いつかあの食堂に入ってみたいと思った
私が初めて大和上市駅に降りたのは2024年2月のこと。その駅から車に乗って15分ほどの距離にあるラーメン店「ラーメン河」を取材するためだった。
「ラーメン河」は、山あいの細い道沿いにポツンとあって、店の目の前には吉野川が流れている。店主に話を聞いたところ、もともとは愛犬にのびのびと過ごしてもらいたくて自然豊かなこの土地に引っ越してきて、ほぼDIYで築いた建物でたまにラーメンを作って近しい人に振る舞っていたのが、その美味しさから徐々に店っぽくなって、「めちゃくちゃ美味しいラーメンがこんな穴場にある!」と、主にこの辺りをツーリングするバイカーたちから注目され、口コミで広まって人気店となったのだという。
川が目の前にあるから「ラーメン河」。そのロケーションも最高だったし、ラーメンが本当に美味しかった。透き通った淡麗な味わいのスープで、でも、ダシの旨味がとことん深い。店主が元寿司職人で、だしの扱いを探求し続けてきたからだと思われる。
この写真でラーメンの横にあるまぐろ丼も名物で、この店に来た人の多くが両方食べていくという。寿司職人時代から付き合いのある鮮魚店から特に活きのいいまぐろを仕入れて作っているのだとか。ラーメンとまぐろ丼を両方食べたらとても幸せで、実際、物理的にお腹も満たされた。
無事取材は終わり、大和上市駅まで戻って帰りの電車が来るのを待っていた。少し時間があったので駅前を歩いたところ、駅からほど近い場所になんともいい雰囲気の食堂があった。しかも目と鼻の先に2軒。「ひかり食堂」と「だるまや」という店が並んでいる。
どっちもすごくよさそう。どんなメニューがあるんだろう。中華そばとかあったら食べてみたい、瓶ビールを飲みながら。と、思ったがその時はもう、さっきのラーメンとまぐろ丼でお腹がぱんぱんである。すぐに大阪へ引き返さないといけない予定もあり、「いつかまた来よう」と思って写真だけを撮った。
待っていたってそんな「いつか」は来ない
「いつかまた来よう」と思ったのは本当なのだが、「じゃあいつ?」という話である。ぼーっとしていても、大和上市駅の近くで用事が発生することはないだろうし、あるとしたら「ラーメン河、久々に食べに行こう」というものだろう。その時、私は確実に満腹なのでまた食堂に行けないはず。
このままではそんな都合のいい「いつか」は来ないなと思い、あの二軒の食堂で食事することを目的に、大和上市駅にまた行くことにした。昼頃に着くようにして、まずどっちかでお昼を食べ、その後は近くで時間を潰し、もう一軒で夕飯を食べて大阪へ帰るのだ。なんだか楽しそうなプランじゃないかと思えた。
行くことに決めたその日の午前中、大阪市内のターミナル駅・天王寺駅から近鉄線の阿倍野橋駅へと乗り継ぐ。阿倍野橋駅から大和上市駅までは特急料金を払って特急電車に乗っていくこともできるのだが、一日に数本、「観光特急」というさらに特別な車両が走っている。平日は午前10時台に1本、その電車が出るというので、せっかくだしと乗っていく。
「青の交響曲(シンフォニー)」という車輛で、見た目からして高級感がある。
券売機で指定席を取って車内へ。なんだかゴージャスな椅子や車内の雰囲気、特別感にテンションが上がる。
3両編成の電車なのだが、真ん中の2号車はラウンジになっていて、軽食やお酒やグッズなどを販売している。
この電車の限定メニューだという「シンフォニー・ハイボール(下北山育ちジャバラ)」と、おつまみに「大和肉鶏燻製」というのを購入。
奈良県吉野郡の下北山村で育ったものだという柑橘類「ジャバラ」の風味の効いたハイボールも、しっとりした食感で香りのいい鶏肉もとても美味しく、しかも車窓からは流れゆく景色が見え、この時点でもう割と満足だ。
楽しく飲んでいたら案外すぐ到着
11時半頃、大和上市駅に着いた。電車から出た瞬間、セミの声が響き、もわっと暑い空気に包まれて夏。
「そうそう、こんな駅だった」と、前回の訪問から半年ぶりの大和上市駅前を見回す。
駅から徒歩3分ほどの位置にある「ひかり食堂」を目指す。
もう一つの「だるまや」を目指す。
ちなみに、どちらも今日が定休日でないことは調べてあって、営業時間もおおよそだが見当はつけてきた。「今日やってますか?」と事前に電話するのは野暮かと思って、それはしなかったから、まあこういうこともあり得たわけだが、それにしても、両方とも休みか。
見たって仕方ないのだが、店の脇にある食品サンプルが少し見えた。
まあ、見たって食べられないんだ。
ちなみに2軒、こんなに近いんですよ!
と、言ったって仕方ないんだ。