最初に作られた自動ドアは「開き戸」だった
訪れたのは東京都千代田区にあるナブテスコ株式会社。自動ドア国産第1号を開発し、「NABCO(ナブコ)」のブランド名で展開するリーディングカンパニーだ。
ナブコ?という方でも、このステッカーは見たことがあるはず。
「ナブコ」の自動ドアは国内シェア約55%でトップ。国内外の年間生産台数は約8万台で、累計生産台数は250万台を超える。
さらに、この「自動」ステッカーは1968年からほぼ同じデザインで使用されているという。うちの娘は「全部の自動ドアに貼ってあるんじゃないの!?」って言ってた(会社ごとに違うんですよ)
50年以上の歴史があり、日本の自動ドアの約半分が「ナブコ」なのだから、そりゃどっかで目にするわけである。
「自動ドア」と聞くと、左右に開くドアを想像するだろう。お笑い芸人が漫才の中でお店に入るとき「ウィン」と両手を左右に広げる、あの動き。
しかし、国産第1号の自動ドアはその「ウィン」ではないのだという。
森さん 弊社が1956年に開発した一号機は、手動のドアのように開閉する「開き戸」タイプでした。当時、アメリカの会社と技術提携をして開発したもので、海外では今も開き戸タイプが多く使われているんです。
「ウィン」ではなく、「ガチャ」とか「パカッ」とか開く感じである。確かに、どこかの空港でそんな感じに開く自動ドアを見た気がする。
しかし「パカッ」と開くタイプだと、逆方向から来た人は開いたドアにぶつかってしまう。海外は建物がデカいので、入口と出口を分けられるのだけど、狭い日本はそうもいかない。
森さん 今のような「引き戸」タイプが開発されてから、一気に国内でも普及したと聞いています。日本にはもともと、障子やふすまといった「引き戸」の文化がありますから。
森さんは「あのステッカーも、引き戸タイプが生まれてから作ったものなんですよ」と話す。
そうなのだ。あのステッカーが「<自動」「自動>」という形なのも、引き戸タイプが左右に動くからなのだ。物の形には理由があるのである。
その後、引き戸タイプはさらに進化し、二段階に開く「二重引き戸」や、屏風のように開く「折り戸」など、さまざまなタイプが生まれている。
森さん 二重引き戸は、通常の引き戸より1.3倍広く開きます。病院は感染対策のために自動ドアをつけられることが多く、車いすやストレッチャーも通るので、狭い場所で幅広く開くニーズがあるんですよ。
コロナ禍で、新たに自動ドアを設置するケースも多かったそうだ。建物ができたあとに取り付けるとなると、扉を壁に収める構造にするには難しく、今ある廊下の幅でなんとかするしかない。
なかには「スライドグライド」というスペシャルな自動ドアもあったりする。
通常は引き戸だけど、いざという時にさらに開くのだ。変形ロボみたいでかっこいい。
基準の歩行速度は「秒速1メートル」
さて、いよいよ本題である。
僕、歩くのが速いみたいで、よく自動ドアにぶつかっちゃんですよね……。
あのですね……。自動ドアが開く基準というのは、どのように決まってるんでしょう……?
森さん 国土交通省が定めた歩行速度の基準では、ホテルや百貨店は「分速60メートル」とされてまして、自動ドアでも人が歩く速さは「秒速1メートル」を基準としています。
小池さん もちろん場所によって調整は可能で、病院や介護施設などは、もう少しゆっくりだと想定していますね。
秒速1メートルで人が歩いてきて、自動ドアの1メートル手前まで来たとする。あと1秒経つと、その人はさらに1メートル進んで、自動ドアにぶつかってしまう。
そうならないように、センサーの検知エリアの奥行きはドアの手前1メートル以上に、自動ドアが開く速度はオフィスビルなどでは秒速50センチメートルに設定することが推奨されているという。
つまり、人が自動ドアの1メートル手前に来るとセンサーが検知して、左右のドアを秒速50センチメートルで開け始めるのだ。
つまりその……。僕は秒速1メートル以上で自動ドアに向かっているわけですね……。
森さん そうですね(笑)。男性は早歩きされる方も多いので、多くの人が出入りする場所などは、センサーの検知エリアを広く調整したりもするんですが……。
小池さん 我々は自動ドアの安全啓発もしていまして……。基本的には、ドアが開いたことを確認してから通ってくださいとお願いしております。
聞けば、2017年に自動ドアに関する安全規格(JIS A 4722)が国で制定されたとのこと。
ナブテスコでもJIS規格に準拠し、すべての人が安心して利用できる自動ドアを目指しているという。
他にも、開くドアにぶつからないよう防護柵を設けたり、ドアに挟まれないようセンサーで検出したりといった安全対策を行っているとか。
小池さん ただ、安全に配慮するあまり、通行の意志のない動きまでセンサーで拾ってしまうと「ムダ開き」が多くなってしまいます。人の導線を踏まえ、通行性と安全性を保てるように、現場ごとにカスタマイズを行っていますね。
カスタマイズされているということは、どこかの自動ドアが早歩きでギリギリ通れたとしても、また別の自動ドアではぶつかってしまうこともあるということ。
どうやら「この速さで通れた」という記憶から、己を過信しすぎていたみたい。今度から目の前のドアをしっかり見ることにします。