馬喰町「中華料理 帆」のすごいメニュー
以前、久々に東京に帰省したついでに馬喰町の「中華料理 帆」という店へ行った。馬喰町は私の実家のあるあたりからも徒歩で行ける距離で(とはいえ30分近くはかかったのだが)、そこで昼ご飯を食べようと、母親と二人でゆっくり歩いていった。
この店の「エビとトマトの両面かた焼きそば」がすごいらしいという噂を聞き、食べてみたくて私は来たのだった。なのですぐさまそれを注文し、母親は普通にチャーハンを注文した。
しばらくして運ばれてきたのがこれである。
他のお店の名前を出してしまうが、全国的にも支店のたくさんある「梅蘭」のかた焼きそばのような、パリパリに焼き上げられた麺の下に具が収められているスタイルで、そして特徴的なのは、トマトが丸ごとその上に鎮座していることである。
そもそも麺の量がなかなかにたっぷりあって、トマトも大ぶりだ。蒸して湯剥きしてあって、その頂上部分に粉チーズがふりかけられている。
私も「こんなに食べれるかな。というか、そもそもこのトマトと焼きそばの相性はいいんだろうか」などと一瞬不安をおぼえたが、全然大丈夫だった。
スプーンですぐに崩せる柔らかなトマトがパリパリした麺に沁みて、食感を変化させてくれる。そして、何がいいって、トマトの酸味と甘みである。蒸してあるからだろう、トマト特有の酸味(や、ほんの少しのエグみ)は和らいで、むしろ甘みが強調される。
そして、そのほのかな酸味と甘みが、麺の下に収められた旨味たっぷりの餡と絡み、味わいに奥行きを与えてくれるのである。が、肝心の麺の下の餡や具材の写真を私は撮っていなかった。おそらく美味しくて夢中で食べたものと思われる。中身を知りたい方は「中華料理 帆 エビとトマトの両面かた焼きそば」と、検索してみて欲しい。
あの美味しさがずっと忘れられない
私は、それからもよく「エビとトマトの両面かた焼きそば」のことを思い出した。「あれ、いいアイデアだよな」と思う。まず、あの、トマトが一個丸ごとドーンとのっているというインパクトのある見た目だ。
なんというか、もともと何もなかった場所に急に不思議な物体が飛来したみたいな感じ。『メッセージ』というSF映画を見たことがあるのだが、ある日、地球に突如として謎の巨大飛行物体(その形もちょっと不思議なのだ)がやってきて、でもずっとそこにいるだけでしばらくの間はそれがなんだかも、何が目的なんだかもわからなくて怖い……という映画なのだが、それをちょっと思いだす。「赤い球形の飛行物体が急に降り立った!」というような。
誰もがきっとスマホで写真を撮ってSNSにアップしたくなるであろうルックス(私はもちろんアップした)が今の時代に合っていて、そしてそれだけでなく、さっきも書いたが、もちろん最も大事なのが味わいで、酸味と甘みをブーストしてくれるという機能がすごいのだ。
塩気がベースにある料理であれば、そこに蒸しトマトが酸味・甘みを足して、味のレーダーチャートの範囲を広げてくれるのである。というかよく考えたら、トマトってだいたいの料理に合う気がするし。これは当たり前のことなのかもしれない。
とにかく、
・見た目が急に面白くなって
・だいたいの料理の味わいを広げてくれる
という役割を果たしてくれるのだから、もっと色々な料理に活用してもいいのではないだろうか。
空腹をおぼえて目を覚ました遅い朝、冷蔵庫にマルちゃんソース焼きそばとトマトが入っているのを見てパッとひらめいた。焼きそばを作って、トマトをのっけてみよう!
まずはいつも通り、マルちゃんのソース焼きそばを作る。ハムとレタスが冷蔵庫にあったので刻んで入れた。
できたものを皿に盛りつけて、ここまではいつもと同じである。何百回と食べてきたものだ。しかし今日は違う、焼きそばの調理と並行して、トマトを冷蔵庫から取り出していた。
ヘタのところを包丁でくり抜くといいようなのでやってみるが、下手。
ヘタだけでなく、中身もだいぶ切れてしまって、それが包丁の先に乗ったのを、思わずそのまま口に入れようと思ったのだが、ワイルド過ぎるっていうか危険なのでやめて、一度お皿に移して、そっちはそっちで食べた。このトマトはスーパーで割と安く買えたのだが、一時期、1個何百円もするほどに高騰していたことがあって、それを思うと大事に食べたいのだ。
で、大きく削れたものの、まあ、きちんと丸ごとのフォルムは保っているトマトをどうしようかと考えた。「蒸すといいんだろうけど、蒸すって手間だよなー!」と、耐熱皿に移してラップをかけて電子レンジでチンすることにした。2分ぐらいかな?適当である。
さあ、チーンとなったのを焼きそばにいよいよのせてみる。
今一度、これがいつもの焼きそばである。
そこにトマトのUFOが飛来すると……。
うーん。ちょっと思った感じにならなかった。電子レンジでの過熱時間が長すぎたのか、トマトが柔らかくなり過ぎて、もう自立していられない状態。皮をめくるとおそらく中身がさらにてろーんと出てきてしまいそうなので、仕方なくこのままにした。
申し訳程度に、同じく冷蔵庫にあったチーズをふりかけてみて、うーむ、これは決して綺麗な感じとは言えないな……。ただ、トマトをほぐして食べてみると、その美味しさは間違いなかった。
マルちゃん焼きそばのソースのアタックの強い味わいをトマトの甘みがマイルドにしてくれる。大した手間をかけたわけでもないのに、ちょっと工夫した料理の味わいにレベルアップした感がある。
反省点を踏まえてもう一度
翌朝、思った。昨日のあれは美味しかったけど、やはりもう少しトマトを美しい仕上がりにしたい。冷蔵庫の中にレトルトカレーがあったので、今日はカレーで試してみようではないか。
まずはいつも通り、レトルトカレーを表情一つ変えずに作る。
そして同時にトマトを、今日はレンジではなく、鍋で蒸し煮してみる。ヘタの取り方も、YouTubeの動画で見て学習した。
トマトの半分より下までが浸るぐらいの量の水を入れ、弱火でぐつぐつ加熱しながら、蓋をして蒸し煮状態に。たまにおたまで熱湯をトマトの上からかけてやると皮がめくれやすくなる。8分ほど蒸し煮して慎重に取り出す。
そして……
どうだろう!今度はなかなかよくできたのではないだろうか。刻んだバジルもちょっとふりかけて、角度を少し変えて、と。
重要な味の方だが、柔らかトマトがカレーと合わないわけもなく……
これはもう、積極的にあちこちのカレー専門店でやって欲しいほどである。ドライカレーにも合いそうだな。そして、やってみてわかるのだが、トマトを綺麗に蒸し煮するのって結構手間がかかる。改めて「中華料理 帆」の手際の素晴らしさがわかる。