「どうだ明るくなったろう」の風刺画
学生時代の歴史の授業は、教科書をペラペラめくって風刺画を眺める時間である。中国分割や釣りの絵を穴が空くほど見たものだ。
今回取り上げる「どうだ明るくなったろう」の絵も教科書に載っている有名な風刺画のひとつ。
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暗がりで靴を探す女性のために、とある成金が百円札に火をつけている様子を描いたものだ。お札は1枚ではなく束だったという。
紙幣に火をつけて燃やすというスカッとした方法でお金持ちアピールができた時代というのは微笑ましい。今はスマホゲームのガチャをしこたま引いてみたり、他人を密室に閉じ込めて賞金を渡したり、持って回ってせわしない。
100万円分の模擬紙幣
成金アピールはけっこうなことだが、あれが本当に明かりになったのかどうかが気になる。まず、熱いだろう。次に、火元があるならそれで照らせばいいじゃないか。
いろいろ引っかかるが、実際にやってみて解像度を上げよう。そういうわけで札勘用の模擬紙幣を買った。
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触ってみると実際のお金とはちがいテカテカした素材だったが、大きさは申し分ない。説明書の熱意あるメッセージに心が痛むが、これを燃やそう。
せいいっぱいの成金スタイル
せっかくなので家にあるもので当時の成金の格好に寄せてみた。
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おかしいところがいくつもありますが、一番おかしいところはどこでしょうか。ランキング形式で発表します。
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それでは、気分も高まったところで財布に模擬紙幣を入れて外に出ます。
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札に火をつける
風刺画では玄関の暗がりを照らしていたが、僕にそんなことはできない。火事を起こしたときに責任が取れないからだ。
あの成金はもしボヤ騒ぎを起こしてもカネですべて解決できるという余裕をアピールしたかったのかもしれない。そう思うと強い。
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外は暗かった。
風刺画では靴を照らすために札に火をつけていたが、確かにこの暗闇の中で靴を探すのは大変だ。靴の色が黒ならなおさらで、なにか明かりが必要というのは頷ける。解像度が上がっていく。
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ここでおもむろに財布から札を取り出す。本物の札はすべて抜いてきたが、なにぶん暗くて不安になる。
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よし、今こそ火をつけて靴を照らそう。
ちなみに僕は小学生のころ区の少年消防クラブに所属していたので、火の取り扱いや消火については心得がある。いま思えばどういうツテで入会するんだそのクラブは。
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それじゃあいきます!着火!make a fire!
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火がついたが、足元を照らすほどの明るさにはならない。これが屋内だとまた違うのかもしれないけれど。あと手元に火があるのがめちゃくちゃ怖い。
火を靴に近づけて照らしてみよう。
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おお、札で靴が照らせた。
札を燃やして靴を探すなら30cmほど近づけなければいけないということが分かった。ためになるサイトである。
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ハウツー・その他
せっかく試したことなので、紙を燃やして辺りを照らすときの知見を共有しておきたい。
まず、束だと火がつきづらいということ。酸素の供給の問題だろうか。少なくとも着火に際しては1枚でのぞんだほうがいい。
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また、火が上がってくると熱くて手を離さざるを得ないのだが、そうするとお札の形がわりかし残るということ。明かりとして使ったあとでも銀行で満額交換してくれそうなくらい残る。
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手の中で燃やしきるにはよっぽど勇気が必要で、それは成金たることの条件のひとつかもしれないと思った。僕はぜんぜんだめでした。
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これも気づきのひとつだが、明かりもつけずに外に出ると月の明るさを感じるのだ。雲で覆われると暗くなり、露出するとまばゆい。お札に火を着けるだの着けないだのは小さなことなのだ。
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ここから
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