読んだよ 2024年9月4日

プロの研究者によるレベル1000のデイリーポータルZ~「みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?」

デイリーポータルZのライター、関係者が愛読している本を語ります。

今回はライターのこーだいさん。レコメンドは「みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?(平凡社新書)

聞き手はまこまこまこっちゃん、拙攻、石川です。

ではこーだいさん、お願いします。

インターネットにラブとコメディを振りまく、たのしいよみものサイトです。

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こーだい:
民俗学の入門書です。

石川:
今回の収録、すごい本のチョイスに偏りがありませんか(笑)

※同じ収録回の記事
地球の歩き方インドの編集者が世界を旅して集めたものたち~ひとりみんぱく
1969年、別に行きたくなかった人によるソ連旅行記~犬が星見た-ロシア旅行

こーだい:
メンバー的に、絶対こうなるだろうなって思ってました(笑)

でも、すごくデイリーポータルZ的なんですよ、これ。

まこ:
へー。

こーだい:
B級グルメのことをひたすら調べたりとか、喫茶店のモーニング文化ばっかりひたすら調べたりとか。

拙攻さんがオランダで船の上で生活してる人の記事を書いてましたけど、日本にも昔、港に船を浮かべて家族で生活してた人たちがいたんですって。その人たちのことをひたすら調べた章もありました。

石川:
そんなのあったんだ。

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船の上の暮らし(p194より引用)

こーだい:
あと、スズキナオさんの記事で大阪のかき船あったじゃないですか。

まこ:
はいはいはい

こーだい:
あれもすごい歴史があったらしくって、昔はたくさんあったけど、今も営業してるのは5か所だけだって書いてあります。

 

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靴に落書きをしてから履く

こーだい:
家庭内で代々伝わっている習慣を調べた章もあります。

例えば「私の家では新品の靴を下ろすときに、靴底に落書きをしてから履くんです」っていう報告があって。やってる本人たちは意味を理解してないんだけど、「母親もそうしてたから」っていう理由で習慣だけがずっと伝わっている。その発祥を突き止めるんです。

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右上の写真。こんなに思い切って汚す(p50-51より引用)

まこ:
えー、すごい。

石川:
それ、突き止まったんですか?

こーだい:
突き止まりましたね。ネタバレしちゃうと、お葬式の時に亡くなった方にまっさらの草履を履かせる習慣があって、新品のきれいな靴はそれを連想させるからなんだそうです。

まこ:
それが変化して、普段も靴に落書きして汚してから履くようになったっていうこと?

こーだい:
そうです。

拙攻:
新品の靴下ろす時って、なんかいろんな作法ありますよね。一回、家の中で履くとか。

まこ:
えー、そうなんや。

こーだい:
家庭ごとにちょっとずつ違う形で定着してて、ライターやマッチで靴底を炙るとこもあるみたいです。これは「悪霊は火を嫌う」という俗信と合体した形ですね。

石川:
そういう事例が何個ぐらい載ってるんですか?

こーだい:
事例の総数はパッとわからないんですけど、「家庭の伝承」とか「大学キャンパスの伝承」とか「B級グルメの発生」とかトピックを立てて、各トピックごとに事例をたくさん収集していて、えっと…目次見ると、そういうトピックが20近くはありますね。

石川:
思ったより多い(笑)

拙攻:
すごい。

石川:
だいたい日本の話?

こーだい:
そうですね。やっぱり自分の足で調べに行かはるんで。日本ですね。

 

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田舎の伝承を集めるだけではない民俗学

こーだい:
この本によると、民俗学がどうやって始まったかっていうと、文化人類学に対抗するような感じで出てきたらしいんですよ。
文化人類学って、帝国主義の国が、その植民地の文化を理解して、どうやって利用するかっていう政策を立てるために始まったらしいんです。

まこ:
なるほど。

こーだい:
で、こっちの民俗学は、どちらかというと辺境とか亜流に属する人たちが、そういう列強の侵略の流れに飲み込まれないように始めたらしいです。自分たち土着の文化をちゃんと残そうという。

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覇権主義(帝国主義)に対抗するための民俗学(p21より引用)

まこ:
うん、うん。

こーだい:
で、著者が言うには、 戦前の日本は国の方針としては帝国主義のやり方を採用したけど、 欧米の帝国主義に飲まれそうになった経験もあるから、文化人類学と民俗学の両方の系譜が生まれたんだそうです。

まこ:
なるほどね。

こーだい:
あと民俗学って、柳田國男とかが有名だと思うんですけど、田舎の伝承とかを集める学問っていうイメージがあるじゃないですか。

石川:
ある。めっちゃある。

こーだい:
でも、それはすごく偏ったイメージらしいんです。

その印象って、戦後間もない頃に、田舎の伝承が都市化の流れでほっとくとどんどん消えるっていうことになって「消える前に集めなきゃ!」って学者たちが焦ったらしいんですよ。日本中にいたアマチュアの愛好家みたいな人たちにも声をかけたりして。

それが現在に至るまでイメージとして尾を引いてるっていう。

まこ:
へ~

こーだい:
実際には田舎とか都会とか関係なく、主流の学問で捉えないようなものを残していこうっていうのが民俗学なんですって。

そういうメインストリームから外れたことを大真面目に調べましょうっていうのが筆者の研究で。ただ民俗学という言葉には田舎の言い伝えを調べる学問っていうイメージが定着しちゃってるから、「正統」に対する「俗」を意味するバナキュラーという言葉をあてることを提唱してます。

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筆者が勤務してる関西学院大学には代々伝わる七不思議があって、そんなのも研究対象にしてるそうです(p55より引用)

 

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江戸時代のデイリーポータルZ

こーだい:
こういう研究は日本にも江戸時代からあったらしくて、「日本随筆大成」っていう何百冊もあるような書物があるんですって。その辺のしょうもないことを真剣に調べるのが好きな人たちがたくさんいたらしいんです。

で、それも図書館で借りられたん、見てみたんですけど、江戸時代のデイリーポータルZって感じで。

石川:
ははは

こーだい:
デイリーでやってるようなことって、すごい歴史があるんだなって思いました。
ところどころペラペラってめくってみたら、「こんな変わった形の野菜があった件」みたいなのとか。

まこ:
それ掘っていったら記事のネタに困らないかもしれないですね。

こーだい:
それはほんとにそう。

まこ:
江戸時代のデジタルリマスターをやっていけばいい。

石川:
現代版をね。

こーだい:
鳥の翼の長さを測って、それを拡大したやつを腕につけて飛んでみようとした男の話とか、あるんです。

石川:
ありそうありそう。デイリーにありそう。

こーだい:
別の本の話にちょっとそれましたけど。この本ぜひ読んでみてください。ほんとに面白い。貸しますよ。

まこ:
じゃあ借りに行きます。

こーだい:
来てください。家近いから(笑)

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