手をかざすタイプの自動ドアは上から見ている
センサーの話が出てきたが、自動ドアのセンサーにもいろいろある。

森さん 今はこの光線反射方式のセンサーが主流ですね。近赤外線を照射し、検知エリアに物体が入ったことを検知してドアを開きます。確か、このビルの2階エントランスのものは、無目取付ではなく無目に埋め込むタイプだったはず……。
小池さん この仕事をしていると、街を歩いていても自動ドアをめちゃくちゃ見ちゃうんですよね。動きがおかしいと直したくなったり(笑)

光線反射式は近づくと勝手にドアが開くので便利だけど、人通りが多いところだとセンサーがずっと反応して、ドアが開きっぱなしになってしまう。寒い時期、せっかくの暖房が水の泡だ。
そういうときに便利なのが「タッチ式」である。

そういえば手をかざすだけで開くタイプって、どうやって手が近づいたことを判断しているんだろう。
……と、森さんに聞いてみたら、実際は無目に光線反射式のセンサーがついているらしい。えっ、上から見てるってことですか!?
森さん そうなんです。検知エリアを狭くして、ドアから数センチのところに近づいたら開く仕組みになっています。擬似タッチ方式、という感じですね。
ということは、手をかざす印のところに手を合わせなくても、ドアのどこかに手をかざしたら開くはずである。やってみたい。やってみたいけどこの記事を書くまでそのタイプの自動ドアに巡り会わなかった。悔しい。
自動ドアについているセンサーはまだある。ドアの足元についている、この小さな丸いセンサー。

森さん これは「補助センサー」ですね。閉じるドアに挟まれないよう、ドア周辺に誰もいないことを確認するセンサーです。こちらの補助センサーは光電方式で、自動ドアを横切るように赤外線を照射しています。
安全性にすごく気を配るビルだと、補助センサーを上下2本つけることもあるらしい。自動ドアを観察すれば、施主の気配りまでわかるのだ。

ここで取材に同行していた編集の橋田さんが「そういえば」と思い出した。
橋田 昔の自動ドアは踏んで開けるスイッチだった気がして。子どものころ一生懸命踏んでいた記憶があるんですけど……。これ合ってますか?
小池さん あぁ、マットスイッチですね。踏むことで物理的にスイッチが押される仕組みなので、お子さんが乗っても反応しないことがあったんですよ。小柄な女性が開かない自動ドアの前でジャンプしてた、という逸話も残っていますね。
光線反射式が主流となった現在も、日本にはまだマットスイッチの自動ドアが残っているらしい。「お使いいただいているお客様がいますので、今も保守部品は作っているんです」とのこと。すごい。
自動ドアの設置に6畳1間が必要だった
そういえばブランド名の「ナブコ」の由来ってなんですか?と聞いてみると、これは旧社名である日本エヤーブレーキ株式会社の頭文字なのだとか(NIPPON AIR BRAKE CO.LTD→NABCO)
小池さん もともとは鉄道車両用のエアブレーキを作っていた会社なんです。空気圧の技術を持っていたので、これを自動ドア用にカスタマイズしたんですね。
1956年に誕生した自動ドア国産第1号は、本社西玄関に設置された。珍しいものだし、とりあえず最初は自分とこに付けてみよっか……みたいな感じだろうか。それはちょっとわかる。
ドアが自動的に開くという画期的な商品だったものの、普及には時間がかかったという。
小池さん 高価だったのと、自動ドア用の「部屋」が必要だったんです。空気圧でドアを開けるのに、大きなコンプレッサーを置かなくてはいけなくて。
ドアを開け閉めするためだけに、6畳の部屋を別に用意する必要があったそう。そんな部屋が余っていたら収納とかに使いたい。さすがに「それはちょっと」となっただろう。
その後、開き戸タイプから引き戸タイプに、空圧式から油圧式にと技術的に改良を重ねたことで、取り付けられる場所も増えてきた。
森さん 銀行で採用されたことが大きかったみたいですね。高級感が出るのと、珍しさから集客にもつながったみたいで。銀行に採用されたことで会社の信用にもつながり、自動ドアの認知が広まっていったと聞いています。
病院は衛生面から、工場は生産性の向上から、ホテルは高級感の演出から、それぞれ自動ドアは歓迎された。よかったよかった。
ときは高度成長期。ビルはどんどん建つし、東京オリンピックもあったりして自動ドアの需要は増していく。
……で、そうなると「俺も自動ドアを作る!」という会社も増えてくる。ライバル企業の攻勢である。事実、売上を落とした時期もあったが、全国に販売網やサービス拠点をしっかり作り、難局を乗り切った。
森さん 全国に100ヵ所以上、すべての都道府県にサービス拠点を設けています。自動ドアは毎日使うものですし、外に面する環境に設置しますから、迅速に対応できる体制を整えているんですよ。
確かに、ドアが壊れたのに「修理はあさってです」とか言われたら困っちゃいますもんね。
