
オーナーの親戚である店長。もちろん日本語が通じるしメニューも日本語表記だ。
パロッタ、ミールス、ビリヤニと、自分が店の人だったら「大変だから同じ料理を注文してください!」と言いたくなるようなオーダーも笑顔で受け止めてくれる。どの料理もおいしかった。
これはだいぶ前に、鹿島さんがつくばのタミル人の集まりに呼んでもらったときの写真とのこと。さてどれが鹿島さんでしょう。
食事の後、鹿島さんと友だちであるオーナーの一人が、今日はヒンドゥー教のラクシュミー(仏教の吉祥天)のお祭りだからと、自宅に誘ってくれた。
もちろん鹿島さんという存在があってのことだが、なんだか気にはなるけれど近づくことのできなかった向こう側の世界に一歩踏み込めた感じがしてすごくうれしかった。境界を作っているのは自分のほうで、意外とシームレスなのかもしれない。
新築のきれいな家の玄関前に飾られている神様。
手作りの料理が捧げられたラクシュミーの祭壇。
タマリンドライスと甘いポンガルを出していただいた。
つくば市から鹿島さんの家へ戻る途中、下妻市にあるスーパーマーケットの跡地をリノベーションしたヒンドゥー教寺院にも行ったが、こちらは誰もいなかったので外観だけ見学させいただいた。
とりあえず今日のところはここまで。お疲れさまでした!
SHREE RAM HINDU TEMPLE(スリ ラム ヒンドゥー テンプル)。茨城は気になるところがたくさんあるところだった。
こうして駆け足で巡った茨城にある外国。今日の体験だけで偉そうになにかを言えたりはしないが、こんなにもたくさんの国の人が住んでいて、それがもうそんなに特別なことではないというのがよくわかった。
すべてを理解し合うのは当然無理だが(日本人同士でも外国人同士でも)、せっかくならこの状況がお互いにとってプラスに働いてほしい。同じ方向を向くのが無理だとしても、違う向きになる理由は理解できるはず。
とはいえ日本人にも外国人にもいろんな人がいる。とにかく休業していたチャプリカバーブ屋が復活したら、またすぐにでも訪れたいと思った。
キャッサバの葉っぱは意外と癖がなく、でも歯ごたえがすごくておもしろい野菜だった。
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編集部からのみどころ
ジャガンナートという神様は初見でしたが、お供え物のお下がりがありがたいものであるのは日本でも同じなので急に親近感が出ました。
プリウスが人気、亀仙人街というビル、屋台の料理にコーラがセットになっていること、見どころが多すぎます。
いちばんはフィリピンの食材店の串焼きコーナー。串に刺さっているものはどこの国でもうまい、という偏見があります。(林)